スティグマのない「隠さなくて良い・我慢しなくて良い社会」へ

ここ1ヶ月くらい、「スティグマ」という言葉について、ずっと考えていて、コロナ禍で社会的な課題となっているメンタルヘルスや慢性疼痛の課題についても、この社会的なスティグマがヘルスケアマーケットの拡大に影響するのではないかと考えていて、皆さんの意見も聞きたいので、全然自分の考えもまとまっているわけではないが、思考の整理のためにも書いていきたい。

「スティグマ」の定義

まず、話のスタートラインを整えるために、「スティグマ」とは何かについて、その定義について共有したい。しかし、その分野の専門家ではないので、大枠こんな考えという意味で捉えてほしい。

まず、スティグマとは、「社会における多数者の側が、自分たちとは異なる特徴を持つ個人または集団に押し付ける否定的な評価(烙印・ラベル付け)」とのことであり、主に4つの概念で構成されているとされる。

数多くある個人の特徴のうちから一つだけに着目したラベル付けを行う
 例)あの人は●●病だから・・・
ラベルとネガティブな評価を結びつける
 例)彼らは弱い人だ
ラベル付けされた集団を「自分たち」とは異なる集団として捉える
 例)自分が彼らのようになることはない
ラベル付けから発生する認知や感情を実際の差別に結びつける
 例)彼らが可哀想だから、彼らに同情しよう

Link, B.G, et al: Annual Review of Sociology. 2001

なぜ今「スティグマ」について考えるのか

クリエーター: Ponomariova_Maria | クレジット: Getty Images/iStockphoto

最近の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況は落ち着いてきているものの、ここ数年の世界的な大流行は記憶に新しいと思う。日本での流行当初は、COVID-19の感染者やその家族、濃厚接触者などに対して、SNSやメディア、実際の私生活場面でも、差別・誹謗中傷などが飛び交っていた時期があった(もしかしたら、残念ながら今もあるかもしれない)。
今となれば、誰でも感染するリスクがあるという感覚にもなってきているが、以前までは、電車の中で少し咳をするだけで「あの人はCOVID-19の感染者ではないか」という白い目で見られるような体験をしたことがある方も少なくないのではないだろうか。つまり「咳をしている」という個人的な特徴から「COVID-19の感染者だ」というラベル付けをされるような体験であり、COVID-19の流行により、より我々は私生活の中でスティグマを身近に感じるようになった。

他にも、ウクライナとロシアの件でも、「●●人だから」などということを理由に、ネガティブなラベル付けをして宿泊拒否をするところが出ており、人種・国家というラベル付けで、目の前の人を評価するような社会になりやすい状況になっているのではないかと危惧している。

これまでの「国民」という視点から「企業」という視点に移すと、ダイバーシティ&インクルージョン[D&I](性別、年齢、障がい、国籍などの外面の属性や、ライフスタイル、職歴、価値観などの内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと)を積極的に推進する企業も増えてきている。D&Iを語るとき、性別・LGBT・障がいの有無・国籍・人種・年齢・宗教・病気の有無などが、よく論点として扱われやすいテーマである。これは、すでにお分かりの通り、スティグマとも大いに関連している。

上記のような社会的背景がある現代において、スティグマについて考える頻度が増えている上に、今後の社会のためにも今考えておくことは、必ずプラスになる考えている。これ以降は、さまざまなスティグマのテーマがある中でもヘルスケア領域、特に、コロナ禍で増えているメンタル不調・うつ病におけるスティグマや、慢性疼痛におけるスティグマについて考察していきたい。

うつ病における「スティグマ」

(c) Abobe Stock

COVID-19の流行期には、著名人の自殺やメンタル不調者の増加などが度々ニュースで報道され、多くの方が心痛む体験をしたと思う。特に、ココロの病とされるうつ病に関する日本国民のスティグマは強く、なかなか心の相談窓口があっても、利用・相談しなかったりする。多くの企業でも、EAPなどの相談窓口を設置しているが、その利用率は従業員の1%程度という企業も少なくなく、(うつ病とは概念が異なるが)ストレスチェックで判定される高ストレス者の医師面談実施率は令和2年度において全国平均が1.8%であることも報告されている(レポート)。

これらの数字から言えることは、日本国民は心の相談を気軽に他人にするという行為はしにくい国民なのかもしれないということである。これは、下記の図で分かりやすく説明されているが、「公的スティグマ」「知覚されたスティグマ」「自己スティグマ」が関連しており、自分は怠け者だから、相談窓口で相談していることを周囲に知られたくない等の考えが芽生えてしまい、なかなか所属企業の心の相談窓口も利用しにくいのではないかと考えている。

NRI Public Management Review, Vol. 212, March. 2021より転用

スティグマの解消には、大きく「知識啓発(education)」「当事者との接触(contact)」「当事者による訴え(protest)」の3点が重要とされている。

