学業一筋からわずか2年で最高峰の舞台へ 運命に導かれたxnfriが「自分達らしいプレイを貫く」決意と共に世界へ挑む
「ほとんどの人が僕達が勝つと予想はしていなかったと思います」
NORTHEPTIONのxnfriは、自分たちのチームが『VALORANT』の公式大会「VALORANT Champions Tour (VCT)」で優勝候補として見られていないことは分かっていた。
しかし、さいたまスーパーアリーナで開催され、2日間で合計2万6千人の観客動員と50万人以上の同時視聴を誇った「2022 VCT Challengers Japan Stage2 Playoff Finals」は衝撃の結末を迎えた。優勝を目されていた王者ZETA DIVISION(以下、ZETA)は敗れ、新進気鋭のNORTHEPTIONが新たに王座を勝ち取ったのだ。
この見事なジャイアントキリングはいかにして成し遂げられたのか。全マップを通して安定した成績を残し、ここぞの場面で勝負強さを見せ続けたxnfriの選手としての素顔に迫っていく。
安定志向からの脱却がNORTHEPTION勝利の布石
「下馬評では常に逆境だったからこそ、気楽にプレイできたのかもしれません」
NORTHEPTIONにとってさいたまスーパーアリーナのような大舞台は初めての経験であり、それどころかメンバー同士の顔合わせさえも直前のブートキャンプが初めてだった。何もかもが初体験のPlayoff Finalsはまさに逆境そのものだったが、だからこそ全てを楽しむことができたという。緊張もほとんど無いまま試合に臨むことができたと、xnfriは微笑みながら振り返った。
「決勝戦で1マップ目を獲った直後は『もしかして勝てるんじゃないか』という予感が走って少し緊張しましたが、ステージに上がればそういった緊張も全て吹き飛びました」
Playoff Finalsでのxnfriは素晴らしいパフォーマンスを発揮していたが、普段の彼はむしろ緊張に弱いタイプだった。オンライン予選では極度の緊張からか、吐き気や寒気が止まらない日も珍しくない。酷い時には何も食べてないのにトイレに吐きに行くこともあったし、5月や6月の気温の中でも暖房を付けてプレイすることも多かった。だからこそ1万人以上の観客に囲まれたステージでほとんど緊張せずにプレイできたことは、彼にとっても不思議な体験だった。
「チームメンバーが傍にいるという安心感が大きかったんだなと思います」
チームメンバーのDerialyはxnfriにとっては弟のような存在であり、彼の仕草やコミュニケーションはチーム全体の緊張を程よく和らげていた。また、チーム内では最も長い付き合いとなるBlackWizは、xnfriにとっての精神的な支柱にもなっている。価値観の合う仲間達と共に大舞台を迎えたことが、xnfriのメンタリティを力強く支えた。
「確かに僕自身のパフォーマンスも高かったかもしれませんが、何よりもチーム全員のパフォーマンスが素晴らしかった。全員で勝ち取った勝利だと強く感じています」
xnfirは自身の能力を過大評価するタイプではない。フィジカル(撃ち合い)の強さは国内でも高い方だと自負しているものの、突出した長所は無いと考えている。だからこそ、要求されたことは淡々と実行していく。チームの統一感を崩さないように自分の役割を遂行し続けていくのがxnfriの任務であり、ひいてはNORTHEPTION全体の色でもあった。
「全員が同じ意識を持つことが一番大事だと思っています」
普段の練習のサイクルでは、多くの時間を会話に費やす。多国籍チームということもあり、言語の壁や価値観の壁をお互いに把握し、どうやって折り合いをつけていくのか話し合う必要がある。その過程で特に重視されているのが、リスク管理だ。
「普通の日本人チームなら安定択を取るような場面でも、僕達はハイリスクハイリターンな選択肢を取る傾向にあります」
韓国人選手の強気な考え方をチームの共通認識としたことで、チーム内の意思疎通も上手く回るようになった。日本人だけのチームなら、このスタイルにはならなかったかもしれない。安定志向からの脱却が、NORTHEPTIONの勝利の布石となった。
「僕自身もここ数年で性格が変わったような気がします」
昔は我の強いタイプで、あまり折り合いのつけられないタイプだったと語るxnfri。競技シーンだけではなく、あらゆる出来事が彼自身に変化をもたらした。
目標を失った大学生活と、VALORANTによって救われた日々
xnfriは3歳から18歳までの15年間を、アメリカで過ごした。その期間にゲームで遊ぶことはあったものの、それはあくまで人並み程度。高校生になってから『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ(CS:GO)』には手を出したが、彼にとっての主戦場は部活と学業だった。
