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投票箱か民衆権力か:進むべき道はどちらか?

原文:https://blackrosefed.org/the-ballot-box-or-popular-power-which-way-forward/
原文掲載日:2024年10月27日
著者:フランク゠アスカソとパトリック゠バークマン

ブラックローズ/ローサネグラのメンバー、フランク゠アスカソとパトリック゠バークマンはこの記事で2024年の大統領選挙を巡る現在の複合的情況を検討している。私達の目の前にある「選択肢」は、あからさまな反動の綱領か友好的な顔で虐殺を行う綱領かというものであり、選択肢でも何でもない。しかし、どちらの結果になろうとも、絶望と退却は適切ではない。著者達が主張するように、私達は組織を作り、どのような政治勢力が国家を掌握しようともそれに立ち向かわねばならない。

この記事はブラックローズ/ローサネグラのメンバー個人の見解を述べたものであり、必ずしも連盟全体の見解を反映してはいない。


民主党の大統領候補としてカマラ゠ハリス副大統領がサプライズ登場したことで、2024年の選挙サイクルの性格は劇的に変化したが、その本質は変化していない。進歩的活動家達はすぐに彼女の選挙キャンペーンにボランティアとして参加し始めた。だがそれは実質的な政策の転換からではなく(ハリスはバイデンの親イスラエル・反移民政策を引き継ぐと公約している)、候補者がバイデンではなくなったという単純な事実からである。さらに、ハリスは単一四半期で過去の資金調達記録を全て更新した。この成功は主としてビジネス上の利益シリコンバレーのおかげである。だが、彼女が台頭してから数カ月で、主要な州でトランプへの支持が着実に再安定化している。選挙の結果はまだ予断を許さない。

この選挙戦のデッドヒートは、1つには、虐殺政党とファシズム政党との選択を提示する選挙サイクルのせいでもある。こんなものは選択でも何でもない。これは深刻化する社会危機を招いた公式の一部なのだ。何十年もの間、私達はまさにこれと同じ投票箱算法を受け入れてきた。労働者や抑圧された人々にとって、遥かに悪い結果を食い止めるために、まだましな方を選ぶ。それでも情況はサイクル毎に悪化の一途を辿っている。これが私達全員をファシズム・気候危機・大量虐殺へとゆっくり向かわせるプロセスなのだ。こうした選択肢の中で活動したところで、その軌跡は変わらない。選択肢の外で、選択肢に対抗して活動して初めて、自分達の進路を変えられるのである。

選挙に焦点を当てるよりも、このサイクルから抜け出すために、政治闘争と組織化をより良く理解するための生態系モデルを使うよう提案したい。選挙の年になると、進歩的グループが民主党候補のために活動するよう活動家達に緊急に要請する。しかし、政治活動に従事するグループは一枚岩ではないことを忘れてはならない。私達は、様々な方向性を持つ多様な社会的行為者から成る生態系の一部なのだ。リベラル派・進歩派・その同盟勢力が選挙で政治家を選び、影響を及ぼそうと活動している一方で、反資本主義左派の私達は民衆権力を構築しなければならない。労働者階級の独立した破壊的組織を構築することで、民衆権力は現在の支配階級を譲歩させられるだけでなく、資本主義と国家全体を転覆する可能性も秘めている。その革命的可能性の鍵は、既存の社会的・政治的支配構造の外部で、それに対抗して活動することにある。より大きな生態系の中で自分達の立場を理解することで、選挙の場以外での階級闘争に自分達の活動を再集中するようになる。一方、進歩派の集団は政治家に働き掛け続けるだろう。彼等には選ぶべき候補者がいる。私達には構築すべき民衆権力がある。

ハッキリさせておきたい。社会主義は政治家がどれだけ左寄りかでは測られない。また、私達がどれだけファシズムに近づいているのかは、政治家がどれだけ右寄りかでは測れない。左翼が選挙で勝とうが、右翼が選挙で勝とうが、その後にファシズムは国家を支配してきた。最も重要なのは、民衆が自身を組織し、より良いもののために闘う能力である。11月に誰が選挙に勝とうが、私達の焦点は、共に構築する民衆組織の諸形態にあり続けねばならない。

