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ss●アネモネが舞った時:前編


 クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
https://booth.pm/ja/items/2075651

「花に乞い願う」アンサーSS
「アネモネが舞った時」前編
 セツナ視点、問題があれば修正/削除を行います。



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 今日は、隣国である【淳天】から使者が来る。
 その使者の中には、皇族とやらも居るらしい。

 国民は、王族や皇族の言うことを聞かなければならない。それは、王族や皇族が頑張ってきたおかげで、祖国が存在し、国民が存在しているからだ、と教わってきた。皆そう言うからそうなんだろう…都合が良過ぎる気もするが、確かめようもない。
 ただ、直接言うことを聞く機会というのは、実際のところ無いに等しい。ほとんどの国民が、王族や皇族(あるいは議会)の定めた制度の言うことを聞いているに過ぎない。俺のような近衛兵(側近として置かれている少年兵)は少し勝手が違うが、それでも、帝王様から直接命令があることはごく稀で、側近の将軍等から任務(雑務)を申し付かるほうが多い。
 だから…帝王様に「使者を持て成して欲しい」と言われても、何をすれば良いのか、というより、使者とやらが何を言ってくるのか全く想像できていない。今日この日まで、想像できずにいる。
 帝王様の為なら何でもできるが、他国の使者に対してもそうするべきなんだろうか。帝王様が望むなら、そうするべきなんだろうな。
 帝王様以外の連中を"偉い"とか"尊い"とか言われても、よく分からない。それに、俺が帝王様の言うことを聞くのは、ベバイオン帝王家が偉いからじゃない、帝王様自身が頑張っていると知っているからだ。

「使者とやらは、帝王様より偉いんですか?」
「……」
「偉いとして、どれぐらい偉いんです?」
「……セツナ」

 興味本位で聞いてみたところ、帝王様は大袈裟に首を傾げたまま固まってしまった。すかさず、ひとりの少年兵が物凄い勢いで走ってきた。ソイツに引き摺られるようにして、俺は部屋を出た。

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 使者を乗せた船が港に着く間際になって、さっきの少年兵が大股で近付いて来た。俺と同じ砂色の髪をしているが、俺より若干赤味がかっている。俺の砂色が砂漠なら、コイツの砂色はあの洞窟の土だ。黄土色、金髪と呼んでいいかもしれない。
「お前が籠を持ってるのはおかしい」
 言いながら、ソイツは俺の手から籠を引っ手繰った。
「あ?…おかしいってなんだよ、返せ」
「似合わないってことだよ、単純に」
 蒼っぽい眼で、挑戦的に見上げてくる。
 ベバイオン帝国の人間は、大多数が黒い瞳あるいは緑の瞳をしている。色素の薄い瞳は、厳しい陽射しと砂漠の照り返しに耐えられない。視力を失うこともあるし、眩しさが尋常じゃないらしい。
(蒼い)
 初めて間近で見た蒼い瞳に、思わず息を呑んだ。
「わかったぞ?」
 ソイツはぴんと指を立てて、口角を上げた。
「お前、公用語がヘタクソらしいな、だから御花係が良いのか」
「うるせぇ!」
 船は目前に迫っており、ほとんどの少年兵が緊張した面持ちで整列している。その中に、笑いを堪えている連中を数人見付けて、睨み付けた。
 そのまま俺は、桟橋のほうにつんのめった。余所見したタイミングを見計らって、籠を搔っ攫ったソイツが、俺の背を思い切り押したのだった。
「ヘタクソじゃないか聞いててやるよ」
 俺にこうやって言ってくる奴は、珍しかった。
 俺は少年兵の中では一番背が高く、年長者のように扱われる機会が多かった。…蒼い眼をした少年兵は、俺より3つ年上だった。この時あんまり見覚えがなかったのは、ついこの前まで、ソイツが軍人等の遠征に同行していたからだ、遠征部隊を出迎えたことなら覚えていた。
(仕方ねぇ)
 桟橋に向かいながら、なんとなく姿勢を正した。

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 どんな奴が出て来るだろうと身構えていたら、随分と背丈の小さい奴が出て来た。一般的に、淳天人はベバイオン帝国人より小さい、が、それにしても小さ過ぎる。…すぐに理解した、子供だった。
 使者ではなくて、皇族の人間だろう。
「あ、足場がよくねぇ、です」
 ちゃんと伝わっただろうか、正直不安だ。
 子供は微笑んだ気がするが、それがただの挨拶なのか、愛想笑いなのか、やっぱり俺の公用語が可笑しいのか、判断できなかった。…俺は多分、自分が思うより緊張していた。
 小さな手が、俺の手に触れる。
 その時わっとアネモネの花弁が舞い上がり、様々な赤が悪戯に視界を埋めた。朱色、紅色、柘榴のような赤や葡萄のような赤。でも綺麗だと思うより前に、俺は小さな手を引き寄せた。

 俺が抱き留めたそれは、普通の"少女"だった。

 俺が覗き込んでいたのか、覗き込まれていたのかよく分からない。
 印象的な赤だった、アネモネの花弁よりずっと。
 そして俺は、綺麗だと思った気がする。

 …


▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/n9d8439550e70


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