ss●太陽と月_02
クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
(https://booth.pm/ja/items/2075651)
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エーリスとセツナが初めて出逢ったのは、ベバイオン帝国のとある洞窟である。洞窟の空気は一年中澄んでいて、帝国では数少ない避暑地であり、それだけでも特別な場所だが、この帝国では更に特別な意味を持つ。
帝国の兵士たちは、この洞窟で、帝国の為に戦い続けることを誓う。祈るための手を捨てる代わりに、戦うための手を与えられる。そして、軍神の手によってその魂が肉体から刈り取られた時、祈るための手が、彷徨う魂をこの洞窟に導く。…穏やかな眠りに就くことを許される。
此処は墓場だ。
そして、戦争以前から続く"腕挙"文化の源泉だ。
幼いセツナは洞窟の入り口で座り込み、身を縮めていた。
セツナは、先人たちに花束を手向けなければならなかった。セツナが家を出る時間にあわせて彼の両親が拵えた花束で、白いアネモネが基調となっている。
供え物は、洞窟の真ん中あたりにある門廻りで手向けるのが通例だ。
その門より先は、軍人以外入ることが許されない。
初めて訪れた門廻りの空間は、キラキラしていて綺麗だと感じた。その空間を彩る煌めきの正体が、戦場で散っていった軍人たちの残滓であると理解してから、セツナは怖くて堪らなくなってしまった。彼は、帝国の為に、たくさんの人間が死んだ事実を、殺されてきた事実を思い知った。…そしてセツナは、父親の腕がこんなふうにばら撒かれるのは嫌だった。
もうすぐ陽が沈んでしまう。
「……」
両親は、セツナに買い物も任せていた。家族が自分の所為で腹を空かせていると思うと悲しくなった…かと言って、このまま入り口に花束を隠しておくことも出来ない。セツナの両親は多少意地悪なところがあり、翌日にでも自分が手向けた花束を確かめに来るに違いないぞ、とセツナは思い込んでいた。
砂漠の夜は寒い、鼻先が冷たくなってきた。
そこにふわりと現れたのが、エーリスだった。
独りだった。
彼はどちらかと言えば母親似であり、青年期を迎えた今でも柔和な輪郭を有していた。目元から鼻筋に父親である帝王の面影が感じられるが、瞳の色は母親と同じだった。
「大丈夫?」
と、エーリスはセツナに声を掛けてみた。
「この洞窟が怖いんだね」
花束を抱えたまま、セツナはぶんぶんと首を振った。
エーリスは可愛らしい少年だと思い、微笑んだ。しかし、セツナは馬鹿にされたと感じたので、ぷいと目を反らし、露骨に顔を顰めてしまった。
エーリスは真顔になり「どうして怖いのかな?」と聞いてから、すぐに「どうして怖いと感じたんだと思う?」と丁寧に聞き直した。
「怖くないよ」
と言って、セツナはまた首を振った。
「嫌いなんだ」
なるほど、と思いながら、エーリスはセツナの隣まで悠長に歩いた。
(此処からほど近い街の子だろう、あの街には代々洞窟を護る者たちが住んでいる。早く洞窟に慣れて欲しいのだろうが、なかなか手厳しい教育だ。この子が益々洞窟を嫌いになってしまったら、私は悲しい。…)
セツナは、萎れ始めているアネモネの花弁を見詰めていた。
▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/nb8e4c82388d6
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