ss●太陽と月_07
クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
(https://booth.pm/ja/items/2075651)
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「戦争になるんですか?」
セツナがエーリスに問うのを聞いた他の少年兵たちは、背筋が凍った。エーリスは玉座の前で少年兵たちを自由にさせるのが好きだったので、彼等が追い掛けっこをしていても何も言わなかったが、この時は全員が脚を止めて、玉座の方を凝視していた。
正確には、玉座の横で胡坐をかいているセツナを凝視していた。
「私は戦争が怖い」
エーリスは玉座と対面する扉をじっと見て、珍しく淡々と喋った。エーリスの声音がいつもと違ったので、少年兵たちはまだ緊張していた。
「理由が見付かる気がしないし、見付けてはならない気がする。大切なのは、考え続けることだ。辛いけれど……」
エーリスは相変わらず、澄明な瞳をしていた。
「考え続ける限りは怖いと思っていられる」
「エーリス様は何かを決めるのがヘタクソです、昔から」
セツナの言葉に、エーリスは声を出さずに笑った。
セツナは気になることを包み隠さず聞いてしまうので、その度に少年兵たちは戦々恐々としていたが、それが彼の美徳でもあったし、エーリスもそう思っていた。
「俺たちは怖くないです、戦うこと」
言いながら、砂漠の照り返しで赤くなった頬と鼻の頭をごしごしと擦る。
「ちゃんと考えた?」
エーリスが身を乗り出して自分を見下ろす気配がしたので、セツナは玉座の方を振り向いた。そこには紫色の絨毯と自分の砂色の髪を映したエーリスの瞳があり、ぴたりと視線があった。
「……え、エーリス様?」
「……」
セツナは心底から自信無さげな表情をしていたし、自覚もあった。
エーリスはふっと肩の力を抜いて、玉座に深く座り直した。つられるようにして、セツナも胡坐の脚を組み替えた。
(自覚があるならいい)
エーリスは、安心していた。
「これから怖くなるかもしれない」
「これから?」
「お前たちは戦いを知らないから……と言うと、血気盛んなお前たちはますます戦いたくなるんだろうけれど、困ったな」
「……」
恐怖という感情を忌避するのは、このベバイオン帝国に生まれた男たちに多い気質で、セツナの父親もそうだった。攻められるより先に攻めろ、攻撃は最大の防御、それがかつて蹂躙された国土が育む気質だった。
だが、幼いセツナは恐怖に対して素直だった。
エーリスは、幼いセツナが持っていた性質を失って欲しくないと思っていた。恐怖している自分を押し殺して突き進むのと、恐怖にきちんと向き合い乗り越えていくのとでは、天と地ほどの違いがあると思っていた。
怖いと感じたなら、そこで手を止めればいい。
(戦争も同じではないか)
それでも、世界の強大なうねりの中で、自分はきっと戦争を起こすことになる。…それならせめて、自分が起こすことになる戦争を止めてくれる、そういう存在が欲しかったのかもしれない。
「セツナ、お前は軍人にならなくていいよ」
「でも俺、文官にはなれないと思います」
「……」
「……」
どちらも否定できずに居ると、そのやりとりを聞いていた少年兵の誰かが笑い出した。セツナは身軽に立ち上がると、その少年兵を締め上げに行ってしまった。少年兵たちの騒がしい足音が、広間に戻ってきた。
▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/naa01083a7493
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