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革命的祖国敗北主義とウクライナの戦争:国を超えた連帯の呼び掛け

原文:https://awsm4u.noblogs.org/post/2024/11/23/37/
原文掲載日:2024年11月23日
著者:アオテアロア労働者連帯運動

(訳註:原文には出てきませんが、革命的祖国敗北主義はレーニン主義の概念です。アナキストの文書でレーニン主義概念が出てくるとは思いませんでした。「Revolutionary Defeatism」はウィキペディアに従い「革命的祖国敗北主義」としました。新左翼の革命的敗北主義とは意味が違います。)


ウクライナで進行中の戦争は、世界政治の火種となっており、世界中のアナキスト・社会主義者・反戦活動家の注目を集めている。流血の惨事が続き、あらゆる方面でレトリックがエスカレートする中、アナキストは重大な問いに直面している。私達はどのように対応すべきなのだろうか?20世紀初頭の革命運動から生まれた思想、革命的祖国敗北主義は今回のような帝国主義戦争に対処する上で強力な枠組みを提供する。それは、支配階級間の紛争にいる全ての陣営に反対し、戦争・搾取・苦難を永続させるシステムを解体するよう求めている。

本稿では、革命的祖国敗北主義の諸原則を探求し、それらがウクライナ戦争にどのように当てはまるか分析し、国境を越えた連帯のヴィジョンを概説する。革命的祖国敗北主義は受動的な反対や苦難への無関心を意味するものではない。戦争が二度と出来ない世界を構築すべく積極的に関与するのである。

革命的祖国敗北主義とは何か?

革命的祖国敗北主義は第一次世界大戦の惨禍に対する反応として現れた。革命的社会主義者は、労働者と抑圧された人々は、たとえそれが「防衛」であれ「正義」であれ、政府による戦争活動を支援してはならないと主張した。その代わり、戦争に真っ向から反対し、政府の戦争遂行能力を崩壊させ、帝国主義紛争を革命の機会に変えるよう労働者に呼び掛けたのである。

革命的祖国敗北主義は、支配階級が起こした戦争が庶民の利益になるという考えを否定する。その代わり、労働者を相対峙させる熱烈なナショナリズムに挑戦しつつ、国際連帯を促進しようとしている。

革命的祖国敗北主義の諸原則は現在も同じように通用する。資本主義の競争・資源採掘・地政学的対立が支配する世界で、戦争は避けられない。しかし、私達にとって避けられないものではない。革命的祖国敗北主義は、国民国家の枠組みを拒否し、戦争をより深い問題(国家の存在・国境の存在・資本主義そのものの存在)の症状だと見なすよう私達に問い掛けているのである。

ウクライナ戦争:防衛を装う帝国主義

ウクライナの戦争は大抵、善と悪との単純な対立として描かれる。ウクライナはロシアの侵略から主権を守っているとされる。西側メディアはウクライナの兵士を民主主義の英雄的擁護者として描き、ロシア国家プロパガンダはロシアの行動をNATOの侵略に対する防衛として描く。どちらの物語も、そこに作用しているより深い力学を曖昧にしている。帝国主義権力間の衝突と、その板挟みになるウクライナ民衆だ。

ロシアの帝国主義的野望

ロシアのウクライナ侵攻は疑いもなく帝国主義的行為である。ウラジミール゠プーチンの政府は長年、旧ソヴィエト諸国への影響力を維持しようとしてきた。地政学的に重要で、資源に恵まれているウクライナは重要な標的だった。クレムリンは、侵攻をロシア語圏の住民の防衛・NATO拡大への対応だと位置づけ、ナショナリズムに訴えて侵略を正当化している。

しかし、この戦争はロシア語圏のウクライナ人や一般のロシア人の利益のためではない。ロシア支配階級の利益を確保する戦争であり、労働者階級の兵士達(その多くがダゲスタン共和国とブリヤート共和国のような辺境の地方から徴兵されている)を犠牲にして戦われている。こうした若者達は自分達が選んだわけでもない戦争で死ぬために送り込まれ、一方でロシア国内の反対意見は弾圧で沈黙させられている。

