【小説】あたしの世界を壊してくれた乱暴な君
残業中、高鳴る胸
その日の店はひどく混雑していて、いちばん下っ端の店員である片山美久も当然残業に参加させられた。仕事ができなくて周囲から嫌われていた美久は何をすればいいかわからず、唯一優しく接してくれる先輩、中村桃子に後ろから泣きついた。
「桃子先輩、あたし、何すれば…」
すると桃子はキリがいいところで自ら打っていたレジを閉めると美久に向かって微笑んだ。
この店でそんなふうに笑いかけてくれる人は桃子以外にいなかったため、不意にどきりと胸が鳴ってしまう。
「明日のセールに向けての店内POPが足りないから一緒に手伝いに行こう。」
「はい」
10も年上の桃子に手を引かれ、20歳の美久はどきどきしていた。ここは大規模雑貨店。職場であって桃子先輩はあたしを後輩として優しくしてくれるだけ。そう言い聞かせながら……………
POP制作の現場に着くと、すぐに桃子は他の社員に呼ばれた。そこからはもう地獄だ。
「えっと、あの…あたし、何すれば」
「えぇー、あのブキヨーで有名な片山を連れてきちゃったの?」
偉そうな社員がため息をついている。
すると桃子先輩が一歩前に出た。
「片山美久は不器用などではなくむしろ器用です!こちらの教え方次第で開花します
そして、絵もうまいのでPOP制作にはぴったりなのではと思い、連れてきました!」
「ふーん?」
桃子先輩の力強い演説に気圧されたのか、数人の社員があたしの周りに集まってきた。
その中心に居た日高主任は文化祭の出し物のような大きいPOPを指差し、
「んじゃ、片山くんにはここ頼もうか。色使いも重要だからね、これから教えるから………」
あっという間に社員の輪に入れたので彼女には不思議な力でもあるのかな?と桃子先輩に目をやるとさりげなく指ハートを送ってくれていた。
入社2年以来こんなに活躍できたのは初めてだ。片山美久はもう少しここで頑張ってみようと決意した。