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「ガザ、西岸地区、アンマン国境なき医師団を見に行く」・いとうせいこう著

「ガザ、西岸地区、アンマン国境なき医師団を見に行く」・いとうせいこう著・講談社2021年1月発行

著者は1961年生まれ、編集者を経て作家、クリエイターとして活動。三島賞、芥川賞候補になり、野間文芸新人賞、講談社エッセイ賞受賞。

本書は2019年11月、世界の矛盾が凝縮した場所、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、ヨルダンのアンマン再建外科病院を訪れ、紛争被害者を現地インタビュー、紛争地に生きる人たちの困難と希望を等身大で伝える。ドキュメンタリーである。

当時、トランプ大統領はイスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムへ移転させた。これに対し、パレスチナ人によるイスラエル抗議活動「偉大なる帰還のための行進」抗議デモが発生した。イスラエル軍はこれを弾圧、多くの若者が銃撃された。

イスラエル軍はダムダム弾でデモ隊・若者の足を狙って銃撃する。ダムダム弾は足に当たると、弾丸の頭がつぶれ、体内で爆裂、周りの筋肉をえぐり、骨を破壊する。小さく入り、大きく出る特殊な弾丸である。結果、足を切断せざるを得なくなる。

パレスチナ・イスラエル境界線にはおもちゃに似せた爆弾を放置して、パレスチナの子供が拾うと破裂する。多くの子供たちの手足が失われた。銃撃でパレスチナ人を殺害すると、国際非難を受ける。殺さずに打撃を与える目的である。若者、子供たちの治療、医療援助するのが「国境なき医師団」である。

国境なき医師団・略称HSFは、1971年仏の医師とジャーナリストグループで設立された。調整本部をスイスに置き、欧州5ケ国にオペレーション支部、14ケ国にパートナー支部を置く。世界最大の国際的緊急医療団体・非政府組織NGOである。

現在、第三世界、中東紛争地、シリア、パレスチナ、ヨルダンで援助活動を展開する。派遣スタッフ、現地スタッフ合わせて3万8,000人、そのうち非医療スタッフは40%。資金の9割以上が一般個人からの寄付である。1999年、ノーベル平和賞受賞した。

1991年湾岸戦争でのイラク・クルド人援助活動、2003年イラク戦争では米軍のバクダット攻撃中も現地にとどまり、医療活動を実行した。

国際人道法、戦時国際法により、医療施設への攻撃は禁止されている。しかしイスラエルはハマス撲滅の名のもと、病院攻撃を強行する。明らかに国際人道法、戦時国際法違反である。

ガザ地区では3万人以上がイスラエルの爆撃で殺されている。その多くが子供たちである。近年、ガザでは封鎖の壁に登り、イスラエル兵に銃撃される若者が増えている。

それは抗議活動でなく、自殺が目的である。絶望からの自殺。平和な日本では考えられない現実がそこにある。眼をそむけ、沈黙する国際社会に責任はないのだろうか?

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