サパティスタのシュールな生の闘争--そして反資本主義
原文掲載日:2021年5月20日
原文:https://roarmag.org/essays/zapatista-journey-for-life/
著者:ジョン゠ホロウェイ
サパティスタの派遣団が欧州に向けて航海中である。征服のためではない。他の叛乱者と連絡し、手を組み、闘争に参加するためである。
叛乱副司令官ガレアノによれば、この言葉を、彼等が欧州の大地に足を踏み入れた時にマリホセが話す予定である。彼等は、メヒコを5月3日に出港し、現在、「モンターニャ号」で大西洋を横断している。スペイン沿岸には6月中に到着する予定だ。
マリホセは、「生の旅路」に出発するサパティスタ「第421部隊」メンバー7人--女性4名・男性2名・トランスジェンダー(サパティスタの語彙では「unoa otroa」)1名--の一人である。彼等は、飛行機で欧州に行く他のサパティスタ゠グループと合流し、共に欧州30カ所を旅する予定である。サパティスタは、全大陸で生の闘争を行っている人々と連絡を取る予定であり、今回はその最初の旅である。
なんて素晴らしく、ばかげていて、シュールで、見事なのだろう!なんて気が狂うほど美しいのだろう!
未来の創造に協力する
マリホセの言葉は、1994年1月1日にサパティスタが初めて叛乱を起こして以来、私達がサパティスタと関連付けるようになったユーモア・シンプルさ・理論的深さを兼ね備えている。現在、明らかに危機に陥っている生のために闘うべく、彼等は世界をあべこべにする。叛乱者の世界を発見するために、コロンブスと「コンキスタドレス(征服者)」とは逆方向に航海する。彼等は征服者を見つけ、謝罪を求めに行っているのではない。叛逆者を見つけ、闘争に参加しに行っているのだ。
ここでは帝国主義や植民地主義について語らない。左翼が昔から行ってきたように、社会的対立に領土の定義を押し付けることもない。もっとシンプルで、もっと直接的だ。一つの土地にいる叛逆者達が他の土地の叛逆者達と手を組むのである。これこそが未来を創り出せる唯一の方法だからだ。
そして、招待状だ。チアパスの英雄的先住民族と連帯を示すのではなく--連帯の概念はすぐさま第三者の「彼等」を創り出すから--むしろ、多種多様な土地に生まれた人々が住んでいる土地、一般に欧州として知られる叛逆の大地、Slumil K´ajxemk´opを認識し、創造するための招待状だ。金銭に支配された土地、「金銭帝国」の一部となっている土地--あらゆる大陸で支配し、私達を加速度的に破壊する台風に引きずり込んでいる同じ悪の勢力。支配しているものの、完全には支配していない悪の勢力。なぜなら、欧州大陸は--他の大陸同様--民衆が諦めず、裏切らず、服従しない「叛逆の土地」だからだ。
叛乱は様々な形態を取る。金銭は多くの頭を持ち、それぞれの頭が異なるテロの顔を持つヒュドラだからだ。これらがあれこれ方法を使って多くの苦痛を、苦痛全てを私達に生み出している。個々人の違いを持ったまま私達を団結させている様々な事柄の内から、主要な二つを挙げよう。「私達を世界の痛みにしているもの:女性に対する暴力;様々な情動的・感情的・性的アイデンティティを持つ人々への迫害と侮辱;小児期の消滅;先住民族の大量虐殺;人種差別主義;軍国主義;搾取;排除;自然破壊。」そして「こうした痛みの原因となる一つのシステムの理解。死刑執行人は搾取的で家父長的でピラミッド型で人種差別主義で盗みを働く犯罪システム、つまり資本主義である。」叛逆の大地は、この怪物の様々な顔に対して数多くの闘争を行う土地なのだ。
サパティスタの旅は手を握ろうと手を差し伸べる。指導するためではなく、共有するためだ。手を握る、エネルギーが相互に流れる、閃きもあるかもしれない。ヒュドラを殺す明確な共通闘争経験の交流。学ぶことは教えることであり、教えることは学ぶこと。即興の交流ではなく、長年にわたり存在し、昨年10月にサパティスタがこの計画を初めて公表して以来、多くの人々がとても用心深く準備していた交流の深化である。
彼等の手を取るために手が差し伸べられるだろうし、差し伸べられねばならない。私のような、彼等が最初に姿を現して以来、長年彼等に虜になっている人々やグループは皆そうする。だが、それ以上のものとなるだろうし、そうならねばならない。この狂気の旅は、「常連」を越えて、活動家の世界を越えて、人々と触れ合ってほしいと願う。
噴火を待つ火山
明らかな理由で、昨年、欧州や他の場所で、政治的抗議行動の大きなうねりはほとんどなかった。しかし、窒息感、鬱積した失望感が莫大にある。私達は息ができない。多分、システムが崩壊しつつあり、資本主義は機能していないという意識は大きくなっているのだろう。明確な政治的表現や、自分達がいかなる意味でも「自分達のもの」だという認識の表現は見あたらないかもしれない。多分、ほとんどの人達にとって、当面の主要な関心事は、ある種の正常性へ戻ることなのだろう。その正常性がどれほど有害であろうとも。
