コミュナリズム:解放的代案(2)
生態調和倫理
コミュナリズムは、進化の発展的傾向を反映する一連の社会倫理を持っている。客観的倫理--つまり、私達の想像力が持つ曖昧さの外部に根差し、誰にでも認識できる倫理--が重要である。それが、不公正に対抗するための諸原則を、そして、いかなる支配もない真の自由社会に向けた私達の活動を導く諸原則を提供してくれるからである。
まず、「自然」が何を意味するのか定義してみよう。自然は、それ自体が数百万年にわたり発展してきた歴史である。この累積的発展は過去を包含し、絶え間なく、より幅広い--しかし、統合された--種の多様化へと向かう。人間の出現は、自然に対して新しい領域を導入した。社会的自然である。この種は、本能的行動を超越し、内省的な思考・行動を行う能力を持つ。これは、自然界における他の精神の進化と比べて著しい発展だった。この自由に伴って、人間以外の生物と社会的自然双方に有益なやり方で貢献する能力も、ヒエラルキー型の諸関係で見られるような自然のプロセスに逆らう能力も出現している。(原註2)
多くの人々は、ヒエラルキーは人間以外の自然に存在すると信じているが、この信念は誤りである。ヒエラルキーは制度化された命令-服従システムである。制度は一連の社会関係であり、本能に決定されているのでも特異的なものでもない。制度は解放的にも非人間的にもなり得る。制度は組織され、ある程度安定し、可変的であり、数世代にわたって継続する。ヒエラルキーを創ったのは人間である。よって、社会の外にヒエラルキーはない。私達が「女王」蜂だと考えているものは支配者などではなく、生物学的本能で純粋に行動している動物なのである。私達はライオンを「ジャングルの王」と呼んでいるが、生態系における立場は地面を動く小さな蟻と変わらない。人間は、ヒエラルキー概念を自然に投影してきた。それが人間自身の諸関係の序列を定義し、統制するシステムだからである。(原註3)
必要なのは、人間以外の自然に実際に存在していることを反映した社会倫理の究明である。多様性は本質的価値である。有機体の間に選択の環境的背景を創り出すからだ。動物が選択を行う能力は、種が神経学的・生理学的に発達すればするほど拡大する。同様に、選択は、生態系にいる様々な種の間で行われる相互作用が数の上でも複雑さという点でも増大すると、さらに知覚可能になる。ある動物が行う決定がどれほど原始的であろうとも、自律的方向付けの能力は、人間以外の自然それ自体にある発生期の自由を示している。精神と自由の進化と共に、主観性・個性・創造性・理性が進化する。さらに、現代の進化生物学者は、ピョトール゠クロポトキンの主張を支持している。共生は、一般的に競争と言われているものと同じぐらい、もしくはそれ以上に、不可欠な進化の構成要素なのだ。つまり、この評価から得られるのは、参加型で協力的な進化の観点であって、闘争的な「生存競争」に焦点を当てたヴィクトリア朝の見解ではない。(原註4)
こうした論拠に基づけば、生態調和社会は、非ヒエラルキー型になり、多様性を増加させ、自由の可能性を拡充し、個々人の参加を促し、個々人が各々の主観性と理性的能力を発達させる機会を提供することになろう。こうした社会は、これらの目標を達成する技術基盤を人々に提供しなければならない。同時に、構築される環境は、人間以外の自然との調和的バランスを実現するような形で物理的に組織されねばならない。そして最後に、社会生活の様々な活動に個々人が十全に参加できるよう権能を与える政治システムが存在しなければならないのである。(原註5)
原註2.Bookchin, Murray, Remaking Society (Boston: South End Press, 1990) - p.24-39 (「エコロジーと社会」、藤堂麻里子・戸田清・萩原なつ子 共訳、白水社、1996年、31~52ページ)
・Heller, Chaia, The Ecology of Everyday Life (Montreal, New York, and London: Black Rose Books, 1999) - p.124-140
原註3.Bookchin, Murray, The Ecology of Freedom. 3rd ed. (Oakland, CA and Edinburgh: AK Press, 2005) - p.80-108
原註4.The Ecology of Freedom - p.459.
ここで、ブクチンはウィリアム゠トレイガーの「Symbiosis」(New York: Van Nostrand Reinhold Co., 1970), p.vii を引用している。
・ Kropotkin, Peter, Mutual Aid. 3<sup>rd</sup> ed. (London: Freedom Press, 1987) (「相互扶助論」、大杉栄 訳、同時代社、1996年)
この主題に関する最近のメディア報道については、blogs.scientificamerican.com を参照。
原註5.Bookchin, Murray, The Philosophy of Social Ecology (Montreal and New York: Black Rose Books, 1990) - p.106-131