複合的危機の中の政治的行き詰まり

米国をはじめとする西側諸国の支配階級は深刻な正当性の危機に瀕し続けている。主要な社会制度が労働者の最も基本的なニーズを満たせていないからだ。住宅問題・気候問題・労働問題・医療問題・生活費問題・その他おびただしい数の問題がある。さらに重要なことだが、ガザで--今やレバノンでも--行われている米国が支援した大量虐殺の惨事、そして最高裁判所をはじめとする主要政府諸機関のあからさまな犯罪性が、この正当性の危機を強めているのである。

今回の選挙で、支配階級の様々な部門が危機をどのように管理し、乗り切るのが最善かを巡って争っている。民主党は、資本体制政党としての役割をさらに強固にしている。テクノロジー・金融・ハリウッド・製造業の主要企業と億万長者がハリス候補を支援して寄付しているからだ。より社会民主的傾向を持つ人々は、一方では党の官僚機構のために、他方では敵対的な寄付者層によって締め出されている。その一方で、右派にも支配階級の利害関係者がいる。特に、化石燃料テクノロジー金融関係で、彼等はトランプの運動による政治的暴力・犯罪・収賄・大企業に対する継続的な減税と規制緩和に満足している。トランプ政権時代に得た利益で、彼等は、彼がどんな脅威をもたらそうとも、自分達の利益を脅かさないと確信した。トランプの資金援助者――そして筋金入りのボランティア支持者――の多くは三流の資本家、自動車ディーラーやインターネットをベースとする小売業者のようなプチブル階級である。

米国が支援するガザの大量虐殺とそのレバノンへの拡大は、正当性の危機と政治的行き詰まりを強めている。死者の数が増え、民衆の怒りが高まるにつれ、ガザは政治家を窮地に追い込み続けるだろう。共和党の政治家は、迅速で決定的な軍事的勝利を求めており、トランプはイスラエルに「ケリをつけろ」と呼び掛け、抗議行動を弾圧すると約束している。現職の民主党議員の多くは、新聞の一面から消える低レベルの紛争へ戻るよう望んでいるものの、イスラエルによる民族浄化・占領プロセスの継続を許している。ジョー゠バイデンとカマラ゠ハリスは、人道支援を巡って少しばかり人差し指を振った(非難した)が、イスラエルによる戦争拡大を最後まで断固として支持すると明示した。シオニスト集団と防衛産業の利益団体は、コリ゠ブッシュのような親パレスチナ政治家を追放するキャンペーンに資金提供している。コリ゠ブッシュは親イスラエル集団AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)が数千万ドルを使ったために民主党予備選で敗退した。両党ともイスラエルを手放せない。イスラエルが中東地域における米国の軍事的・外交的政策の中心だからである。

このサイクルでもう一つ重要な争点は、やはり移民である。民主党は右傾化し、共和党の綱領の多くを自分達のものとして採用している。2024年6月、バイデン政権はトランプの厳しい反移民国境政策への反対を撤回し、国境を封鎖し、難民保護を一時停止し、即時送還を可能にする大統領令を発した。パニックに陥った中道派は、自分達が権力の座に留まるのに役立つと考えれば、右翼の政策を採用するだろう。しかし、民主党や欧州の類似政党が過去十年で明らかにしたように、移民問題で右傾化しても選挙における極右の脅威は終わらないのだ。

