マガジン

  • 2018年10月逆噴射小説大賞投稿作品

    タイトルの通り自分の投稿作

最近の記事

鯛めし完全に理解した【全文無料】

 新型コロナウイルスが猛威を振るい緊急事態宣言がなされた2020年4月、外食産業からあぶれたうまい魚がスーパーに流れ込んでいると聞いた筆者はその日に魚売り場へと直行した。それまでろくに魚売り場など見てこなかったので良くわからなかったのだが、その時目に入ったのが真鯛のあらである。見切り品でとんでもなく安くなっていたそれに目をつけ買ってきたは良いが、まあ魚料理などろくすっぽしないのでさてどう調理したものかと頭を捻る。  鯛……鯛……そういえば、以前「鯛出汁で煮込んだ筍ご飯のおにぎ

¥100
    • えっ!?冒険者でも入れる保険があるんですか!?

       保険はクソだ。  もう一度言う、保険はクソだ。  具体的には、俺が入っていたオーンソンマテリアルズ産業振興保険(冒険者向け)は真のクソだ。 「要救助者二名確認。遺体です」 「わかりました。資産を回収してください」  地上と通信する魔道具で報告を済ませると俺たちは死体を身ぐるみ剥ぎ始めた。これが保険の末路、「救助を行った際、パーティメンバーの遺品および身柄はオーンソンマテリアルズに帰属する」という契約条項の結果だ。「身柄」ってのは要するに死体も回収しますって意味だ。  保険

      • 鬱野、ステーション・バーに入る

        まえがき施川ユウキ「鬱ごはん」と吉本浩二「こづかい万歳」のクロスオーバー二次創作です。 鬱野、ステーション・バーに入る 漫画で見た「ステーション・バー」をやってみようと思った。駅の片隅でひっそりと、行き交う人々を肴にして一人酒を飲むという行為だ。最初は意味不明だったが、32にして就職浪人を決め込み、腰を落ち着ける先が特にないオレ鬱野たけしにはお似合いの行為かもしれないと思い直して真似をしてみることにした。 「袋の方いかがですか」「あっ大丈夫です」  やってしまった……!!

        • 【メギド72】アザゼルとはなんだったのか【2020/07初旬イベ】

          はじめに メギド72の期間限定イベント「生と死と、それぞれの個と」が始まった。で、ストーリーを読み終わった。いいかげんプレイ歴が丸一年を越えてしまった身としては戦闘はフルオートで飛ばし(あっでもCビフロンスとCユフィールとCキマリスとフォラス並べてネークロネクロで高収入したのはすごく楽しかったです)相変わらず高水準のシナリオテキストをじっくり楽しんだ。で、ちょっとした疑問が出てきたので、読み終わった当初の思考を辿りながら整理していこうと思う。  当該イベントシナリオのネタバレ

        鯛めし完全に理解した【全文無料】

        マガジン

        • 2018年10月逆噴射小説大賞投稿作品
          14本

        記事

          アキレスと亀の距離

          「二ノ瀬」 向こうからやって来たのでそう声をかけたのだが、それだけで二ノ瀬はギン、と音が聞こえそうな目つきで矢代を睨んで無言のまま身を翻し、もと来た方へ去っていった。 「いやー相変わらずキツいっすね矢代先輩に対してだけ。いつも聞いてますけど何やったんすか」 「いつも言ってるが心当たりは無い。こっちが知りたいくらいだ」 とはいえ、こちら側に用があっただろうに逃げ去るも同然の挙動というのは随分な所業と言っていいだろう。 部活の後輩である萱野はいかにも楽しそうだが、身に覚えのない矢

          アキレスと亀の距離

          夢見る少女の魔法

           精神を灼くサイオンの残響が通過してからもオレの頭痛は止まなかった。だがその痛みにオレは感謝すら覚えていた。まだ意識があるというその事実に。  ステッキを握りしめて、若干狭くなった視野の中央を睨みつける。まだ折れるわけにはいかない。  頭痛が引けば吐き気が来る、その経験的事実を学習した肉体は勝手に先読みしてえずこうとし始めていたがそれは無理矢理噛み殺し、限界ギリギリの集中力を引っ張り出して視界を巡らせる。研究所の中央管制室は死屍累々の光景でさらに胸が悪くなるが、立ち上がってき

          夢見る少女の魔法

          お前は「群れなせ!シートン学園」でオスカーではないW・I・L・Dを噛み締めろ

           おれはかつて「けものフレンズ」を見た。「ズートピア」は見ていない。「ビースターズ」は「旗揚!けものみち」の裏番組だったため泣く泣くスルーした。四作のいずれも素晴らしい作品だった。あるいはそう聞いている。おれも見終わった後にamazonに飛びつき、動物図鑑を探し……あまりに動物という概念が膨大すぎるため無数のカテゴリごとに図鑑があるため、無数のそれらがバラバラに表示され何がしたかったのかわからなくなり、何も買わずに閉じる……そしてオスカー・ワイルドの詩集を開いてつかの間の代償

