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ss●太陽と月_06


 クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
https://booth.pm/ja/items/2075651



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 洞窟について考える時間は、不思議な時間だった。
 誰しも、自分が怖いと感じるものについて、考えたり口に出したりしないようにしているのだ。自分が怖かったのは、洞窟そのものというより、恐怖を思い出すことだったのかもしれない。
 と、セツナは考えた。
 あの日エーリスと訪れた洞窟は、初めて訪れた時みたいに、綺麗だった。多少なりエーリスの瞳の印象で上書きされていたように思う。ともかく、あの洞窟は、彼の中で単なる恐怖の対象ではなくなっていった。

 セツナは忘れないうちに、両親に自分の名前について聞いてみた。
 勉強嫌いなセツナが熱心に教えを乞うてきたので、母親は喜んだ。うんうん唸りながら手紙を書き直していた息子の姿は、抱き締めたくなるほど愛らしかったが、邪魔する訳にもいかなかった。そして父親は、息子が洞窟を怖がらなくなったことを喜んでいた。
 セツナという言葉には、ほんの短い時間という意味があるらしい。
(かっこよくない……)
 というのが、最初の感想だった。
 夕陽が砂丘の向こう側に落ちる瞬間だったり、一陣の風が砂漠に咲く花を浚う瞬間だったり、心が奪われる一瞬のことだと両親は話してくれた。そういう瞬間を大切にしてほしい、という想いが込められているのだろう。幼いセツナは、夕陽を見ながら抒情的になった覚えこそなかったが、夕陽が砂丘の向こう側に消える瞬間、太陽が一層輝いて見えることを思い出していた。

 セツナはエーリスに伝えたい気持ちでいっぱいになり、買い物の度に洞窟に通った。それに、オアシスは見張っているだけでは何も意味が無かった。誰かが波を立てる前に、手を打たなければならない。
 少年兵になろう。
 彼は、琥珀色の瞳をした少年兵のことを覚えていた。
 単純明快だった。

 セツナが少年兵になった日、エーリスはすぐに砂色の髪を見付けた。セツナはエーリスに名前の由来を伝えられて、晴れやかに満足だった。

 今でもエーリスは、欠かさず洞窟に祈りに行く。
 宮殿を抜け出すエーリスを見付けた時、セツナは付いて行った。エーリスは小さな護衛を手に入れても、祈りを捧げに行く日を決めてくれなかったので、セツナは本当に彼を見張る必要があった。
「エーリス様!」
「セツナ?」
 エーリスの行く先を辿ると、時々御香の匂いがする。
 少年兵になったセツナは瞬く間に背が高くなり、同い年ほどの少年兵たちが面白がって付いて来ることがあった。この日もぞろぞろと少年兵たちが付いてきた。そしていつも、彼等を代表するようにセツナが喋る。
「お独りじゃ危ないです」
(……護衛が居るほうが悪目立ちする気もするが)
「付いて行きます」
(……まあいいか)
 エーリスは気紛れに、セツナをからかうように、皆の前で手を差し伸べて来るので、セツナは背中を押してやり過ごしていた。
 そんなセツナを見る少年兵たちの中には、一組の蒼い眼があった。間も無く、蒼い眼の少年兵は遠征部隊の軍人たちと宮殿から旅立った。この頃から帝国の外交には影が差していたのだが、少年兵たちが知る由もなかった。
 エーリスの瞳は、ずっと穏やかだった。

「私は独りでも大丈夫なんだよ」

(もしかしたらこの時、
「私には弟が居るからね」と話してくれたかもしれない。)

 祈りの習慣は、エーリスが帝王になるまで続いた。

 …


 ▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/n1d602e32af96



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