民主党は中絶の権利の保護を選挙戦の最大争点にしようとしている。2022年のドブス判決は、ロー対ウェイド判決でわずかに残っていた中絶の権利を終わらせ、リプロダクティブ゠ライツを州毎に全く異なる州法に委ねた。保守派が統治する州の多くでは、事実上既に中絶が全面的に禁止されており、ロー判決の無効化は現状を成文化したに過ぎなかった。中絶とトランスジェンダー医療のような身体的自律性への攻撃は、異性愛家父長制と資本主義の共同作業であり、社会的リプロダクションのより厳しい統制を求めている。しかし、中絶の禁止は一般大衆から酷く不評を買っている。ハリスは、いつものごとく、スローガンを維持するのに必要最低限の公約しかしなかった。トランプは、当初はドブス判決と州レベルの中絶禁止について得意げに話していたが、総選挙が近づくにつれて軽視しようとするようになった。共和党全国委員会さえもが、連邦政府による中絶禁止令を40年ぶりに綱領から削除した。選挙結果がどのようなものであろうと、どちらの政党も、この問題を実際に解決する(たとえ彼等が望んでいたとしても)ための、議会の多数派といった類のものを持つことはないだろう。民主党は、議会で多数派を占めていた時に、中絶について何の行動も起こさなかった。ドブス判決以前の力学もそうだったが、大部分の政治家は論争の継続に満足している。資金集めと支持基盤の動員に好都合だからだ。そして、その代償を支払うのは私達なのだ。

こうした危機はすぐにはなくならない。これらは社会的危機の連鎖の一部である。米国の支配的利権は、こうした危機を示している現在の資本主義民主主義と帝国権益の枠組みの中で危機に対処できない。こうした危機は、私達がこの力学から根本的に抜け出せるようになるまで、私達を苦しめ続けるだろう。

何をできるのか:外部での対抗

現状を考えると、投票すべきかどうかの議論は気晴らしであって、多くの熱はあっても光はほとんどない。反資本主義左派の人々は時間・エネルギー・資金を選挙候補者に提供してはならない。民衆権力は国家の外にあり、国家に影響を与え、動かす力を持っている。私達は組織を作り、集団的に行動することで民衆権力の発展・構築に取り組まねばならない。職場・アパート・町内で組織を作ることは重要だが、ここでは、候補者のために戸別訪問するよりも遥かに価値のある現時点での行動指針を5つ(訳註:原文で「five avenues」と書かれているが、3つしかない)紹介しよう。

1.移民労働者を組織化し、反移民弾圧を阻止する

私達は、移民労働者を守り、抑圧を打破できる。移民労働者・不法滞在労働者の割合が高いセクター(例えば、農場・軽工業・外食産業・ギグワーク)で労働組合や労働組合のような集団を作れる。こうした組織を、そして連帯ネットワーク・労働者集団・労働者センター等を結成し、強化しなければならない。移民の多い町内では、ICE(移民税関捜査局)監視団と迅速対応グループを構築し、メンバーは定期的に作戦訓練と情報セキュリティ訓練を受けて準備を整えねばならない。こうしたグループは今も必要だし、ハリスなりトランプなりが政権を取った後も必要であり続けるだろう。国境の取り締まり・拘留・強制送還に関する社会的・物理的インフラは国境からどれほど離れていようとも至る所に露骨に存在している。第一次トランプ政権中に行われた直接行動は、彼等のギアを落とす数多くの方法示している。

2.ガザでの大量虐殺の代償を大きくする

ガザの場合、あらゆるレベルの機関の側で、それらの機関の内部にいる人々と共に組織を作り、急進化することで、無為無策の代償を引き上げられる。このようにして、政治階級内でのシオニストのコンセンサスを破壊できる。私達は、キャンパス占拠・BDSキャンペーン・「パレスチナの労働者」のようなパレスチナ人抵抗グループなど緊急の取り組みを組織できる。重要なことは、最小限要求(「今すぐ停戦せよ」)からイスラエルによるアパルトヘイトともっと全般的なシオニズムへの反対へとレトリックの風潮を変え続けられるということだ。

