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TENNNは2度の涙で強くなる 「お前は強い」と認められた万能のデュエリスト

「2022 VCT Stage1、無敗のディフェンディングチャンピオンZETA DIVISIONが世界への頂への扉を開けました!」

2022年3月27日、ZETA DIVISION(以下、ZETA)が国内の公式大会「2022 VALORANT Champions Tour(VCT)Challengers JAPAN Stage1」にて全勝優勝を果たし、国際大会「Masters」への進出を決めた。

互いに肩を抱き合い、盛大に喜び合うZETAの面々。満面の笑みを浮かべる彼らのなかで、TENNNのみが堪え切れずに大粒の涙を零していた。

TENNNはアメリカで開かれた『オーバーウォッチ』の世界大会に日本代表として出場したこともある。世界の舞台に上がるのは2度目。20歳にして、プロゲーマーとして豊富な経験を積んできた。

経歴だけ見れば、圧倒的な才能を武器に、順風満帆なプロゲーマー人生を送ってきたようにも見える。だが、決して平たんな道のりではなかった。

新規タイトルへの移行と、理想的なスタート

TENNNが『オーバーウォッチ』で大いに活躍していた2020年。国内の競技人口や大会数の減少により、チームは解散を余儀なくされた。TENNNが新しい舞台として選んだのが『VALORANT』だった。

『VALORANT』のようなタクティカルシューターでチーム活動の経験がなかったため、移行に対して自信があったわけではない。しかし己の豊富な経験とポテンシャルだけは信じていた。問題は「どれくらいの速度で成長できるか」だった。

『VALORANT』には、Lazやcrowが所属していたAbsolute JUPITER(ZETA VALORANT部門の前身)を始めとする『Counter-Strike: Global Offensive(以下、CS:GO)』のトッププレイヤー達が移行してきた。彼らと互角以上に渡り合うには、ポテンシャルの高さだけではなく成長の早さも必要不可欠だ。

人一倍の努力を要することはTENNN自身も理解しており、練習の量と質にこだわるようになった。周りの誰よりも多くの時間を練習に費やし、常に自身の録画を見直してプレイの精度を高め続けた。

その姿勢と実力を評価され、『DetonatioN Gaming』への所属も決まった。新規タイトルにおけるキャリアとしては、これ以上ないスタートだ。

だが、思うように戦績がついてこなかった。

2020年8月の国内大会「UTAGE VALORANT Season 1」での優勝を最後に、大規模大会での優勝には手が届かなくなってしまった。

悔し涙にまみれた苦しみの一年

「僕が今でも思い出すのは『EDION VALORANT CUP』での決勝戦です。僕達が負けてしまったんですけど、オフライン大会だったのですぐ横で相手が喜んでいて……チームメイトと一緒にめちゃくちゃ泣きましたね」

もっと強くなって、いつか必ず日本一になりたい。世界の舞台に立ちたい。その想いは募り続けた。強い想いとは裏腹に、結果が出せない日々は続いた。チームの再編成や巡り合わせの悪さも重なり、TENNNはいくつかのチームを渡り歩くことになる。

TENNNの心は、折れる寸前だった。『VALORANT』の選手として第一線で活躍するのはもう難しいんじゃないか。そんな考えが頭の中をよぎりながらも、日々の練習だけは欠かさなかった。

そんな折に出会ったのが、当時新進気鋭のチーム「Northeption」でコーチを務めていたVorzだ。

「お前は強い」

思わず、震えた。TENNNが最も欲しかった言葉だ。失いつつある自信を、また手に入れた気がした。

「絶対に一緒にやりたい。Northeptionに来る?」

Vorzは日本中から優秀なプレイヤーを探していた。TENNNは正に理想的な選手そのもの。当人にとっても渡りに船で、二つ返事で快諾した。

加入後、TENNNは息を吹き返した。

「2021 VCT Japan Stage 3 - Challengers Japan 1」のQualifier(予選)を突破し、国内トップチームのZETAにも食らいついてみせた。若き才能が集まるNortheptionに、日本中の『VALORANT』ファンが期待を寄せた。

