財政維持か?棚上げか?「財政規律とマクロ経済」
「財政規律とマクロ経済・規律の棚上げと尊守の対立をこえて」齊藤誠著・名古屋大学出版会2023年10月発行
著者は1960年生まれ、名古屋大学経済学部教授。専門はマクロ経済学、金融財政論。
日銀総裁が交代して1年、やっと異次元緩和終了を迎えつつある。その間、財政規律論議は棚上げ状態だった。その理由は膨大な政府債務があっても、「借りっぱなし」状態が可能であり、財政破綻も起こらなかったためである。
マクロ経済学の大きなテーマは規律棚上げ派と規律慎重派の対立だった。「借りぱなし」と「預けぱなし」が永遠に続くものではない。
本書は、戦時中の戦費債務が終戦後の物価高騰で解消された歴史を参考に、現状の財政状態が自律的に解消できない以上、今後の対応策を検討する。
最も重要なのは、「財政規律棚上げレジーム」を維持しながら、少しずつ財政規律回復を進めることである。そのことによって一度限りの物価高騰に抑えることが可能であると言う。
一気の「財政規律回復レジーム」への転換は、金利と物価上昇が続き、ハイパーインフレのリスクがあるためである。従って、財政維持可能性を確保しながら、財政持続可能性を維持することが大切である。
ここで言う財政規律とは、現在の政府債務の残高が基礎的財政収支によって支えられている方向を目指し、努力を重ねる。なぜなら、東京直下地震のような天才の発生リスクも一定程度存在するからである。
そのためには、第一に金利、物価の低位安定均衡を強引に崩さないこと。しかし円安による輸入コスト上昇は国内物価に転嫁させる。理由は輸入価格上昇は一時的で、インフレにはならないからである。
第二に、財政支出のチェック、統制は厳格にすること。それは財政破たん防止目的でなく、納税者、国民による民主主義の基本原則である。
第三に、物価、金利の高騰に対応する「危機対応マニュアル」を作成すること。そのために財政規律回復指向と所得再分配は必須である。
財政規律棚上げ派の財政破綻はしないという「根拠なき安心」の理論に乗せられないこと。即ち、「企業の内部留保を取り崩し、賃金、設備投資に投入せよ」の理論は、国債残高維持と低金利、低物価を破壊させる矛盾に陥る。デフレと財政棚上げは同じコインの裏表である。
反対に財政規律重視派の財政破綻するという「漠然たる不安」にも乗らないこと。「財政破綻するから元に戻すべき」は破綻の可能性を言うだけ、川の流れに逆らっても、結局、流されるだけである。
平和とは「状態」をいう。戦争とは「過程」をいう。人は平和な状態が続くと平和ボケとバカにする。戦争はカッコ良く、平和はダサイという。
財政規律維持の定常は「状態」「平和」である。マイルドなデフレは「過程」「戦争」である。戦争には自己収束性がなく、戦争は自分で後始末ができない。
平和を構築するには智慧と忍耐が戦争以上に必要である。平和を築くのは勇ましさや勇気でなく「文化、文明の力」だろう。
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