見出し画像

奔放な兄貴分WANと実直な新鋭Kai 正反対な2人が語る絶対王者の夢は「世界で勝ってSengoku Gamingの名を広める」

「常に世界に行けるチームにしたいんです。だから、日本では絶対に負けるつもりはないです」

そう決意を語るWANの言葉通り、Sengoku Gaming(以下、SG)は『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト(以下、ワイリフ)』の国内大会で昨年に続いて優勝を果たした。だが、トップを走ることの重圧は並大抵のものではない。

「これに負けたら何もかも終わる。そう感じるくらいのプレッシャーがありました」

Bo7(4本先取)でGame7まで持ち込まれた国内大会の決勝を、Kaiはそう振り返る。それでも頂点の座を譲らなかったのは、チームとして積み上げてきた確かな実力があるからだ。

国内競技シーン2年目にして、早くも絶対王者と目される存在になったSG。圧倒的なパフォーマンスの裏で、チームの完成までには苦難の道のりがあった。

一度は諦めたプロゲーマーの道へ返り咲いたWAN

WANがゲームに情熱を注ぎ始めたのは今から10年ほど前。学生の頃に『リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)』に熱中し、チームに所属して選手活動もしていた。しかし国内の競技シーンがまだ未発達だった当時、プロとして生活していける状況ではなかった。

WANは「人生をゲームに投資するには時代が早すぎるのかな」と感じた。学業に専念するために区切りをつけて競技シーンから離れ、幼少期からゲームと同じくらい好きだった料理の道へと進んだ。

「色々やりましたね。和食屋だったり焼き鳥を焼いたり、イタリアンだったり。作る以外では、配達の仕事もやりました」

そうして料理人としての歩みを着実に進めていたWANだったが、本人をして「あれがいけなかったですね。全部が変わりました」と振り返る転機が訪れる。友人に勧められた『伝説対決 -Arena of Valor-』との出会いだ。

一度完全に離れていたとは言え、元来ゲーム好きであり負けず嫌いな性格。しかも、かつて情熱を燃やしたMOBA(※)とあっては、もう全力を注ぐことしか考えられなかった。「誘われたから触ってみる」程度のつもりだったが、いつの間にか最高ランクに到達していた。

※「マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ」の略。『LoL』や『ワイリフ』のように、2チームに分かれて敵本拠地の破壊を目指すジャンルを示す。

実力を買われ、チームにも勧誘されたWAN。かつて『LoL』で鎬を削っていた仲間が、プロになって活躍している姿も見てきた。今度は躊躇せず、仕事を辞めてプロになる決意が生まれた。

「プロになっても、あんまり想像と違うことはないですね。チームでの活動も過去に経験がありますし、口では面倒くさいとか言いますけど、楽しくやっています」

昨年には『ワイリフ』の選手としてSGに加入を果たした。「精神年齢は一番下なので」と笑うがチームでは最年長となった。先輩扱いされるのは苦手だが、年下の選手に向き合うのは嫌いではない。

「解決はしてあげられないけど、話を聞くのは結構好きなんですよね。だから将来はメンタルケアとかで、eスポーツやゲームに関わっていけたらいいなって思います。料理は独学でもできますから」

今年で28歳。eスポーツ業界ではベテラン扱いされる年齢だが、今まさにWANはプロゲーマーとして全盛期を迎えつつある。

「たまたま」始めたワイリフが人生を変えたKai

そんな豊富な経験とキャリアを持つWANに対して、Kaiはまだ現役の大学生だ。彼はプロになった経緯を「たまたま」と表現する。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で留学先の中国から帰国を余儀なくされ、時間を持て余していたタイミングでプレイを始めたのが『ワイリフ』だったからだ。

かつて『LoL』をプレイしていた経験も生かしてメキメキと上達したKaiは、友人の誘いもあってプロチームへの加入を果たす。だが、それまで全く想像もしなかったプロゲーマーという立場には戸惑いと緊張が付きまとった。

「好きでやっているので大変さは無いんですが、改めてチームゲームであることを思い知らされましたね。ソロレーナーなので対面には絶対負けたくないんですが、自分だけが勝ってもダメですから」

初めてのプロ活動は右も左も分からないことばかり。通常ならば環境に徐々に慣れていくことで本領を発揮していくものだが、Kaiはすぐにでも結果を求めた。彼が加入した当時、既にSGは国内大会では常勝体制を築きつつあったからだ。