加えて、企業・司法・立法・行政・メディア・アカデミアなども含めた複合的な動きをしないと、一つの側面が変わっただけでは解消されにくいことがわかっている。下記はうつ病を事例にしたスティグマの軽減に寄与した複合的な取り組みである。

NRI Public Management Review, Vol. 212, March. 2021より転用

慢性疼痛における「スティグマ」 | 我慢は美徳か

Adobe stock

慢性疼痛(慢性的なカラダの痛み)には、日本国民の約20%が日々悩まされながら生活している。しかも、肩こり・腰痛はご存知の通り、国民の健康上のお悩み男女ともに1位・2位を歴代更新し続けていることからも、国民病であり、大きな社会課題であると捉えることができる(国民生活基礎調査の結果)。

うつ病と同様に、慢性疼痛においても、非常に多くのラベル付けがされていることが、ファイザーの調査により分かっている。日本人は「我慢は美徳」と考える傾向があるのか、慢性疼痛の半数以上の方が、「我慢して・人にも言わず・治ることをそもそも諦めている」ことが報告されている。

■「痛みがあっても我慢するべき」と回答した人:66.6%
■「痛い」と簡単に他人に言うべきではないと回答した人:
54.1%
■「痛みが治ることを諦めている」と回答した人:69.1%

ファイザー社. ≪47都道府県 長く続く痛みに関する実態 2012年vs 2017年比較調査≫

特にコロナ禍では、在宅環境が不十分な状態での業務、運動不足、ストレスなどにより、肩こり・腰痛などのカラダの症状を訴える従業員が増加していることを当社と産業医科大学、および、京都大学との共同調査により、明らかにしている。

カラダの痛みは誰も感じやすいものではあるが、「腰痛は治らないものだ(持病になるものだ)」「もう年だから付き合うしかない」などのラベル付けを医療機関でされる方が多い印象が強く、その結果、多くの方々が、そもそも改善することを諦めてしまっているのだと思う。

実際にカラダの痛みで受診した者が、他の医療機関に変える理由の上位は「カラダの痛みが取れなかったから」「納得のいく説明が受けられなかったから」「痛みについて理解してもらえなかったから」であり、このような体験を医療機関でしていることが理由で、諦めたり、人に言っても仕方ない、我慢するしかないのか。という考えにしているのかもしれない。

(c) BackTech Inc.

うつ病(メンタル不調)も慢性疼痛も「隠さなくても良い」し、「我慢もしなくて良い」ことを声を大にして言いたい。もっと生きやすい、過ごしやすい社会にするためにはどうすればいいのか、我々だけでは解決できないので、これを読んでくださっている方々のお力を借りながら、社会全体で気軽に家族・友人・上司・医療専門職にリアル・オンライン共に相談できやすい文化を作っていきたい。

必ず、あなたの味方は隣にいる。
もし、いなくても大丈夫。
俺がなる。
そのために起業しているんだから。
それが国民のポケットに入っているスマホに国家資格を持ったセラピストがいる安心感を届けるという「ポケットセラピスト」の世界観だ。
せっかくの1回の人生。メンタル不調・慢性疼痛などのラベル・レッテルを剥がして、存分に謳歌できる世界を共に創ろう。

うつ病・慢性疼痛の「スティグマ」の解決に向けて

(c) tashatuvango - AdobeStock

前述したように、スティグマの解消には、大きく「知識啓発(education)」「当事者との接触(contact)」「当事者による訴え(protest)」の3点が重要だとされているが、まずはうつ病や慢性疼痛に対するスティグマを少しでも解消するために、ファーストステップとして知識啓発が重要だと考えている。

うつ病はココロの感染症であり、COVID-19に国民全体が感染するリスクがあるように、うつ病の人はもともと精神的に弱い人がなるというわけではなく、誰にもなるリスクがあるものということを理解いただきたい(下記のnote参照)。それが理解できれば、腫れ物に触るような接し方をしなくなるだろうし、ココロの不調があったときにもっと気軽に相談ができる文化が醸成され、隠さなくても、我慢しなくても良い社会の一歩を踏み出せると思う。

慢性疼痛に関しては、間違っている情報が多すぎることと、医療機関での負の体験が「もう治らない」「我慢するしか選択肢がない」などというラベル付けになってる可能性が大いにある。そのため、我々、医療職は日々勉強し、精進することが社会的な責務を果たすためにも必要である。

一方で、国民全体の健康知識における課題もあるため、正しい知識を元に、将来的には、正しい健康情報を取捨選択できるように、ヘルスリテラシーを向上させていく必要がある。

最後にはなるが、例えば、下記のクイズで答えが「YES」であるものはどれか分かるだろうか。

(c) BackTech Inc.

自身が考える答えを、コメント欄にコメントとして記載してみてほしい。
一定数の回答が集まったら、回答を掲載するので、ぜひ!

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