NATOの代理戦争

一方、NATOと西側諸国はウクライナを熱心に支援し、武器と軍事支援をウクライナに殺到させている。ウクライナの主権を守るための支援という建前だが、NATOの関与は独自の帝国主義的利益によるものであることは明らかだ。何十年もの間、NATOはその影響力を東に拡大し、ロシアと敵対し、この地方を不安定化させてきた。緩衝国であるウクライナは、この地政学的対立の戦場となってきた。

米国とその同盟国はこの紛争から莫大な利益を得ている。ウクライナへの武器流入で兵器メーカーは数十億もの大金を稼ぎ出し、西側政府は戦争を利用し、国家安全保障を口実に、軍事費の増加と反対派の弾圧を正当化する。彼等にとって、ウクライナはパートナーではなく駒なのだ。自国の軍隊を危険に曝すことなくロシアを弱体化させる便利な戦場なのだ。

庶民の犠牲

こうした帝国主義勢力の間に挟まれ、ウクライナの民衆は苦難の矢面に立たされている。数百万の人々が避難を余儀なくされ、都市は瓦礫と化し、無数の命が失われている。ロシアとウクライナの労働者階級にとって、この戦争は破壊と死しかもたらさない。そして、世界の他の国々にとって、この戦争は軍国主義の高まり・経済的不安定・絶えず付きまとう世界戦争への進展の脅威をもたらしている。

ウクライナ戦争の革命的祖国敗北主義

革命的祖国敗北主義はNATOとロシアのどちらを選ぶかという誤った二分法を拒否するよう求めている。どちらも帝国主義権力を代表しており、庶民の命よりも自国の利益を優先している。革命的祖国敗北主義はウクライナの苦難に無関心であるとか、戦争に受動的に反対するとかいったことではない。むしろ、紛争を永続させているシステムに積極的に抵抗し、紛争に立ち向かっている草の根運動と連帯するよう求めている。

軍国主義とナショナリズムへの抵抗

革命的祖国敗北主義の重要な信条の一つは、社会の軍国主義化への反対である。これがロシアで意味するのは、徴兵制と戦争を煽る熱狂的ナショナリズムに抵抗することである。ロシアの反戦活動家は、投獄から身体的暴力に至るまで計り知れない危険に直面してきたが、抵抗を続けている。徴兵忌避運動・軍事インフラの破壊工作・反戦抗議行動は、国際連帯に値する信じられないほど勇気ある行為である。

ウクライナでは、革命的祖国敗北主義とは、軍国主義化と西側の支援でのみ勝利が得られるという物語に挑戦することである。だからといって、ウクライナの自衛権を否定しているのではない。NATOへの依存が一般のウクライナ人の利益になるのか、それとも単に暴力の連鎖を定着させるだけなのかを問うているのである。

NATO諸国での革命的祖国敗北主義は、軍事援助と自国社会の軍国主義化への反対を求める。ウクライナのために費やされた数十億もの大金は貧困・医療・気候変動--被害が労働者階級の人々に偏っている--諸問題に対処するために使われたはずだ。この援助に反対することで、平和を支持すると主張しながら利益のために戦争を煽っている政府の欺瞞を暴露するのである。

草の根連帯の構築

革命的祖国敗北主義は戦争に反対しているだけではない。代案の構築でもある。ウクライナ・ロシア・世界各地で、アナキストと反権威主義者は相互扶助ネットワークを組織し、難民を支援し、国家権力に抵抗している。こうした草の根活動は国境を越えた連帯がどのようなものか垣間見せてくれる。

ウクライナでは「オペレーション゠ソリダリティ」のような集団が食料や医療品といった援助を必要としている人に配布している。こうした集団は国家とは無関係に運営され、援助がヒエラルキー型構造で行われねばならないという考えに立ち向かっている。ロシアでは、厳しい弾圧にもかかわらず、反戦活動家が組織を作り、権威主義体制下ですら抵抗は可能だと証明している。

