生成AIは日本をどう変えるか?「デジタル社会の罠」
「デジタル社会の罠・生成AIは日本をどう変えるか?」西垣通著・毎日新聞出版2023年11月発行
著者は1948年生まれ、日立製作所を経て、東大大学院教授。「超デジタル世界」岩波新書等の著書がある。情報学の第一人者である。
生成AIの賛否が問われ、社会にどのような影響を与えるか話題となっている。本書はAIが日本にどう影響するかを予想する本ではない。生成AIは「汎用知」つまり知性を持つ機械になるのか?を問う科学論である。
本書は、「科学技術と人間」「読書日記」など、2021年から2023年まで、毎日新聞掲載された著者エッセイの単行本化である。宗教論、日本思想論、科学技術論などその範囲は広く、著者の知識量、守備範囲に敬意の念をもって興味深く読んだ。
1980年代、日本のコンピュータ、デジタル技術は世界のトップクラスだった。2022年世界63ケ国中、日本のデジタル競争力は29位まで低下した。
著者は日本のデジタル化が遅れる理由を挙げる。本質は日本社会、文化の価値観がクローズド的で、インターネットのオープンシステムとマッチしない点。同時に日本の完璧さ、完全さに対して、欧米は走りながら修正する弾力性の違いにあると言う。
遅れを、単に欧米科学技術崇拝へ移行させ、追従するだけでは日本の技術は進歩しない。「誰のための技術か?」じっくり見直す余裕が必要である。
2019年日本財団「若者意識調査」で、将来に夢を持つ若者の割合が、欧米、アジアと比して、目立って低い点が公表された。かなり大きな問題である。「将来、国や社会を変えられるか?」の質問に、「変えられると思う」と答えた若者は2割以下。日本の将来が心配でもある。
欧米型の技術進歩が若者意識にも影響している。AI技術の進歩が人間を「モノ化」させる。「AIが奪う職業はなにか?」など記事特集になっている。科学進歩が人間性を奪っているのだろうか?
人間と自然との関係。仏教は無常観と自然に対して調和、融和を重視する。キリスト教は、神が人間に恵みとして与えた自然を支配する思考である。自然を支配するのか、調和するのか、その違いは大きい