「LCQでのグランドファイナルも、忘れられない戦いの一つです」

NortheptionでのTENNNの最後の試合となった「2021 VCT APAC ラストチャンス予選(LCQ)」のグランドファイナル。熾烈な争いが繰り広げられるAPAC地域での国際大会においてNortheptionは完全に「仕上がって」おり、決勝まで破竹の勢いで駒を進めた。

だが決勝の相手となったタイのFULLSENSEも負けず劣らずの対応力と底力を発揮。激戦の末、3-2でNortheptionは敗北し、惜しくも世界大会への切符を逃した。

「この時も大泣きしてしまいました。多分、僕以外のチームメンバーも隠れて泣いてたんじゃないかな」

だが、この敗戦は日本のVALORANTシーンにポジティブな影響を及ぼすことになった。これほどまでに強い若手プレイヤーが日本に居たのかと、多くの観客が度肝を抜かれたのだ。

あの惜敗から十分な時間は経った。かつては折れそうになった心は、完全に自信を取り戻ししている。

万能の戦士は一日にして成らず

「TENNNは少し特殊なタイプの万能プレイヤーですね」

チームメイトのLaz曰く、「多くのデュエリストはTENNNのように器用ではない」そうだ。

「積極的に攻めていくデュエリストプレイヤーって複数のロールを使いこなせない人が多いんですけど、TENNNはかなりの数のキャラクターを使いこなせます」

TENNNが使用できるキャラクターピックの幅は多岐にわたる。加えて、使用する全てのキャラクターを極めて高い次元で使いこなす。だからこそ、チーム戦術の幅を大きく底上げする。

「戦い方も他のデュエリストとはちょっと違うかな」とLazは続ける。

「たとえばレイズを使ってる時に、TENNNは自分が撃ち合っていた敵を一旦無視して別の敵をロケットで倒し、それから元の敵と撃ち合えたりする。こういう柔軟な戦い方を咄嗟に実行できるプレイヤーはなかなかいません。最初の敵をあえて無視する判断は、撃ち合いが大好きなデュエリストだと特に難しいですね」

唯一無二とも言える幅広いキャラピックと柔軟な戦い方は、TENNNのこれまでの経歴に由来する。

DetonatioN Gamingに加入した頃はジェットやレイズなどのデュエリストを使っていた。しばらく経ってからはイニシエーターのブリーチも、ステージによってはセンチネルのセージすらも使いこなしていた。

TENNNの特性はNortheptionに入ってからも存分に発揮される。イニシエーターであるソーヴァと、センチネルであるキルジョイの運用。特にソーヴァは扱いが難しいエージェントと言われている。だが見事、役割を全うする活躍を見せた。

ZETAに所属してからもスカイ、セージ、レイズ、KAY/Oと、特性の異なるエージェント達を次々と駆使し、チームを優勝へと導いた。

『VALORANT』に移行して1年以上苦しんできたからこそ、オールラウンダーなTENNNが生まれた。紆余曲折こそが、TENNNを大きく羽ばたかせるための滑走路だった。

「ナイス!!」

「2022 VCT Challengers JAPAN Stage1」で優勝を果たした際、ZETAメンバーが円陣を組んでそう叫んだ。しかしTENNNだけは座り込んだ。立つことができなくなるほど、どうしようもなく涙があふれてしまったのだ。

今回の涙は今までとは違う。やっと流せた嬉し涙。

ZETAのメンバーは、自然とTENNNを取り囲むように円陣を組んだ。TENNNの物語は、まだ始まったばかりだ。

(取材・文 gappo3)

ZETA DIVISIONが日本代表として出場する公式国際大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 - Masters Reykjavík」は、TwitchYouTubeにて配信予定。

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