【読切短編:文字の風景⑤】蝉時雨
朝の産声間もない空に、紫煙がくゆって消えていく。
朝7時。私は、ベランダに出て煙草を吸っている。空は冴えない色をしていて、吹く風はじき来る夏を感じさせない涼しさだ。階下からはトラックの走行音が、街の目覚ましアラームのように響く。
愛用のアメリカンスピリットの1mgからのぼる煙は、空と同じ冴えない色をしている。煙草から抜けだして間もない内は、アール・ヌーヴォーのような曲線を描きながらその姿を主張するが、瞬きするうちに形は移り変わり、そして消えていく。見るともなくその姿を目で