キャントシングマイドリームズ
エピソード1
そうだ。僕が昔好きだった人の話をしよう。
そのまえに、身の回りの整理をしなくちゃ。
リュカ、君には奥さんがいるのかい?
そうか、子どもも。
なんで今日はぼくのところに?
ふふ、喧嘩か。
ぼく?
ぼくの話はいいじゃないか。
今からちとばかし話をするのだから。
そうだな、あれはぼくがまだフクオカという町にいたときでね、あの娘は笑ったときに見える八重歯がとてもかわいらしい子だったんだ。
昔のぼくはとても親の言うことを聞くいい子でね。
ほんとだぜ?
女の子と付き合うな。と言われて、それをはい。と聞いていたんだ。
おかしいだろう。
あの子はね、ぼくにやさしい声で、でも、どこか甘い声で言ったんだ。
「〇〇くん、〇〇くんは、女の子のこと嫌いなの?」って。
ぼくびっくりしちゃって
「え、どうして?」って聞きなおしたんだ。
「〇〇くん、女子と話すの苦手そうだから…」
そのあと彼女ひと呼吸おいて
「だから私が女の子について教えてあげる!!」って言ってきたんだ。
笑えるだろう?どんなラブコメ漫画だよって。
はぁ、おもしろかったなぁ。彼女、朝は一緒に登校したいからって言ってさ、ぼく、当時携帯電話なんて持っていなかったから、前日に明日もこの電車でね。って分かれてたんだ。
他にもさ、彼女ぼくと遊んだときに今日の写真はSNSにかならず載せてくれ。だなんて言ってきてさ、翌朝学校に行ったら女子から、「え、付き合ってるの!?」の押収で、あはは……。
なのにねぇ、なんだろうね。
彼女、医者を目指していたぼくの友達に告白されたらしくてさ、
妙に返事がないんだ。連絡しても。
また別のぼくの友達に聞いてわかってさ。
いや、泣いてないぜ!なんせ、ぼくは男の子だからな!男の子は泣かないのだ!
ただね、あの遊んだときの彼女の笑顔はなんだったんだろうとか、ぼくはそのとき平和で質素に暮らしたいとかかっこつけたのがいけなかったかなぁ…。
ただ、たまにどうしても思い出すんだ。
付き合うことになった友達が
「いや、あいつとは遊びだよ。いずれ別れるから。」
だなんて言ってきてさ。そのあとも
「いや、もともと狙ってたのが……に取られたから。あいつのことかわいーなーっておもってたのもあったし」
いやー!驚いたね。あはは。あんなに。あんなにもね、かわいらしい子をね。健気なんだ。あの子、饅頭をごちそうしたときなんか、わざわざ「優男だね!」なんてTwitterに書き込んでさ、いやぁまいっちゃったよ!
なぁ、リュカ。君は怒るとすぐ噛みついたりするだろう。ヒトはね、おもしろいんだ。怒りってある度数を超えると急にしゅん…ってなっちゃうんだぜ。よくできたもんだよなぁ。はじめは、あんなに殴りたいとか、思った。でも、人を傷つけてはいけない。って人間どこかリミッターがかかってるんだよな。
神様が誰も傷つけないようにってしたのかしら。
なぁ、リュカ、人は持ってる目標でも選ばれるのかなぁ。君みたいに、自分に素直にだなんてどうしたらなれるんだい?
よせよ。十分素直だなんて。君にしかこんなこと言えないからだよ。
あの子さ、その後の進路も彼に合わせて、今看護師になるための勉強もしてるんだぜ。
あはは、一途だよなぁ。自分の未来までさ。
ぼくの彼女になればよかったのになぁ。あんなに…。ぼくが幸せにさせたかったんだけどなぁ。
今かい?今は、ぼくもちゃんと彼女がいるんだぜ。今度こそほんものの。いやぁ、紆余曲折あったけどさ、ぼくにもいるんだ。すごくこどもっぽいところもあってさ、かわいいんだぜ。大変だけど。駄々すぐこねるからさ。丁寧に扱わないといけないんだ。でも、とにかくかわいいんだ。ほんとだぜ?愛おしいんだ。
八重歯のあの子が今しあわせになってるかそれが、ぼくには気になるんだ…。
リュカ、寝てるのか、まだ君には愛は難しいのかもな。
夫婦喧嘩もほどほどにな。今はおやすみ、リュカ。
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