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「だからあれほど言ったのに」内田樹著
「だからあれほど言ったのに」内田樹著・マガジンハウス新書2024年3月発行
著者は1950年生まれの思想家、武道家。神戸女学院大学名誉教授。
著者は「日本辺境論」の著書で有名な批評家。本書も現代日本に対する警告の書であり、新しい日本人論である。本書は、雑誌、新聞社に投稿した記事、ブログ「内田樹の研究室」に再掲載記事の新書本化である。
第一部は「不自由な国への警告」として、米国従属の日本政府の実態を明らかにする。日本政府は日本国民のためでなく、米国の発展のために存在する。
失われた30年で、一人当たりGDPは韓国に抜かれ、もうじき台湾にも抜かれる見込み。かつてはトップだったのが、2021年に28位まで下落し、現在、更に下落を続ける貧しい国となった。
ダメな組織の特徴は管理、秩序を最優先とする組織をいう。軍隊に「督戦隊」がある。任務は前線から逃げ出した兵士を「戻って戦え、さもないと撃ち殺すぞ」と脅す部隊である。
多くの兵士をこの部隊に向ければ、前線で戦う兵士が減り、軍隊は弱体化する。管理強化は創造性を失わせ、組織を弱体化させる。
豊かな国とは、個人の私有財の多さではない。公共財の多さであり、豊かな共同体である。個人ではない。公共財を「コモン」と呼ぶ、フランスの「コミューン」ドイツの「マルク共同体」である。これがマルクスの「コミューン主義」の原型である。
第二部は「自由に生きるための心得」として、他者の思想から自立の思想を築くべきという。書物の重要性を主張する。三国志の「呉下の阿蒙」士、3日会わざれば、別人となる。故に刮目して相待すべし、学ぶことを重視する。
近年台頭の哲学「加速主義」を批判する。加速主義は資本主義に対する危機感、焦り、賭けの産物の哲学。資本主義を限界まで加速させ、自己崩壊後に資本主義以外の新しい世界を開く方法論。元々は左派革命論がスタートも、最近は右派加速主義が世界に広がりつつある。
日本では、公務員は減らせるだけ減らせ、行政コストは削るを主張する日本維新の会である。強者にきめ細かな行政サービスは不要。過疎地の行政コストは高く、少数へのサービスは諦めると主張。これは新自由主義に近い「強者のイデオロギー」である。
「本を読むことは人が変わることである」著者の言葉が心に残った。江藤淳は日本語の底なしの深淵さ、日本文学の最高峰は上田秋成と心服したという。それを知っただけでもこの本を読んだ価値はある。