政治家へのロビー活動は気候問題運動を阻害する
原文掲載日:2021年4月13日
原文:https://roarmag.org/essays/uk-climate-movement-lobbying/
著者:アレックス゠ジェイムズ
気候問題NGOによるロビー活動と国家に対する要望は、英国の気候問題運動を阻害している。私達の闘争は国家と距離を取って組織しなければならない。
1月初頭、労働党党首キア゠スターマーは、気候の非常事態に取り組むという確約をツイートした。そこには、彼が、いくつかの気候問題グループと会議をしている画像が使われていた。この画像からズーム会議の参加者が分かる。王室顧問弁護士と影の内閣メンバー数名が、グリーンピースからWWFまでの主要な野生生物・環境保全に関わるチャリティ団体の人物と共に参加していた。このツイートが示していたのは胡散臭い連中だった。年を取った青白い顔が、自分達は気候変動危機に取り組めるぞと自信満々に微笑んでいた。
このツイートはすぐに嘲笑された。気候問題ストライキを調整している「英国学生気候ネットワーク」の多くが、この会議の参加者は高齢だと指摘し、この労働党党首が気候問題ストライキに参加している学生との会議を拒否した件と対比していた。気候変動危機--それ自体、様々な人種差別暴力を含んでいる人種差別危機--に関わる会議が、白人の「気候問題指導者」で構成されていることの厚かましさを指摘した人達もいた。また、会議から労働党の気候問題指導部が除外され、労働党が「労働党グリーン゠ニューディール」連合の参加を拒否していた点も指摘された。容疑は明らかだった。これらの人々は気候問題運動を代表していなかったのである。
これははっきり示している。スターマーには気候変動に対する熱意がなく、草の根グループとの関わりを拒否している。「労働党グリーン゠ニューディール」の共同創設者クリス゠ソルトマーシュが正しく指摘していたように、ズーム会議に参加したNGOの多くは2019年の気候対策目標を支持していたが、この目標は恥ずかしいほど意欲的ではなく、気候正義に関わる重大な懸念を事実上排除していた。こうした組織は、グローバル正義の問題に関して再三にわたって不充分で、速やかな脱炭素化が必要だという遥かに意欲的な立場を取る「エクスティンクション゠リベリオン(XR)」や「英国学生気候ネットワーク」などによる結集行動に出し抜かれてきた。
しかし、私は、いくつかの気候問題NGOで働き、ボランティアをしてきた者として、このツイートに反応した多くの人達に対して懐疑的である。草の根の声や組織がそこに含まれれば、気候正義運動は政治的に改善するのだろうか。
多くの組織--小規模なものから大規模なものまで、新たなNGOから著名なNGOまで--が議員と関わろうと執着しているが、これは気候問題運動の政治的地平にとって有害である。逆に、戦略的焦点は、集団的権力と意思決定を行う代替諸機構を国家の外で構築することに置くべきである。
役人を口説く
多くの気候問題グループは、成熟期を迎え、抗議行動グループから市民社会組織へと移行し、議員を口説くために職員と資源の一部を使っている。その一環として、規模の大きいグループの中には、政治家(多くの場合、政党の区別はない)と公開会議やプロモーション゠イベントを行っているところもある。しかし、もっと小さなグループであっても、大抵、議員との関係を保つためだけに人を雇ったり、ボランティアを連れてきたりする。こうした活動は、気候問題対策を組織する上で不可欠だと見なされるようになっている。議員との会合は、NGOが成功し、その正当性を主張するための基準となっているのである。
実際、気候問題NGOが重点的に行っている政治家へのロビー活動は、2000年代初頭に本領を発揮した。この時、保守党が自身を社会的にリベラルだと見なすべく気候問題NGOと関わり始めた。デヴィッド゠キャメロンさえもが、北極圏へ旅し、ハスキー犬を抱きしめている写真を撮り、自分が環境保護に献身していると示していた。この旅を手助けしたのは英国WWFだった。
こうした画像は、キャメロンの保守党を支持すると共に、連立政権が自身を「史上最もグリーンな政権」だと示す取り組みも支持していた--英国WWFの長すらも記していたように、この主張は明らかに間違っていると2015年に証明された。当然ながら、NGOが助長した政府のグリーンウォッシングというこの恥ずべき実例の説明責任を取る者はほとんどいなかった。
