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「没落官僚・国家公務員志願者がゼロになる日」中野雅至著

「没落官僚・国家公務員志願者がゼロになる日」中野雅至著・中公新書ラクレ2024年9月発行

著者は1964年生まれ、大和郡山市役所勤務後、旧労働省入省、2004年公募により兵庫県立大学助教授、現在神戸学院大学教授。経済学博士「天下りの研究」など多くの著書がある。

「ブラック霞が関」などと言われキャリア国家公務員の職場環境の過酷さが話題である。優秀な若手が官僚を回避し、志願者数は激減、反対に外資系企業、コンサル会社への就職が増えている。

本書は、悪しき行政改革の結果、警察国家化しつつある現状、先細る天下り、人事権限を利用した影響力の拡大、政治家の下請けで裁量権小さくなった官僚、若手や女性の活躍できない現状などを取り上げている。

現在、日本の官僚は機能不全状態にある。課題として、モチベーションの低下、官僚能力の低下、官邸主導の弊害がある。

その結果、発生するのは法案の不備、予算への悪影響、人材不足である。人的資本の重要性が叫ばれる現在、官僚の世界では反対の方向に進んでいる。その原因は官僚の市場性が民間企業の市場性とマッチしない点にある。

著者はその要因を内閣人事局のシステムと官邸官僚の横暴にあるという。新しく出現したのが報復人事への恐怖と忖度する官僚である。人事権者に媚びを振るのはやむ得ないにしても、国民のために働く官僚が権力者の意向通りに行動する状態は異常である。

政治家の質の低下は直ちに国民生活に影響しない。官僚の能力の低下も同様に明日の生活に直接影響しない。しかし影響が出始めた時にはもう手遅れである。現在の政治状況がそれを証明している。

長時間労働、給料の安さが問題の本質ではなく、官僚の仕事・政策企画立案が現実にできなくなっていることが問題である。エリート官邸官僚が首相、官房長官に意向をかさに独断専行的になっているという。

政治家、官僚ともにその行動をチェックする機能が日本にはなく、両者を規律すべき行動規範を明記したものもない。国会の監視機能、司法の是正機能もない。日本と同じ代議員制の英国では政治家、官僚のスキャンダル発生以降、厳しく国民から監視されている。

英国のように政権交代もない日本では国民のチェック機能も曖昧である。今回、英国政権交代で、保守党支持の国民が民主主義のために今回は労働党に投票したと語っていた。

民主主義、政治的権利を市民が命をかけて自ら勝ち取ってきた歴史を持つ国と棚ぼた式に民主主義が与えられた国との違いだろうか?

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