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トライ&エラーで挑む TFT世界8位ぬこ丸のエンジニア思考 それでも感じた “決勝” の難しさ

緊張を乗り越えられるよう、練習は重ねた。

それでも「世界大会ファイナル」の重圧は、ぬこ丸の両肩に重くのしかかった。前夜は2時間しか眠れず、胃もキリキリ痛む。普段は噛まないガムを口に含んではみるが、緊張が紛れたのかすらわからない。

学生時代の部活でも、大会らしい大会に出たことはない。『チームファイト タクティクス(TFT)』の世界大会「TFT: Reckoning Championship」に日本代表として出場した29歳のエンジニアは、まさに “異質” な緊張感を味わっていた。

試合の時間は否応なしに迫ってくる。緊張に頭のリソースを取られれば、その分不利になることも理解している。そして、負けたときの悔しさも。

2度の敗北をバネに世界へ

TFTはチェスのような盤上で8人が戦うシミュレーションゲームだ。「オートチェス」とも呼ばれるジャンルで、プレイヤーには戦略を立てる知力が問われる。

ぬこ丸にとって世界の舞台こそ初めてだが、国内のTFT公式大会は何度か経験している。最初は腕試しのつもりで出場したが、昨年の「MINDMASTERS 2020」で1ポイントの僅差で準優勝。惜しくも世界大会に届かず、負けず嫌いな性格に火がついた。

「ゲーマーって、全員どこか負けず嫌いなところがあると思います」と語るぬこ丸は一人練習を重ね、今年3月に行われた「TEAMFIGHT TACTICS: FATES 宿命 REGIONAL QUALIFIERS JAPAN」でも快進撃を見せた。たった一つの世界大会への出場枠を懸けた地域予選として開かれたこの大会、ぬこ丸はまたしても準優勝に終わる。

「(準優勝は)今までで一番悔しかった。1位を獲りたい、と強く思いました」

3度目の正直となった「TFT: Reckoning Championship」。世界大会出場を決めて喜びを噛みしめるも、出場が決まってからは少し意識が変わった。今までは本職のシステム設計にも通ずる「トライ・アンド・エラー」の繰り返しでプレイヤーとして成長してきたが、「やって覚える」練習を続けるだけでは世界で結果は残せないと感じていた。

世界大会に備え、トッププレイヤーのプレイを研究したり、自分のプレイを見直したりする時間を作った。他プレイヤーとの交流も増えた。ぬこ丸を含めて8人が集まり、カスタムマッチを使って構成やレベルアップのタイミングの研究も行った。知らなかった知識、考えつかなかった判断も教えてもらえた。日本一と言えど、知らないことは無限にある。

平日は4時間。休日は疲れ切るまで、とにかくTFTに打ち込んだ。

エンジニア的思考が生きるTFT

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もともと、戦略を考えるゲームは好きだった。

小学生の頃から将棋やチェス、オセロなどが好きで、特に将棋はよく祖父や弟と指していた。「祖父には勝てなかった」とぬこ丸ははにかむ。勝てないながらも持ち前の負けず嫌いで挑み続け、幼い頃からロジカルな思考が育まれたのだろう。

とはいえ、戦略を考えるビデオゲームだけを楽しんできたわけではない。大学に入ってからハマった『機動戦士ガンダム オンライン』では指揮官になって戦略を考える役も存在するものの、「あえて一兵卒として戦ってばかりいました」。

そんなぬこ丸が、戦略を立てながら自らも戦わなければならない『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』にもハマるのは自然な流れだった。長らくプレイを続けているうちに、MOBAを基盤に新たなジャンル「オートチェス」が生まれた。オートチェスが持つ戦略性の高さに興味を抱きつつも、「覚えることが多そうだ」と敬遠していた。

すると折よく、LoLのチャンピオン(キャラクター)たちが登場するTFTがリリースされた。ハードルが高いと思っていたオートチェスだが、TFTなら今までの経験・知識が生きるはずだ。「これならできるかな」と思い、オートチェスの世界に飛び込んだ。

ぬこ丸の周りにも、本業がエンジニアだというプレイヤーが多いそうだ。ぬこ丸はその要因を「TFTは限られた時間のなかで自分の状況と相手の状況、そして選択肢を整理するゲーム。素早い情報処理が求められるので、エンジニア業と通ずる部分があるかも」と推測する。

