アキレスと亀の距離
「二ノ瀬」
向こうからやって来たのでそう声をかけたのだが、それだけで二ノ瀬はギン、と音が聞こえそうな目つきで矢代を睨んで無言のまま身を翻し、もと来た方へ去っていった。
「いやー相変わらずキツいっすね矢代先輩に対してだけ。いつも聞いてますけど何やったんすか」
「いつも言ってるが心当たりは無い。こっちが知りたいくらいだ」
とはいえ、こちら側に用があっただろうに逃げ去るも同然の挙動というのは随分な所業と言っていいだろう。
部活の後輩である萱野はいかにも楽しそうだが、身に覚えのない矢