お前は「群れなせ!シートン学園」でオスカーではないW・I・L・Dを噛み締めろ
おれはかつて「けものフレンズ」を見た。「ズートピア」は見ていない。「ビースターズ」は「旗揚!けものみち」の裏番組だったため泣く泣くスルーした。四作のいずれも素晴らしい作品だった。あるいはそう聞いている。おれも見終わった後にamazonに飛びつき、動物図鑑を探し……あまりに動物という概念が膨大すぎるため無数のカテゴリごとに図鑑があるため、無数のそれらがバラバラに表示され何がしたかったのかわからなくなり、何も買わずに閉じる……そしてオスカー・ワイルドの詩集を開いてつかの間の代償行為に浸り……老い……朽ちる……そんな人生をおれは送ってきた。
だが、おれの心の、いや魂の底では叫んでいた。美しい世界や輝かしいプロレスで満足できるわけがない。確かにそれらはおれの心の偉大なる部分の多くを照らし、埋めてくれた……だがすべてではないと訴えていた。おれの中に眠る、遠い祖先が残した野生……W・I・L・Dが。「群れなせ!シートン学園」はそれを教えてくれた。
この作品はタイトルの通り、学園を舞台にしている。そして先に出した作品群と同様に、各種動物を擬人化したキャラクターたちが大量に出てくる。何故かオスは直立歩行する獣の姿、メスは人間の女に動物の特徴がついたような形という違いがあるがそこはどうでもいい。
まず主人公がレイシストだ。いや、この単語は耐用限度を遥かに越えた濫用の末にその実態を失っているため、ここではRacist……種族主義者と表記しよう。この主人公、マザマ・ジンという男は人間……もといヒト、homo・サピエンスであるが、かつて身体的に優れた獣にひどい目に合わされこの世すべてのanimalを憎悪している。それ故に彼はヒト以外の動物……この世界における他Raceに対して冷淡、かつ攻撃的と言っていい拒否反応を示す。特に対象を取らない差別主義者という概念にまで堕したレイシストとは一味違う、真のRacistである。
しかし、そのRacismはそいつ一人の特殊な性質とは言い難い。シートン学園はその殆どが種族、すなわちRaceを基準とした「群れ」を形成し、他の「群れ」、すなわち他の種族とはある程度の距離を置いて生活が成り立っている。野生の支配する大地であれば当然のことだが、擬人化された動物がそれを行うとなると、やはりRacismという言葉が頭によぎる。そして現実の人間社会においてもそれによく似た事態が発生しうるということをおれたちは知っている……かつて人類発祥の地であるアフリカの南端において実施されたアパルトヘイト(人種隔離)政策がそれであり、シートン学園の環境はそれを彷彿とさせる。もっともシートン学園のそれは理屈ではなく自然発生するものであるため、たまに異種族を群れに受け入れることがあるなど、アパルトヘイトよりはだいぶ緩くはある。だが、全体としてはこのシートン学園そのものが広くRacismを基調として社会が形成されているのである。その中でたった二人しかいないヒトは当然勢力が弱く、色々ありながらも同様に孤立した者どもを集め、種族ではなく「部活」というかたちで「群れ」を形成する……そんな話だ。
おれはそれを見て涙した。人種差別を婉曲に描いた作品はいくらもあるが、これほどまでに差別を「当然のもの」として描いた作品は少ない。どんな形であれ、差別は「打倒すべき」「超克すべき」悪逆の所業として描かれ、障害として以外の描かれ方はまずされなかった。だがシートン学園では差別……もといRacismは当然である。ライオンとインパラは繁殖期が異なる。ハダカデバネズミは服を着ることが恥である。ナマケモノがチーターの速度に合わせて動けば死ぬ。そのような環境ではanti-Racism……融和主義は陵辱と殺戮を意味するからだ。そこにあるのは底なしのR・E・A・L……メキシコの荒野だった。
それでもジンたちはRaceを越えた「部活」というコミュニティを作り上げる。その中心にいるのが真のRacistであるにも関わらず、だ。これにはジンがRacistでありながら、その挙動を見る限り根は善人というか、お人好しであることに由来する。Racistは血も涙もない悪魔ではない。ただの隣人である……そのようなR・E・A・Lをおれは感じ取った。ただの隣人が当然のレイシズムに基づいて行動する……それもまた現実であり、そんな光景を描いた作品も珍しくはない。だが先述した通り、それは凄惨な邪悪としてのみ描かれていた。シートン学園ではそれらは圧倒的にそれは平板に……自然、すなわちW・I・L・Dの結果として描かれている。おれはそこに、真にRacismを超克する方法を見た。陵辱と殺戮を含まざるを得ない野放図な融和主義ではない、あらゆる野生……生物であることに由来する諸々、すなわちW・I・L・Dを尊重できる真の平和の一端を描いた作品が「群れなせ!シートン学園」なのだ。
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