「平安ミステリー・知れば知るほどおもしろい」市橋章男著

「平安ミステリー・知れば知るほどおもしろい」市橋章男著・角川2024年8月発行

著者は1954年岡崎市生まれ、岡崎長誉館で「おかざき塾歴史教室」主宰開講。専門は中世史。YouTube「なるほど!歴史ミステリー」開講。

大河ドラマ「光る君へ」で源氏物語が人気、藤原道長を新しい視点で見直されている。同時に知られざる平安貴族、女官の生活にも焦点が当たっている。知らないことばかりかもしれない。

網野善彦は「日本の歴史を見直す」で我々の原体験につながる社会への歴史のさかのぼりは室町時代までだと言った。

14世紀の南北朝動乱を転換期として、15世紀以降の社会のあり方は、現在の私たちの常識で十分理解できる。しかし13世紀以前の時代は我々の常識で及びがつかない。全く異質な世界であるという。

その意味で平安時代は本書題名のごとく、まさにミステリーである。結婚一つをとっても、平安時代は男が女の家に通う「通い婚」が普通、足利時代になって夫婦が同居し、妻が夫の家に入る「嫁入り婚」が一般化してきた。

本書にある源氏物語の光源氏のやりたい放題の振る舞い、男女の行動倫理は現代の倫理観では理解できない。「もののあわれ」とは道理に反するが、しかし心が動かされる人間の感情を言う。その意味では現代人より人間らしいのかもしれない。

男性の文章は漢字、女性の文字は平仮名である。男性は恋愛、求婚するために、平仮名の文章で和歌を送る。それなりの教養も必要である。仏教の一遍は平仮名の書状で庶民に布教したという。漢字は公的な組織の文面で使用される。方丈記も漢字と片仮名でつづられた文章である。

律令制度は税金徴収が目的である。税金は原則、人頭税、耕作地の広さによって決まる。当時は「王朝12銭」の貨幣はあっても、畿内辺りしか流通していない。税金は物納が基本である。貨幣が全国で流通し始めたのは国家体制が確立した足利政権からである。その貨幣も宋銭がメインである。

平安時代は現代の我々にとっては理解を超えるミステリーな時代である。中世は日本史の中で大きな転換期に当たる。そう思って読むと、祟り、怨念、末法思想そして人間も大きく変化し、歴史の転換期であることがわかる。



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