
「脱税の日本史」大村大次郎著
「脱税の日本史」大村大次郎著・宝島社2024年7月発行
著者は元国税調査官。国税局10年間勤務後、現在フリーライター。会計、税務の著書のほか、お金、経済の歴史研究関係の書籍も多い。
国家の歴史は脱税の歴史でもある。本書は脱税の視点から日本史を読み解く。第一章は大化の改新の目的は脱税防止との視点から大和朝廷政権を語る。第2章は平安貴族の統制力の低下から荘園が出現、さらに国司が脱税を蔓延させたと主張する。
第3章では武士の出現で、国家の税金徴収権から行政権まで武士に奪われる過程を解説する。第4章では戦国大名織田信長の圧倒的な経済力と重税徴収によって武力強化する武田信玄との違いを明らかにする。
第5章で江戸時代は脱税の最も少ない時代、農民の税負担は一般に言われるほど厳格でなく、江戸の町人は無税。故に最も安定した時代の300年間、幕藩体制が維持できたと言う。
第6章、明治時代の地租改正で江戸時代の年貢脱税の隠し田の実態が明らかになる。日清、日露戦争継続目的で庶民からの税徴収が多様化した。タバコ税等である。第7章、第9章で戦後、昭和の脱税手法の巧妙化、高度化が進む。
日本史で、中央集権国家の統制力が最も強かった時代は、大化の改新後の大和朝廷である。当時の日本の人口は500万人弱程度、戸籍把握も可能。しかし交通手段ない時代、その統制力は評価できる。
大化の改新では個人の土地私有を否定して、班田収授の法、三世一身の法によって土地を国家が管理し、租庸調の税徴収体制が確立した。
その理由は朝鮮半島における唐・新羅と日本・百済との戦争がその背景にあった。官僚の国司らの管理体制も確立していた。それが平安時代、そして鎌倉時代の武士の出現から中央集権的国家統制が崩壊する過程でもある。そのピークが戦国時代である。
戦国時代が終結、徳川幕府によって日本の混乱がやっと安定化した。しかしそれも明治維新の西洋化、グローバル化で対外戦争の時代へ突入し、昭和の敗戦まで財閥の脱税と庶民の重税時代が続いた。
現代は戦前の財閥の脱税がトヨタらの大企業、政治家による巧妙な脱税の時代になっている。明治時代の財閥と政治家の結合体制が、戦後は大企業と政治との密着体制に変化しただけである。そして民主主義国家との名のもとに両者の密着の暗闇がより一層、見えにくくなっている。
現在、政治資金問題が大きな問題となっているが、国民はその税徴収権力の暗闇に気が付いていない。市民革命を通過していない日本国家の宿命がここにあるだろう。