「加入以前からSGには『最強チーム』というイメージがあって、プレッシャーは凄かったですね。自分が入ったから負けるなんてことは、絶対にできないですから」

自ら「緊張しやすい」と認めるKaiだが、幸いなことに「緊張しているとパフォーマンスが良くなる」タイプでもあった。人生で感じたことのないプレッシャーに打ち勝ち、チームとして国内トップの座を守り抜くことに成功した。激しい戦いを経て感じたのは、Kaiを支えてくれる家族への感謝だ。

「子供の頃からバスケやサッカーをやりたいと言えばチャレンジさせてくれる家庭でした。ゲームも、以前はあまり熱中すると怒られることもあったんですが、大学生になってからは『自分の人生だから』と制限されることもなくて、プロ活動も応援してくれています。本当に感謝しています」

将来は「ぼんやりとですけど、中国で仕事をしたい」と展望を語るKaiは今年で22歳。留学からの帰国を期にプロゲーマーとなった学生が、今度は世界大会のために海を渡る。

コロナ禍が生んだ出会いによって、Kaiの人生はめまぐるしく変化を続けている。

チームを変えたターニングポイント

比べてみれば、年齢や辿ってきた道のり以外にもふたりは正反対なことばかりだ。

WANは「私生活はだらしない」と自認するが、Kaiは何事も時間通りにこなすタイプ。「息抜きのはずの『VALORANT』でも、負けたらイライラしちゃうんですよね」とWANが笑えば、Kaiは「僕は他のゲームは適度に遊ぶタイプなので」と返す。

しかし、ひとたび試合になれば彼らは強固な一枚岩となる。今季の「WILD RIFT JAPAN CUP 2022」ではグループステージを13勝1敗で終え、他チームを圧倒した。その要因は確固たるコミュニケーションだ。

「外から見るとHAKとRushという韓国人選手が中心のチームだと思われるかもしれないんですが、サポートのOukiを含めて、僕ら日本人選手がしっかり話し合いをすることでチームがまとまっている。どこよりもコミュニケーションを重視した、良いチームだと思います」

そうWANが分析する裏には、ターニングポイントとなった出来事がある。

今シーズンの開幕以前、新たなメンバー構成となったチームは意思疎通の乱れによってまとまりを欠いていた。それぞれの性格もあって意見をぶつけあえない状況を見かねたWANが中心となり、それぞれの考えを個別に聞いてからチームで話し合う機会を設けた。

腹を割って話せば、お互いが感じていた隔たりなど存在しなかったかのように、チームは結束した。

試合時間が短い『ワイリフ』では瞬時の判断が集団戦の行方、ひいては試合の勝敗を大きく左右する

当時を振り返ってKaiは「それぞれがどう思っているかを伝えることで、壁が取り払われたんです。話しやすくなりましたね」と話す。WANも「僕らはよく喧嘩するんですけど、それで意思疎通できているんで」と、独自のスタイルを築き上げるきっかけになったと感じている。

新たな武器を手に、SGは世界大会「2022 Wild Rift Icons Global Championship」に挑む。昨年の世界大会「2021 Horizon Cup」では10チーム中5位まで駒を進めたが、今年はWANが「最強のリージョン」と表現する中国代表チーム4チームを含め、出場チーム数が24に増える。ここで確かな爪痕を残すことが、自分たちにもチームにとっても大きな意義を持つことを、彼らは理解している。

「試合に勝って『Sengoku Gaming』の名前を広めることが、僕らに活躍の舞台を与えてくれたチームへの恩返しになると思うんで」

WANはプロとしてのモチベーションの源泉を、そう表現した。『ワイリフ』の競技シーンは歴史も浅く、対戦経験も少ない国外チームとの戦いには未知数な要素が多い。各国の強豪が出そろった今大会は、自分たちの現在地を知る絶好の機会だ。

Kaiは言う。

「選手として、1回は世界の頂を見たいっす。夢ですよね」

WANは頷き、笑顔で応じた。

「夢だね。それは日本チーム全員の夢だよ」

彼らはまた意見をぶつけ、高め合いながら、頂点を目指して歩みを進めていく。

(取材・文 ハル飯田)


Sengoku GamingとUnsold Stuff Gamingが日本代表として出場する世界大会「2022 Wild Rift Icons Global Championship」は6月14日からシンガポールにて開催されます。


この記事が参加している募集