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「モノ言う株主」の株式市場原論・丸木強著

「モノ言う株主の株式市場原論」丸木強著・中公新書ラクレ2024年5月発行

著者は1959年生まれ、野村證券入社、公債資金調達引受、IPOのアドバイザー業務担当、退職後「村上ファンド」創設メンバー、その後、アクティビストファンド㈱ストラジックキャピタル設立、代表取締役。

現在、日本の株式市場は大きく変わりつつある。2014年スチュアードコード(責任ある機関投資家の諸原則)、2015年コーポレートガバナンスコード(企業統治の諸原則)、2023年「資本コスト株価を意識した経営に向けての対応」(PBR1倍割れ改善要請)の通知など、失われた30年に続く、日本企業成長低迷脱出へ向けて動き始めている。

著者は言う。株式会社の目的は「株主利益の最大化」である。人は言う。いや違う。企業経営の目的は「ステークホルダー経営」である。株主のみならず、取引先、従業員らステークホルダーの満足が優先すると。どちらが正しいか?

ステークホルダーは権利義務を持つ相対契約。従業員は労働と賃金、取引先は債権と債務の対等契約。しかし株主はリスクマネー投入のみ、リスクをすべて自ら負い、企業倒産すればゼロ、一方的契約である。ここにステークホルダー経営の誤謬がある。

ステークホルダーの満足、即ち従業員雇用維持、取引維持のため、企業存続維持自体が目的となり、企業の成長、経済発展の意識が弱い。ここに失われた30年、経済低迷の原因があると著者は言う。

ゾンビ企業存続、雇用維持だけに集中すれば、企業革新、企業投資の意欲も高まらない。企業成長のためにこそ人材育成、賃金引上げが必要なのだ。

経営者は企業存続、将来リスクのために内部蓄積を実行、そして賃金上昇を抑える。その経営手法そのものが日本経済の低迷を生んでいる。それは経営者の自己保身そのものである。古い経営意識の脱皮が必要である。

企業改革の役割が「モノを言う株主」であるアクティビストである。実際、短期収益最大化を狙うアクティビストの数は少ない。多くは中長期、持続的な企業価値、時価総額上昇を目的とする。なぜなら、企業の存在は最大利益の持続性にその目的がある。

「アクビティスト悪者論」が世間に流れているが、現在の株式市場改革、会社法改正は、従来、アクビティビストが主張してきた内容の後追いである。企業経営から見た日本経済再建策として、本書を読み直す価値は十分にあるだろう。

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