それでもなお、資本主義は間違ったシステムだという意識がある。自然の生物多様性を破壊することで、パンデミックを作り出している。パンデミックは数百万人を殺し、世界のほぼ全人口の生活条件を一変させた。次のパンデミックも押し寄せてくるだろう。資本主義の無慈悲な利益追求は気候変動をもたらし、人間の生活と他の数多くの種の生命に多大な影響を既に与えているのだ。
今、多くの親は、自分の子ども達は自分よりも悪い生活条件を経験するだろうと想定している。実際、このシステムの欠陥によって最悪の影響を被っているのは若者達である。
資本主義は失敗だという全世界的意識、このシステムへの信頼を失った人々の世界、窒息と失望の世界がある。火山は噴火を待っているのか?誰にも分からない。火山の上に暮らしながら、私は、いつどのように噴火するのか予想は難しいと分かっている。しかし、コロンビア、そして今はパレスチナ、どちらも過去数日で、鬱積した緊迫状態が持ちうる莫大な力を示している。
これら全てに切迫感がある。サパティスタが1994年元日に蜂起した際、メヒコで彼等を支援する莫大な反応があった。彼等の運動に対して軍の攻撃を止めるよう政府に圧力を掛ける大規模なデモが数多く行われた。しかし、大規模な共感の波は、国家を打倒し、メヒコ社会を一変させるには不充分だった。もし、この反応がもっと大きなものだったら、そのとき以来生じている社会崩壊を止められたかもしれない、と考えずにはいられない。主に若い人達が何十万人と暴力的に殺され、十万人以上が「行方不明」になり、ますます多くの女性達が毎日女性だというだけで殺されている。
欧州で、全世界で、文明の外殻が薄くなっていると知覚されるようになっている。「全てが解体し、中心は自らを保つことができず」、イェイツの詩「再臨」の有名な一節が幾度も引用される。だが、文明を中心から救うことはできない。「文明化された」社会的に受け入れられる社会を創造する唯一の方法は、資本主義の廃絶と別種の相互承認的生活様式の創造だけである。この課題は喫緊のものであり、好機の窓は閉じかかっているのだ。
(訳注:イェイツの引用は、高松雄一編『対訳 イェイツ詩集』岩波文庫、2009年、149ページより)
ばかげた旅
シュールだって?確かに。サパティスタの旅のシュールレアリズムは、飾りではない。彼等の政治の核心に向かっているのだ。幾度も幾度も、サパティスタはその独創的試みで私達を驚かしてきた。だが、これは最も驚くべきものだろう。パンデミックの最中--サパティスタは、メヒコ国家にも他の国家にも先んじて予防的措置を導入し、厳格にそれを遵守している--に、ネットフリックスとの契約をすることなく、最も驚くべき劇を創り出したのだ。彼等は、大西洋を舞台にした。今後、新たに名付けられた--確かに洗礼を受けていない--Slumil K´ajxemk´op大陸の約30カ所の様々な土地が舞台になる。
これは、革命思想をこれまで行きつけなかった場所へと推し進める。生の闘争と資本主義に対する闘争を--生の闘争は資本主義に対する闘争だからだ--新しいシュールな次元に進める。シュールレアリズムが重要なのは、それが資本の論理を破壊し、私達のより良い夢を同じ死のシステムの再生産へと引きずり、引きずり、引きずり込んでいる状態を破壊するからだ。
彼等を読め、読め、読め!彼等が言っていることを読め。この狂気の旅を報告したテクストの六つの章を読むのだ。第六章から第一章へと彼等が発表した順番にだ--当たり前だろう。彼等の航海について何を書いているか読み、彼等のヴィデオと写真を見ろ。そのほとんどを「サパティスタを紡ぐ」で様々な言語で見られる。「コムニサール」のようなサイトで航海についての議論を見守り、彼等に耳を傾けるのだ。
とりわけ、彼等のばかげた旅に参加せよ。参加して、彼等を自分達に参加させるのだ。自分達の闘争と自分達の余りにも現実的すぎる超現実的な火山を共有せよ。誰もが希望を呼吸できるようになる手助けをしてくれるだろう。
この記事の草稿にコメントしてくれた Edith González・Panagiotis Doulos・ Néstor López・Marios Panierakis・Azize Aslan・Eloína Peláez・Lars Stubbe に謝意を表する。
ジョン゠ホロウェイは、Instituto de Ciencias Sociales y Humanidades、Benemérita Universidad Autónoma de Puebla の社会学教授である。彼の著書には、『権力を取らずに世界を変える』(大窪一志・四茂野修訳、同時代社、2009年)『革命---資本主義に亀裂をいれる』(高祖岩三郎・篠原 雅武訳、河出書房新社、2011年)がある。