「内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実・改正公益通報者保護法で何がかわるのか」奥山俊宏著
「内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実・改正公益通報者保護法で何がかわるのか」奥山俊宏著・朝日新聞出版2022年4月発行
著者は1966年生まれ、朝日新聞入社、編集委員を経て、現在上智大学教授。内部通報研究者としては第一人者である。
兵庫県斎藤元彦知事に対する元幹部局長の内部告発によるパワハラ、当該告発者特定の結果の自殺など、知事の公益通報者保護法の違反が問われている。
本書は、ジャーナリストとして、組織の内部不正告発事件にかかわってきた著者による日本の内部告発者保護法制とその背景にある考え方、理念と思想を明らかにした本である。
公益通報者保護法は2004年6月制定された。この年から28年前1974年、トナミ運輸社員が運送各社の運賃闇カクテルを新聞社に内部告発した。翌月、公取委員会に内部告発した。公取委員会は各社に立ち入り検査を実施。翌年、当該社員は研修所に配置転換された。与えられた仕事は、清掃、草取りなど雑務、その後32年間に渡り閑職に処された。
当該社員は2002年1月、会社を相手取って損害賠償を求める訴訟を提起した。この年の暮れ、「内部告発」は流行語大賞トップテンに選ばれた。2005年2月、地裁は会社に1,356万円支払いを命じる判決を下した。これが「内部告発」のパイオニア的事件である。
2004年同法制定は、内部告発先進国の米国、英国の法制を参考したものである。当時、欧米、日本とも、密告者を卑怯者と忌み嫌う風潮があり、告発者への偏見、価値観の対立、葛藤のジレンマがあった。そのため、内容も実効性に欠け、理念的な法制であった。
その後、内外で不正事件が多発し、内部告発者保護法の実効性、充実が求められた。日本も20年近く経過して、2022年に同法改正が実施された。しかし現実は実効性と事業者利害とのバランスを整える程度で、海外のような厳しい罰則規定、告発者への報奨金支払制は採用されなかった。海外の報奨金は不正行為によって企業が利得した金額の3割とされる。
日本の罰則規定は、通報対応業務従事者に対する守秘義務である。30万以下の罰金、しかも正当な理由あれば、適用除外される。公務員守秘義務が1年以下の懲役、50万以下罰金と比しても甘いと言える。
一方、内部告発整備体制の義務違反は、行政による是正勧告、社名公表、最大で20万以下の過料である。しかも国、地方自治体は対象外である。
令和6年民間企業実態調査によれば、内部通報年間受付件数は、ゼロ件が30%、1~5件が29.3%と、5件以下が6割になっている。
内部告発者は海外では「ホイッスルブロワー」と呼ばれる。笛を吹く人。反則を指摘、止めさせることだが、日本の現状は、告発者保護が十分ではない。その結果、企業、官庁とも不祥事件が絶えない。
今回をチャンスに事業者、自治体ともに実効性のある法改正が必要である。従来の労働者保護中心の労働法的視点より、国民利益中心の社会統治法的視点による改正が必要。とりわけ、先導的立場であるべき自治体で今回発生したことを重く受け取るべきである。
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