TFTを始めてから、ゲームに費やす時間も増えた。先に挙げたゲームはチームゲームで、仕様上1人でも自動的にチームを組めるものの、即興でチームワークを発揮することは難しい。その点TFTはマッチした8人で順位を争うフリー・フォー・オール形式だ。「ソロで気軽に戦えるので、仕事から帰ったらすぐにプレイしていました」

マイナーリージョンの底力を見せつけた世界大会

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TFTの競技シーンにおいて、日本はまだまだマイナーリージョンだ。今回の世界大会に出場した20名の選手のうち、日本代表はぬこ丸の1人だけ。中国から4人出場していることを考えると、日本の存在感は薄い。

「僕が世界大会で良い成績を収めれば、もしかしたら出場枠が増えるかもしれない」

応援してくれた人たちのためにも、日本がマイナーリージョンから脱却するためにも、勝つしかない。ぬこ丸は自らを奮い立たせ、世界大会に臨んだ。

大会前には「緊張しないための対策があるなら教えてほしいくらい」と漏らしていたぬこ丸はその言葉とは裏腹に堅実な試合運びを見せ、大会初日のプレイイン(各地域の最下位シードによるマッチ)を2位で勝ち抜ける。試合直後のインタビューでは「1位こそ取れなかったものの、下位にならない立ち回りを意識した」と、思惑通りの展開だったことを明かした。

グループステージに進んだぬこ丸の次戦はDay3。Day4のファイナルに進めるギリギリのラインである4位を保ったまま、解説のBest佐藤JP氏をして「正念場」と言わしめるGAME4を迎える。5位との差は1ポイント。逆転は十分にあり得る。が、序盤から有利な展開を守りGAME4は2位、そのままの勢いで最終のGAME5も2位に食い込む。結果、総合2位で堂々のファイナル進出を果たした。

ファイナルではボーダーとなるポイントを取得した上で、試合で1位を獲得した選手が優勝となる。当たり前だが、「下位にならない立ち回り」だけでは勝てない。果敢に上位を狙うも世界の壁は高く苦戦を強いられるなか、周囲の選手は一人また一人とボーダーを超えていく。

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「ファイナルに残った選手全員、展開が早く状況判断も的確でした。GAME3からは1位を狙えるように意識してプレイイングを変えましたが、ついていけませんでした」

必死に逆転の隙を伺うが、1位を狙ったことが仇となり8位へと転落してしまう。ぬこ丸がボーダーに到達する前に中国代表のHuanmieが優勝を決め、ぬこ丸は8位のまま世界大会の幕が閉じた。

世界大会の「8位」も糧に

「(ファイナルは)今までの大会とテンポが違いました」

グループステージに進む、ファイナルに進む戦いでは4位以上を狙えばいい。だがファイナルは全員が、全力で1位を狙いにくる。そんな試合は、公式大会の決勝以外でそうそう経験できるものではない。ゲームこそ同じだが、試合の先に求めるものが変わった途端に異なる戦い方が求められる。

優勝を目指してはいたものの、目標はファイナル進出だったと語るぬこ丸は、世界8位という結果自体には満足する。だが「自分のプレイには満足できていないので改善していきます」と、ファイナルの翌日には冷静に反省点を口にした。負けず嫌いが為せる業なのか。それとも今回の世界大会も、トライ・アンド・エラーの過程なのだろうか。

「今後国内でも大会が増えて、より多くの選手が活躍できると嬉しい」

敗因を「運が悪かった」で片付けず、常に前に進み続けるぬこ丸。彼の目は既に “次” の大会を捉えている。国内大会の惜敗をバネにしたように、世界大会での悔しさも糧となるときが来るだろう。

「家族、友だち、同僚、配信を見てくれた方……皆さんからの応援コメントは、とても励みになりました。本当にありがとうございました」

気楽に一人でできるから、とのめり込んだTFT。今では仲間も増え、家族も応援してくれている。世界の壁を知ってさらに成長するぬこ丸は、次の大会に向けて走り始めている。

(取材・執筆Melt)