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ss●太陽と月_09


 クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
https://booth.pm/ja/items/2075651



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 エーリスは誰にも咎められないはずだった。
 しかし彼は、淳天から帰国後、一年も経たないうちに命を落とした。
 一瞬の出来事だった。

 帝王家の人間の差し金があることは、明らかだった。

 謀反の首謀者として捕えられたのは、金髪碧眼の軍人だった。
 彼は視力が弱く、空軍と海軍には入隊できなかった。それは、隻眼のセツナと同じだった。捕縛された時、彼の視力はほぼ無いに等しいと分かった。容赦ないベバイオン帝国の太陽が、彼の瞳から光を奪ってしまったのだ。
 彼とセツナの境遇には、似ているところが多かった。どちらかと言えば貧困な家庭の出身であること、家族を亡くしていること、軍人の中でも特に背が高いこと…だが、決定的に違う点があった。
 セツナは、エーリスに愛されていた。
 セツナが特例的に、二年も早く義手を手に入れた事実も、金髪碧眼の反逆者は良く思っていなかった。

 泥のようになった黒い瞳で、セツナは反逆者になり果てた旧友を見下ろしていた。この時、セツナが彼にしてやれることは、話を聞いてやること、そして魂を肉体から切り離すことだけだった。せめてたくさんを話を聞いてやろう、と思っていた。
 眩しくて全部が嫌になった、訥々と反逆者は話した。
「俺が帝王様の太陽になりたかったのに」
 それが、彼の最期の言葉になった。
「手前ぇは太陽ってガラじゃねぇよ」
 セツナは金色の髪束を鷲掴むと、その髪束で反逆者の首を絞めた。

 反逆者の義手を躊躇なく蹴り飛ばし、踏み砕く。
 これは気晴らしではなく、習わしのひとつだ。義手は継承されず、戦場で砕けなかった義手は家族や戦友が砕く。反逆者は義手を授かる権利を失うが、義手は帝国の人間にとって気位が高いものであり、誰かが洞窟に連れて行き、眠らせてやらないといけない。
 祈りを捧げる手は、反逆者の魂も洞窟に導くが、穏やかに眠ることは赦されず、洞窟を彷徨い続けるという。
 ふと、パーツを拾い上げる手が止まった。
(なぁ、エーリス。帝王家の魂は何処に行くんだ?)
(何処だと思う?)抑揚の少ない声で、誰かが問うてきた気がした。
(……)
 セツナは旧友のパーツを適当に鷲掴むと、歩き出した。指の隙間から転げ落ちるパーツには目もくれず、床でパーツが跳ねる涼やかな金属音を聞きながら歩いた。
(……死ぬまで考え続けてやるからな)
 答えは分かり切っていた、だがセツナは考え続けることにした。

 とあるパーツが床に落ちた時、一際綺麗な音がした。
 それは人差し指のパーツだった。
 人差し指をピンと立てて、悪戯に笑う少年兵の姿が過ぎった。幼い頃、自分の中にあった直感は間違っていなかったのかもしれない。…金髪碧眼のアイツは、いつから帝王家に魅入られていたのだろう。
 人差し指のパーツを拾い上げ、固く握り締めた。パーツはセツナ自身の義手と擦れ合って嫌な音を立てるだけで、当然打ち解けることはなかった。
「ハッ……どうでもいい」
 セツナは吐き捨てて、また進んだ。

 太陽と月は一対で良かったので、セツナはエーリス以外の月を知らなかった。そしてエーリスも、セツナ以外に太陽は必要無かった。


 ▶ 完結



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