石さんとカエル君
カエル君は泳いでいた田んぼの水から飛び出して、畦道沿いにある大きな石の上に乗った。
カエル君は言った。
「ねえ、石さん。石さんはいつも同じところにじっとしているけども、全然動かないの?」
「やぁ、カエル君。今日も元気だね。ワシはね、自分から動くことはできないんじゃよ。誰かに動かしてもらうか、外からの力が加わった時だけで動くのじゃ」
「外からの力ってなんだい?」
「今ワシはここに60年ほどいるんだけどな、昔このあたりに水害があって土石流で運ばれて来たんじゃ。それから復興支援の人間によって数メートル横に移動されたんじゃが、それからはずっとここなんじゃよ」
「そういうことなんだね!じゃあ石さんは僕みたいに自分で行きたいところには行けないんだね?」
「カエル君、そういうことになるね。でも私はそういう運命なのだから別にそれが嫌ではないんじゃよ」
「僕なんか動けなくなったら嫌だよ。沢山泳いだり、跳ねたりしてみたいんだ」
「でもねカエル君、君だって鳥のように空を飛ぶことはできないだろう?」
その時です。スズメさんが石さんの上にやって来ました。
「石さん、おはよう!カエル君もいたんだね」
するとカエル君は言いました。
「スズメさんおはよう!ところでスズメさんは空を飛べていいですね。僕なんかせいぜいジャンプするくらいしかできないから羨ましいよ」
「カエル君何を言ってるの?私は空は飛べるけど、それもカラスに狙われないようにいつも仲間と一緒にいないといけないのよ。トビのようにゆっくりと飛んでみたいわ」
「それでいつもせわしなくしているんだね」
「そうなのよ。それにカエル君は水の中を泳げるじゃない?気持ちよさそう!私は浅い水溜まりで水浴びはするけど、深い水には入れないわ。ああ羨ましい」
「スズメさん、水の中を泳ぐのは気持ちいいよ!」
二人が会話しているのを遮るように石さんが言いました。
「こりゃこりゃ2人とも!「無いものねだり」ばかりするんじゃないよ。スズメさんは泳げない代わりに飛べるじゃないか。そしてカエル君は泳げる。それぞれ自分な得意なものでいいじゃないか」
するとそこに蟻君もやって来ました。
「おはよう、さっきから聞いてたけどさ、おふたりさん、贅沢いうんじゃねえよ!俺なんかさ、泳ぐことも飛ぶこともできねえんだよ?ただただ歩き回ってるだけさ。たまに人間に踏まれるしな。お、おい、カエル君俺を食うんじゃねえぞ!」
「今はお腹いっぱいだから食べないよ、蟻君」
すると農作業をしていたある人間のおじさんが休憩のために石さんの上に座ろうとしていました。
「やれやれ、ちょっと休憩するか」
おじさんはそう言って石さんの上に腰を掛けました。
咄嗟にカエル君はジャンプして田んぼに帰っていきました。スズメさんも羽ばたいて仲間のところに帰っていきました。
そして、蟻君はおじさんのお尻の下に押し潰されそうになりましたが間一髪逃げ切りました。
「おい、人間のおじさんよ?」
石さんは初めて人間に話しかけました。
おじさんは言いました。
「誰か話しかけた?あれ?誰もいないじゃないか?」
「おじさん、ワシじゃ。あんたが座ってる石じゃ」
「ええ!石が喋るんか?」
「おまえさん、毎日ワシの上に腰掛けてくれてありがとうよ」
「いや、この石ね、座ったりお弁当置いたりするのにちょうど良くてね、重宝してるんだ。こっちこそありがとう。ところでいつも重くてすまんね」
「いや、どうってことない。ワシの方がおまえさんよりずっと重いんじゃよ。それに石ってそういうもんだろう?」
「そんなこと考えたことも無かったな。でもこの石がなかったら座るところがないから困るところだよ。親父もお袋もここに座って休んでいたからな」
「みんなが使ってくれたらいいんじゃよ。ワシは他の石仲間よりも恵まれとるわ。人間だけじゃなくて、鳥が止まってくれたり、かわいい猫が寝てくれたり、たまに犬にはオシッコ掛けられるがな!ガッハッハ」
「石さん、寛大なんだね」
「ワシは飛ぶことも、泳ぐことも、歩くこともできんからな。ここにじっとしてるのが運命なんじゃよ。だからそれでええんじゃ」
「そうなんだね、石さん。今あることに感謝してるんだね。俺も見習うよ」
「そうじゃな、おじさんも人のためにお米を作ったりしてるだろう?」
「いや、人のためっていうか、自分が生きるためにやらなきゃならないことだからね」
「でも米を作る人がいるから、食べられる人がいるんじゃ。だからおまえさんは人の役に立ってるんじゃよ!誇りに思いなさい」
「なるほどね!そうだね!」
するとカエル君とスズメさんも戻って来ました。
「おじさん、おじさんが田んぼに水を張ってくれるおかげで僕らは生きているんだ!ありがとう」
「おじさん、おじさんが田んぼでお米を作ってくれてるからわたし達も生きているのよ!ありがとう」
カエル君とスズメさんもおじさんにお礼を言いました。
この物語は教訓を私たちに示唆しています。人は一人では生きていない。必ず誰かの役に立ったり、誰かのおかげで生きています。
その人たちに感謝の気持ちで接するのか、それとも自分の都合のいいところだけ感謝して都合の悪いことは他人のせいにして生きていくのか。
その選択によって将来あなたの人生がどんな幸せになるのかが決まってきます。