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「NHK・日本的メディアの内幕」立岩陽一郎著

「NHK・日本的メディアの内幕」立岩陽一郎著・地平社2024年7月発行
著者は1967年生まれ、NHKで社会部記者、海外特派員を経て50歳で退職、現・大阪芸術大学教授、ネットメディ「アインファクト」編集長、フリージャーナリスト。

職員1万人を超える巨大メディア。受信料に支えられる公共放送NHKは、政府、大企業から独立して、真に国民のための報道と番組を目指すべきもの。その内実を元社員の目を通して考える。

NHKの存立基礎となる法律・放送法の第一条は公共の福祉に適合するように規律し、健全な発展を図ると目的規定し、二つの原則を挙げる。一つに国民に最大限普及し、効用をもたらす。二つに放送の不偏不党、真実と自律を保障し、表現の自由を確保する。

第三条には、放送番組は法の定めに基づくものでなければ、何人からも干渉されず規律されないとある。しかし現実はこの目的、制度に反する事件、行為がNHK内部から発生している。

本書で挙げる「指南書」問題。これは2000年5月森総理の神の国発言で紛糾した。総理弁明記者会見の総理側回答につき、官邸記者クラブ所属NHK政治記者が「回答指南書」を作成、指導した問題である。

この内実が週刊誌、テレビで報道され、「記者の矩を超えている」と批判された。しかし結果はむにゃむにゃにされ、NHK会長の全面否定で終了した。この事件でNHK職員として反省の声を挙げたのが本書の著者である。

安倍、菅内閣による番組介入の政治圧力、クローズアップ現代のキャスター交代、かんぽ生命不正販売での経営委員長によるNHKスペシャル番組介入問題、女性記者佐戸未和さん過労死事件対応など、組織的、根本的な問題が多い。
そこにはNHKが持つ内部的課題。政治記者と政治との関わり方である。組織としての協調性がなく、上ばかりをみる忖度態度、過度の組織化、番組作成の責任と権威化という職場風土的問題点がそこにある。

政治記者の特質から政治家への距離感、密着は避けられない。ある人は言う。泥水に潜っても、首を出し、あたりを見渡すこと。政治権力に近づいても、政治の側に自らを置くことはしない見識は最低限必要であろう。

来年2025年は日本で初めて放送局開局、放送開始した1925年から100年の区切りを迎える。この時期にNHKのあり方、報道の政治との距離を見直すに良いときだろう。


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