にも拘わらず、2008年の金融危機の後、そして2010年と2015年の総選挙で保守党が勝利した後に、この戦略は広まり続けた。様々なグループが保守党主導の政府を批判していたものの、多くの著名なNGOはなおも対話形式のアプローチを行い、特定の政策変更を採用するよう国会議員に話し、説得しようとしていた。誰も事を荒立てたくなかったし、国会議員との接点を失いたくなかったのだ。例えば、2020年に、気候変動に無策だった過去10年間を無視して、「気候問題連合」は「今がその時(The Time is Now)」を企画した。これは有権者が「ヴァーチャルでお茶を飲み」に集まり、気候変動について個々の国会議員にロビー活動をする一連のイベントだった。
こうしたイベントは今までにないもののように思えるかもしれないが、これまでと同じロビイスト論理を持ったままである。国会議員と会って話すだけで気候問題対策は生まれるだろう、というわけだ。これは、数多くの実例の一つでしかない。特に、新型コロナウイルスのためにデジタル政治運動に転じていることを考えれば。今日、私達は、資金潤沢な著名NGOが、多大な時間を使って、支援者に弾丸のように次々と国会議員に陳情させ、定型書式の手紙と電子メールを作って選挙事務所に送り、国会議員から支持されたと見せびらかしているのを目にしている。
NGOが、私達の嘆願書を国会議員に持って行って注目してほしいと懇願しようが、私達に選挙事務所の外で写真を取らせようが、「ヴァーチャルでお茶を飲み」にズーム会議に参加するよう躍起になろうが、その根底にある政治変革ビジョンは同じである。政治運動を、民衆の組織化とエンパワメントではなく、一つの事柄に関する当該政治家の意見を変えるために政治家を説得することに退化させているのだ。
気候問題グループがどれほど自分達を「ラジカル」だと示していても、これはリベラルの基本的政治変革モデルである。つまり、議員は、資本と国家に埋め込まれているより深い制度的権力構造とは無関係に、意見のみに基づいて活動していると仮定しているのである。気候正義が課題なのだと国会議員を納得させねばならない・環境正義を解決するには権力の座にある人々に正しい意見を持たせればよい。これが、彼等の誤った論理の前提なのだ。
ロビー活動の呪い
議員にロビー活動を行うという強迫観念には複数の効果がある。ロビー活動に肯定的な面がないと言っているのではない。もちろん、短期的な前進が生まれるかもしれない。しかし、常に政治家への影響追及に集中していると、気候正義運動にとって長期的に有害な効果がある。あるNGOの理事会が認めているように、一旦、議員にロビー活動を行い、影響を与える力を持つと、いくつかの問題が頭をもたげてくる。
NGOがもっと公然たる行動を取る際の--気候正義に賛同する声明を作る場合でさえもの--最大の障害の一つは、チャリティ団体として評判を落としてしまうのではないかという懸念である。チャリティ事業には、それが取りうる「政治的」行動に制限が課せられているからだ。様々な英国司法制度の範囲内でチャリティ団体になれば、税額控除という大きなメリットがある。ただ、その見返りに、政治運動には幅広い制限が課せられる。違反すれば、チャリティ団体としての地位を失い、多くのチャリティ事業で莫大な財政的損失を実際にもたらしかねない。
私が個人的に目にしてきたのだが、過去数年間で何度か、特に選挙の最中に、NGOは訴訟を懸念してプロジェクトを制限したり、認めなかったりしていた。英国国家は、チャリティと選挙に関わる法律を使ってNGOからの批判を押さえつけるかもしれない。だが、政府はもっと穏やかなやり方でNGOを支配下に置ける。政治家との接点をなくすのだ。あるNGOがロビー活動を始めると、接点を失う恐怖によって、環境保護グループが取れる行動だけでなく、結局はグループ内部の駆け引きも制限されてしまう。
ロビイストとして働く専門的スタッフの出現は、NGOの内部構成に大きな変化をもたらす。その仕事は、NGOが持つ特定の政策や研究を支持するよう政治家と直接協働することである。その役割には戦闘的非政治主義がある--なるべく多くの様々な議員に接触し、関わることができなければならないが、その目的以外のことを支持していると思われないようにするのである。社会主義であれアナキズムであれ、急進主義政治運動を公然と擁護すると、政党へのロビー活動が不利になりかねない。
