実録!泥酔アパレル店員
私は以前とあるアパレルショップで働いていた。高価格帯の商品を扱っている店だったので、客層こそ良かったものの、アパレル店員は″話術″で売り上げを出さなくてはならない。当然ノルマも課せられていた。
コミュニケーション力が著しく低い私はそれが苦痛だった。
それならアパレルなんてやめろよ…と言われたこともあったが、洋服やアクセサリーが好きだったのでその気持ちだけでやっていた。
それに、コミュ障なりに客に商品を勧め、売り上げに繫がった時はとても気持ちが良かった。客の相談に乗ることも楽しかった。
やり甲斐のある仕事だと思う。
しかし結果を出すことができない日が続くと上司に能力の低さを指摘されることが多くなり、段々と精神が摩耗していった。
自身の根暗な性格とコミュニケーション力の低さ、要領の悪さに嫌気が差して、こう思うようになった。
「″私が私であるからダメなんだ″」
変わりたいと強く思い、接客術の本を読んだり先輩に相談したり足掻いた。
それでもダメだった。
限界が近い精神は…いけないことを考える。
「酒で酔っている状態ならうまく接客ができるかもしれない」
そう思い立った日、出勤前に缶ビールを5本飲んだ。今考えるとあまりに愚かであるが、当時の私にはこれしか無かった。
「いらっしゃいませええええええ!」
出勤即居酒屋店員のようなハイテンション。
これだ…これなら結果を出せるかも知れない…
自分が最強アパレルショップ店員になれたような気がした。全能感に身を任せて客と対話し、商品を勧めていく。いつもなら考えられない勢いで服とアクセサリーが売れていく。
客の笑顔と私の笑顔。
本当に気持ちが良かった。
『私はこの仕事が好き!』
そう強く思った瞬間、世界が反転した。
缶ビールを5本も飲んだら当然泥酔状態、売り場で倒れ込んでしまった。
視界が遊園地のアトラクションのようにグルグル回り続け、強烈な吐き気に襲われる。
それをなんとか堪えつつ、這いつくばりながらトイレへ向かった。
そこからはもう地獄である。
吐いても吐いても吐き気は収まらず、視界は回っているので身動きが取れない。
この時やっと『とんでもないことをしてしまった』という自覚が湧いた。
トイレから出ようと試みるものの、鍵がいくつもあるように見え、便座が前進と後退を繰り返す幻覚に襲われた。
『死ぬのかな』
パニック状態になっているところに、外から上司の声が掛かった。
しかし何を言われているか理解できず、グエーグエーと嗚咽を上げることで精一杯な私の様子は明らかに″異常″であったため、上司は天井から突入し、鍵を開けてくれた。
『助かった…』
外の光が入った途端、上司と救急隊員が待ち構えていたのだった。素早い手つきで担架に乗せられ、救急搬送。上司も同乗してくれた。その間、愚かな自分の行為を恥じて、涙が止まらない私は「本当に申し訳ありませえええええええん!クビにしてくださいいい!」と叫び散らしていたらしい。
病院に到着し、応急処置を受けた後、父が駆けつけてくれた。その時には既に上司の姿は無かったので、探していると父がこう言った。
「『娘さんはいつも頑張っていましたよ、不器用ですが笑』とお前の上司に言われたよ。」
結果は出せず問題を起こしたものの、頑張りを認めてもらえたことが嬉しくて涙が溢れた。まだ不安定な視界の中、上司にLINEで謝罪と感謝のメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
「あなたは今日限りでクビです。」
当然の答えだ…トホホ。
終わり。