          お前は「群れなせ!シートン学園」でオスカーではないW・I・L・Dを噛み締めろ

          地域課業務記録ケース#B12

          朝目が覚めてから三十分以内に日光を見るといいらしいが、徹夜明けの人間には日光は毒だ。地域課のオフィスで目頭を揉みながらそれを痛感する四十歳を目前に控えた向橋の前に、二十歳過ぎの匂坂が能天気に書類を置いた。 「先輩、教区六番の病巣なんすけどー結局馴致不能で落ち着いたみたいっす」 「ああ。まあやっぱりそうだよな」 「そりゃそうっすよ。いくら犯罪性能が高いっても結局ただの浮浪者じゃないっすか」 「巣作りは歴とした犯罪性能のフレーズだぞ。奴の場合はどっちかというと犯罪性向が高すぎたせ

          地域課業務記録ケース#B12

          逆噴射小説大賞没ネタ「400字」

          口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口

          逆噴射小説大賞没ネタ「400字」

          竜の戒名

          山の稜線ごと消し飛ばしそうな轟音の後、狩人は「外したか」とだけ言った。 砲声ではない。銃声である。とてつもなく大きな銃だ。尋常の銃でなければ、射手も尋常ではなかった。墓場から蘇った死人のように細く生気のない肉体でありながらなぜこんなものを一人で扱えるのか、メイベルには想像もつかなかった。 「何を狙ったのよ」 衝撃にふらつきながら問う。ただ森を闇雲に撃ったとしか見えなかった。 「己が狩るのはドラゴンだ」 「あり得ないわ。ドラゴンは二百年も前に絶滅したもの。私のご先祖様の手でね」

          竜の戒名

          世紀末裸神伝説~僕が破門された理由~

          その男は裸だった。 雲突く巨体に野生動物のようにしなやかな筋肉を纏い、岩山の如き偉容を誇っている。 それこそ獣の如く獰猛な笑みを浮かべ、悠々と、しかし油断なく歩を進める。 対峙する男もまた裸だった。 先の男が大岩であればこちらは鋼の如く、細身の体に硬く締まった筋肉が無駄なく全身を覆っている。 研ぎ澄まされた刃の如く鋭い所作で、神経質に、しかし迷いなく歩を進める。 「金谷よ。裸人拳奥義、本当にいいのか。お前にも機会はあるべきだ」 「愚問だ石動。貴様とも我が師とも既に袂を分かった

          世紀末裸神伝説~僕が破門された理由~

          烏、蛍火、叢雲、巌

          月の無い晩であった。 頼りなく揺れる灯をちらと見やり、宿直の修三郎は次の交代までの時間を思って大欠伸をした。 戦国の世である。いつ戦が起きるかわからぬ以上は平時でも警戒を保つのが当然であったが、気が緩むのまでは責められまい。だがその晩はそれが命取りとなった。 気づいた時には闇から滲み出した影に喉首を掴まれ、高々と吊り上げられていた。 その男は黒かった。そして巨きかった。その姿は揺らめく光の中でこそ辛うじて捉えることができたが、灯が消えれば、あるいは照らす光から逃れれば、もはや

          烏、蛍火、叢雲、巌

          パッカー・ミシュナイルズの偉大なる闘争

          パッカー・ミシュナイルズの人生は常に美女と危険とに彩られていた。 まず産まれる前から流産しかけた。産まれれば彼の母親は類まれなる美女なのは良かったが、間抜けなベビーシッターのおかげでベビーベッドの柵が外れていたり粉ミルクと殺鼠剤が隣に並んでいたりといった命の危機を迎え、悪運だけで生き残った。ベビーシッターは美少女だった。 その後の人生も似たようなもので、幾多の波乱と享楽を乗り越えてきたパッカーであるが、今回もまた新たなる危機に直面していた。 傍らの美女の肌を撫でながらパッカー

          パッカー・ミシュナイルズの偉大なる闘争

          ドッペルゲンガー

          およそ尾行というものは、それを警戒している人間には見破られるものだ。 つまり尾行という手段は、そもそも尾行されるとは思いもしない相手にしか使えない。 “ドッペルゲンガー”もその類だった。何故なら、誰も“ドッペルゲンガー”の姿を知らないからだ。尾行できるはずがない。ついこの間まではそうだった。 繁華街の人込みを力ない足取りで、しかし滑らかに人を追い越す歩みで進む特徴のない男。それが俺達の追う“ドッペルゲンガー”。この街で最も恐るべきスパイだ。ただ伝説のように囁かれる名前だったが

          ドッペルゲンガー

          Conspiración

          研究所の中はごった返していた。防護服を着た俺の手下がそこら中の机をひっくり返して中身をぶちまけ、そのたびに研究員の悲鳴が上がる。 「あとは責任者のDNA情報だけだ。どこにある」 「ありません」 残された中では最も高い地位にいるらしい眼鏡をかけた研究員が答えた。 「待て。どういうことだ」 「先だって報告したはずですが。所長の遺体は焼却されています」 ならば生体情報など残っているはずがない。回収など不可能だ。その上で俺は回収に回された? やられた。書類上、主犯である研究所所長のD

          Conspiración

          饕餮の餐

          これまでの紆余曲折の諸々をさておいて今現在、腹が減っている。 根元からもげ取れたサイバーアームを投げ捨て、テツは何を食べるべきなのか考え始めた。 中華か。脂っこい大皿料理を平らげるのもいいが、今は激しすぎる運動の直後だ。もっと胃に優しいものが食べたい。では和食か。それだとボリュームが足りないだろう。焼き魚に味噌汁の定食もいいが、それだと二食はいる。注文のタイミングも難しい… 想像したら腹が鳴った。よくない兆候だ。胃袋が「もう何でもいいから」と言い出したら失敗まで秒読みだという

          饕餮の餐