政治家との会合から締め出されてしまう恐怖は、新しい社会運動に保守的態度を定着させる。多分、この最も有名な例は、いくつかの環境保護NGOが2030年頃までの実質ゼロ基準への明言を拒否したことだったろう。XRや「未来のための金曜日」といったグループの中には明言を望んでいた人達がいたのだが。こうした分断を英国でさらに引き起こしているのが、XRの共同創設者ロジャー゠ホーラムの新しいプロジェクト「バーニング゠ピンク」だ。気候変動について何もしていないとしていくつかのNGOの事務所を襲撃しているのである。逆に、XRは最近、右派の全国紙を標的にしているため、いくつかのNGOから非難されている。こうしたNGOは、それを「言論の自由」の問題として扱うというお決まりのでっち上げを受け入れているのだ。国会議員との接点ができると、NGOは、大抵、自分達は他のもっと急進的なグループとは対照的に「分別ある団体」だと証明しようと手のひら返しをするものである。
多分もっと重要なのだろうが、ロビー活動の実質的効果は、政府と代議士のグリーンウォッシングだった。彼等は気候変動危機に断固たる必要な行動をしなかった。キャメロンが北極圏に旅行した件で分かるように、NGOと政府の人物との密な関係は、効果的な気候変動対策よりも、役人の世間体にとって有益なのだ。
ロビー活動から抜け出す
気候問題対策の貴重な資源を政治家へのロビー活動に向けるという決定は、NGOの間に保守的政治アプローチを強化する。このアプローチは気候正義の闘争に反している。しかし、希望がある。XRに対しては多くの真っ当な批判があるものの、彼等は一つの重要な構想を推進している。それは、気候問題政策に対する新たな意思決定機関として市民集会を設立する構想である。市民の気候問題集会は、気候問題オーガナイザーにとって新たな戦略的方向性となる種核を内包している。
政治家に行動を起こすよう求め続けるよりも、国会外の民衆意思決定形態を推進する。権力の座にある人々に訴えるのではなく、民衆権力の追及にエネルギーを注ぐのである。私達は、政治家が決定的行動を起こせないのは、その人が不適切な政党に属しているためでも、不適切な人物だからでもなく、資本主義国家内に埋め込まれた勢力そのものだからだと見なす。逆に、対策を推進する正当性を持つ諸機関を国家の外に創造しようと求めるべきなのだ。
問題は、XRとそれを構成する様々なグループが、この構想を自分達で行うのではなく、未だに英国国家にこうした機関を創造するよう求めている点にある。これでは、国家が好きなように未来の気候問題集会を形成できる余地が作られてしまう。政府に責任を課す力を民衆集会から剥ぎ取り、真の民衆参加の可能性を骨抜きにしてしまう。
仏・英国家はいずれも、気候問題集会を弱体化させ、公的協議プロセスへ変換しようとしている。これはまた別な話ではあるが、国家にとってこうした団体の管理がどれほど緊急のことなのかを示している。様々な運動は、戦闘的気候問題政治に触発された新しい民衆意思決定機関を組織する可能性を自覚しなければならない。そして、それを構築するという長期的で困難が予想される道を歩み始めねばならない。これは、確かに容易な道ではないが、政治家に嘆願し続けるよりも遥かに好ましい。
私はこの文章をペンネームで書いている。私はこれまで環境保護NGOで働き、今後数年間も働き続ける可能性が高いからだ。私と同じような情況にある青年たちは何千人といる。彼等は、大学を辞め、略奪と搾取に基づかない職業に就きたいと願って、環境保護に関わるチャリティ事業や非営利事業で働いている。私達は、資金力を充分持った多くの組織がほとんど効果をあげられていないだけでなく、もっと悪い場合には、そうしたグループが組織作りの障害となっていると分かった。自分達のブランドに執着し、独自に会議を構築せずに、会議の席の確保に執着しているのである。
一般的に言って、私達の仕事は気候崩壊の直接の原因ではないとしても、気候問題運動を確実に阻害している。ボリス゠ジョンソンやキア゠スターマーのような政治指導者は、現代に必要な気候問題対策を策定も実行もしないだろう。だが、多くのNGOはその時間とエネルギーを嘆願に費やし、会合を持とうと望み続けている。どれほどロビー活動を行おうとも、指導者達は最も緊急に必要なことを今すぐ行わない。このことを最終的に理解すれば、気候問題運動はその対策を自分達で行わねばなくなるだろう。この最終段階は、NGO抜きに行わねばならない見込みが高い。この現実をはっきり理解するのが早ければ早いほど、早く始められるのだ。
アレックス゠ジェイムズ
アレックスは、気候変動問題に重点的に取り組んでいる英国のチャリティ゠セクターの労働者である。