高倉健・唐獅子牡丹のモデルと言われた男・飛田東山

「昭和史の隠れたドン・唐獅子牡丹・飛田東山」西まさる著・新葉館出版2020年9月発行

著者は1945年生まれ、はんだ郷土史研究会代表幹事、作家・編集者、「次郎長と久六」「吉原はこうつくられた」等の著書がある。

飛田東山（本名・飛田勝造）という名を知っている人は少ない。私もこの本を読むまで全く知らなかった。飛田東山とは何者なのか？

背中に背負った唐獅子牡丹の彫り物と「弱きを助け、強きを挫く」その行動によって、任侠映画「唐獅子牡丹」のモデルになった人物。尾崎士郎「人生劇場」吉良常のモデルとも言われる。

映画化は、飛田勝造の半生を描いた宮沢有為男「侠骨一代」を読んだマキノ雅弘が高倉健「唐獅子牡丹」をシリーズ化した。だが飛田はヤクザではない。むしろヤクザを嫌い、ヤクザの更生に尽力した。

飛田勝造は、1904年（明治37年）8月24日、茨城県磯浜町（現・大洗町）で水戸藩浪人・国五郎の子として生まれた。

9歳の頃、東京神田三崎町の材木店へ丁稚奉公に出て、10年後に徴兵、2年で除隊、21歳から東京芝浦で人夫、沖仲士を経て、土木建築、船舶荷役業の飛田組を設立。労働者供給業である。

飛田勝造は、下層労働者の働き先確保のため、1936年（昭和11年）東京都による青梅・小河内ダムの建設工事を請け負う。

全国から前科者を中心に670人以上の人夫を集め、工事着工する。荒くれ者の人夫教育のため宿舎内に「日本精神修行導場」を設置、軍隊式教育と任侠精神の修行道場を運営した。

工事着工1年経過すると、受注できなかった建設会社、前科者労働者を不安視するマスコミ、利権を求める政治家などが地元民の土地払下げ補償問題に絡めて、工事中止の反対運動が発生した。

混乱を避けるため飛田は東京都から多額の解決金を取り、労働者に全額を分配し、ダム建設工事から撤退する。解決金は当時の金で12万5千円余り、現在価値で7.5億円。分配金は労働者一人当たり150万円程に当たる。

その後、朝鮮の鉱山建設、戦時中の中国、満州での建設工事を受注、軍部との繋がりができる。そこから上海人脈と言われる児玉誉士夫、笹川良一との関係が生まれた。M資金にも関係があるとの噂もある。昭和史のフイクサーと言われる所以である。

戦時中は「扶桑会」労務者組織を創設、140万人の労働者を集め、松代大本営建設を手掛けた。戦後は青梅に「東山農園」起こし、奥多摩地域の開墾、開発に注力する。

その中で生まれた人脈は、岸信介、中曽根康弘、渋沢敬三の政財界、稲川組稲川聖城のヤクザ、尾崎士郎、川合玉堂などの文化人と多彩である。

飛田東山は、昭和36年から16年間中断していた隅田川花火大会を昭和53年再開するのに努力したと言う。「庶民にこれ位の楽しみがあってもいい」これが彼の思いだろう。

弱者のために生きた飛田東山は、1984年（昭和59年）80歳で死去した。あまり知られない侠客だった。自らは旗本奴に対抗する「町奴」と名乗った。

飛田東山は右翼である。保守・右翼は「人間はそれほど賢くない。そこそこの生活が出来ればいい」と考える。革新・左翼のように未来や人間の知恵に過大な期待をしない。だからこそ弱い者、貧しい者の辛さ、悲しい気持ちが理解できる。

「無法者一代・飛田勝造伝」牧野吉晴著・昭和58年6月18日発行・これは飛田東山の若い頃のことを小説化したものである。

前田和男著「昭和街場のはやり歌・戦後日本の希みと躓きと祈りと災いと」によれば、飛田勝造の孫・飛田春樹氏が前田和男氏と同級生。中央大学法学部に入学、昼間部自治会副委員長を務めた。同級生として、自宅訪問した時に見た勝造の入れ墨の見事さに感心したという。