大学進学を機に日本へと帰国した後も、二年間は学業に専念していた。大学のプログラムを利用し、デンマークへ一年間留学する予定だった。非常に能動的な学生生活であった。
だが彼の人生に大きな転機が訪れた。新型コロナウイルスの世界的な流行である。大学での四年間は留学を中心にプランを組んでいたにも関わらず、留学が取りやめになってしまった。卒業までに留学することはできない。茫然自失の思いだった。
「もしコロナが流行していなかったら、プロになっていなかったと思います」
学生生活が突如として空虚な時間となった。何をすればいいのか全く分からない。当時の彼にとっては唐突に訪れた不幸な瞬間だったかもしれないが、代わりに自由に使える時間が増えたことで、幸運なことにゲームの競技シーンに興味を持ち始めるキッカケになった。そして緊急事態宣言から数か月後、遂にVALORANTがリリースされた。このゲームとの出会いが第二の転機となる。
「無くなってしまった予定を埋めるように、VALORANTに打ち込みました」
空白の時間をVALORANTで埋めていく日々は、やがてプロの道へと挑戦することに繋がった。しかし20歳からの競技シーン参入はプロゲーマーのキャリアの中では遅咲きの部類だったからか、しばらくは思うような成績は残せなかった。プロとして活動する時期もあれば、アマとして活動する時期もあった。
「約2年間VALORANTを続けてきましたが、悔しい事ばかりでした」
所属チームが決まらない期間。強豪チームへの敗北。それら全ての出来事が悔しくてたまらなかった。特に印象に残ってるのが「VCT 2022 Stage 1 Week 1」のZETA戦だ。この試合は新生NORTHEPTIONにとって初めて「トップチームに勝てるかもしれない」と感じさせた試合だっただけに、xnfriの脳裏に深く刻まれた敗戦となった。すんでの所で逃した敗戦は、忘れられない苦い記憶と化した。
「逆に、一番嬉しかった試合もZETA戦です。先日のPlayoff Finalsでの勝利は、VALORANTをプレイしてきて最も嬉しい瞬間でした」
その喜びは単に優勝という結果から来るものだけではない。xnfriにとってZETAは特別なチームだったからだ。
「僕が尊敬する日本人プレイヤーは二人います。一人がLazさんで、もう一人がcrowさんなんです」
xnfriがまだアメリカにいた頃の話だ。ある日、友人伝いに「日本のプロチームがFnaticと良い試合をしてるぞ」という話を聞いた。『CS:GO』の大規模世界大会「WESG 2017」に日本代表としてAbsoluteが参加し、世界的な強豪であるFnaticと激戦を繰り広げていたのだが、その様子はアメリカに住んでいたxnfriにも届いていた。
この時、初めてAbsoluteのメンバーであるLazやcrowを知り、遠い世界のプロプレイヤーとして長く憧れの念を抱くようになった。そして自分がVALORANTでプロになったことで、現在はZETAの一員として活躍するふたりのことをより強く尊敬するようになった。
Lazはロールモデルとしての振る舞いと、生き様を。crowは緻密なプレイスキルと、幅広いキャラピックを。それぞれの特徴的なスタイルはxnfriの記憶に楔を打ち込んだ。
△憧れのLaz選手との記念写真に嬉しさを隠せないxnfri選手
「VALORANTを通して自分は凄く変わったと思います。20歳までの自分は我が強かったのに、ここ2年で信じられないほど協調的になりました。それが良いのか悪いのかは分かりませんが、少なくとも今大会の結果に繋がっているのだと思ってます」
目標を失った大学生活。敗戦の悔しさ。勝利の喜び。尊敬に値するプレイヤーとチーム。
これら全てがxnfriの糧となった。
「自分達らしいプレイを貫いて、グループステージ突破を目指します。最終的にはStage 1 のZETAに劣らないような結果を残していくつもりです」
xnfriは、力強くそう締めくくった。
2022 VCT Stage2 Masters。舞台はコペンハーゲン。二年前、奇しくも彼が諦めざるを得なかったデンマークの地で、三度目の転機が訪れるかもしれない。
(取材・文 gappo3)
NORTHEPTIONが日本代表としてが出場する公式大会「VALORANT Champions Tour 2022 Stage 2 Masters - Copenhagen」は、7月10日(日)22時(日本時間)からTwitchとYouTubeにて配信予定。