他国のアナキストにとって、連帯とは、こうした活動を物質的に・政治的に支援することを意味する。こうした行動には、相互扶助グループに向けた資金調達・反戦を表明できるプラットフォームの提供・自国の軍国主義に対する直接行動の実施があるだろう。

革命的祖国敗北主義の世界的文脈

ウクライナ戦争は孤立した出来事ではない。暴力と不平等を永続させているグローバル資本主義と帝国主義というより広範なシステムの一部である。革命的祖国敗北主義はこのシステムを理解し、それに抵抗する枠組みを提供する。

資本主義の症状としての戦争

資本主義の下で、戦争は避けられない。諸国家は資源・市場・影響力を巡って争い、支配階級はナショナリズムを利用して自分達の野望の支持を集める。ウクライナ戦争は典型例だ。主権と安全保障の闘争を装った、領土と権力を巡る闘争なのだ。

革命的祖国敗北主義はこの現実を暴露する。表面的物語を超えて物事を見つめ、戦争は、庶民の利益のためではなく、資本主義・帝国主義システムの保持のために行われていると理解するよう問い掛けているのである。

兵器商人の役割

ウクライナ戦争で最も目に余る偽善は、兵器メーカーの役割である。レイセオン社・ロッキード゠マーティン社・BAEシステムズ社のような企業は、この紛争から数十億もの利益を得ている。他者の苦しみから利益を得ているのだ。こうした企業は政府にロビー活動をして、軍事費を増やし、戦争が生み出す利益を確保している。

革命的祖国敗北主義は、この産業に挑戦するよう私達に求めている。兵器見本市への抗議行動から兵器メーカーのサプライチェーンの破壊まで、アナキストは死と破壊から利益を得る企業と対決しなければならない。

戦争のない世界を思い描く

革命的祖国敗北主義は単なる戦争反対ではない。戦争ができない世界の構築に関わっている。このヴィジョンには、紛争を引き起こすシステム--資本主義・帝国主義・国民国家--の解体が必要だ。

国家なき連帯に向けて

アナキズムは国境や国家のない世界というヴィジョンを提示している。そこでは民衆が、ナショナリズムや競争ではなく、相互扶助と共通の人間性に基づいて協力する。革命的祖国敗北主義は、国家とその戦争の正当性を否定しているため、このヴィジョンと一致する

労働者階級の役割

革命的祖国敗北主義は労働者階級による戦争妨害活動の潜在的力を強調している。労働者は兵器製造を拒否し、軍隊の輸送を拒否し、戦争インフラの支援を拒否できる。2021年にイタリアの港湾労働者がイスラエル向けの兵器積み込みを拒否したように、様々な歴史的実例が集団的行動の力を証明している。

教育と組織

戦争のない世界を構築するには長期にわたる教育活動と組織化活動が必要である。革命的祖国敗北主義は、協同組合・労働組合・相互扶助ネットワークといった、国家と企業の権力に対抗できる代替構造の発展を伴わねばならない。


ウクライナの戦争は、帝国主義の破壊的力をまざまざと思い出させる。革命的祖国敗北主義が示す道筋は、連帯と抵抗を支持し、ナショナリズムと軍国主義を拒絶する。

アナキストとして、私達にはこの戦争に反対する責任がある。どちらの側に付くかではなく、戦争を避けられないものにしているシステムに挑戦するのだ。革命的祖国敗北主義は受動的ではない。行動の呼び掛けである。反戦活動家の支援であれ、自国での軍国主義への反対であれ、草の根代案の構築であれ、私達は戦争があり得ない世界を目指して活動しなければならない。

こうした世界への途は、楽ではないが、必要だ。戦争を前にして、団結しよう。各国の市民としてではなく、平和と正義に献身するグローバル゠コミュニティのメンバーとして。

階級戦争以外の戦争は止めろ
NO WAR BUT CLASS WAR