大量虐殺を支持する諸機関にパレスチナにおける正義のための闘争を直接向けること、これがまさに私達が述べる「外部での対抗」戦略である。頻繁に行われるデモ行進や集会は、新規に政治に関心を持った人々にとっては良い入り口ではあるが、それだけでは、より難しいが効果的な戦術からエネルギーと資源を散逸させてしまう。武器の出荷を阻止し、武器製造を妨害し、大量虐殺の機械を止めれば、直ちに影響を与えられるだろう。新しい情況には新しい戦術が必要だ。私達は、この推移する領域の中で戦術を絶えず再検討しなければならない。

3.ファシズムの基盤を崩す

ファシズム運動の鋭鋒は、移民と抑圧されたジェンダー・セクシュアリティの人々だけでなく、黒人・ラテン系・先住民・アジア系にも向けられている。組織化の取り組みを成功させるには、こうした人々の生きた経験と彼等が属するコミュニティに根差している。民衆教育を通じて、私達は大衆の不満をスケープゴートから真の悪人、資本家と国家という支配階級に向けられるようになる。アナキストは、リベラル派や保守派にはできないやり方で民衆の不満を論じる唯一無二の良い立場にいる。私達は、平易に説得力を持って解放闘争の必要性を語ることで、潜在的な右派支持者と関わらねばならない。

ファシズムの血液はプチブル階級だ。中小企業(地主・レストラン・フランチャイズ・自動車販売店・小売店・ゼネコンなど)の経営者である。自分達の階級を組織しなければならないのと同じように、彼等を、特に、政治的に最も活動的な個々人と企業を混乱させる機会を捉えねばならない。彼等の利益と名声を否定するのである。組織的反対運動を行い、彼等を取引先・顧客・ビジネスパートナー・地元政治家にとって有害なものにする。労働者には職場で労働組合を作るよう、賃借人には賃貸物件のテナント組合を作るよう奨励する。民衆による反対運動を通じて地元と州の商工会議所を弱体化させ、混乱させるのである。

プチブル階級がファシズムの血液だとすれば、警察はその筋肉である。私達は、民衆の反警察感情を強めねばならない。この4年間で、彼等の士気を喪失させる私達の能力は強力だと分かった。テナント組合・労働組合・町内集会といったより大きな大衆レベル組織と繋がり、その傘下で警察監視活動を活性化する。すぐ傍に現れかねないコップ゠シティのようなプロジェクト新たな刑務所建設に反対すべく、調査と組織作りを行う。反対運動が失敗しようとも、上手くやれていれば、反警察感情は長続きする。以下のような反警察の働き掛けを地道に行う:警官の過激な見解を暴露する・警官の虐待行為を強調する・警察による暴力に関する映画上映や対話集会などの公開イベントを開催する・警官の採用や訓練イベントを妨害する。

彼等のジレンマ、私達の好機

米国の政治文化と企業メディアは国家レベルの政治に焦点を当てているが、私達は木を見て森を見逃してはならない。オルガナイザーは周囲の情況をフル活用できるよう活動を調整しなければならない。そのためにも、ブラックローズのメンバーが創っている全国規模の複合的情況分析戦略に加えて、各支部は独自のバージョンを創り、地元の政治的・経済的・社会的情況を検証し、それを使って組織化活動をどこに集中すべきか決定するのである。

格言にもあるように、将軍は常にひとつ前の戦争を戦う準備をする。革命家も大抵、ひとつ前の革命を闘う準備をしている。私達はこの罠にはまってはならない。私達は、支配階級の長所と欠点を--私達自身の長所と欠点も--過去のままではなく、現在あるがままに理解しなければならない。

私達は、常に守勢に立たされるのではなく、永続的変革を勝ち取り、自分達に権能を与える攻撃的な運動を創造すべく現在の諸問題を利用できる。ホワイトハウスにいるのがトランプだろうとハリスだろうと、地勢によって途が変わったとしても、私達が向かって歩く地平は同じだ。

この先数カ月後、数年後に訪れる崩壊・叛乱・可能性の瞬間を想像して欲しい。今この時点で、同僚・隣人・友人と何を準備しておけばよかったと思うだろうか?あなたを止めているのは何だろうか?

闘争の中で、新たな道を切り開き、共により良い未来を築いていこう。

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