「年金官僚・政治、メディア、積立金の翻弄されたエリートたちの記録」和田泰明著
「ルポ年金官僚・政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録」和田泰明著・東洋経済新報社2024年4月発行
著者は1975年生まれ、山陽新聞社、大下英二事務所、週刊ポスト記者を経て、現在週刊文春特派記者。「小池百合子・権力に憑かれた女・ドキュメント東京知事の1400日」の著書がある。
著者はいう。「年金官僚にも本音は存在する。彼らの思惑を推し量り記録していくことで、現行年金制度の本質に迫れる。年金の歴史は、改革の舞台で年金官僚と政治・メディアとの壮絶な攻防があった」と。その中で生まれた「100年安心」の実態を問う。
日本の年金制度は戦前の1941年労働者年金保険法成立が出発点。保険料20年以上納付、55歳より支給。当時の被保険者は350万人、事業所数6万社、積立金余剰は1億4,000万円(現在価値で6860億円)資金が有り余っていた。当時の保険課長は「どんどん積立金を使え!」自主運用を叫んでいた。
1959年4月国民年金法成立、拠出型年金がスタートしたは1961年である。いわゆる「国民皆保険」である。当時、岸内閣の郵政大臣に就任した田中角栄が政治の世界で指導力を発揮し始めていた。田中は1962年に大蔵大臣就任、国民年金給付「1万円年金」を実現する。
その後、年金制度は政治家、年金官僚との攻防の中、社会保険方式か?税方式か?の論争が始まり、当初の「積立金方式」がいつの間にか「賦課方式」に変更されていった。少子高齢化社会に年金制度が対応できなくなったためである。
日本の年金制度は巨大な構造物である。それもよく旅館にみられる建て増しに次ぐ建て増しの建築で複雑怪奇な構造となっている。学者は早急な年金改革を叫ぶ。
しかし年金は巨大な受給者が存在する。改革ではその受給者を制度から放り出すことはできない。ゆえに修正ばかり実行せざるを得ない。ここに改革の基本的な矛盾がある。年金官僚の苦悩もここにある。
さらに年金は医療と異なり、保険料支払いと支給との間に時間差が発生する。ゆえに問題が発生しても対応が遅れになりがちである。さらに現役世代と受給世代との利害が対立する。積立方式に一本化すれば、年金制度における所得再分配機能が失われる。
一方で「年金不信」の動きは止まらない。それは年金改革と国民不安との攻防でもある。過去の壮絶な政治家と官僚たちの攻防ドラマの中にその解決があるのかもしれない。その意味で、本書は年金の歴史と動きを知るに最適な本である。
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