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「友達に負けたくない」意地で『TFT』世界2位へ 20歳ゲーマーの武器は “つまづいて強くなる” メンタル

「将棋とかチェスとか、戦略的なゲームは全く未経験なんですけどね」

そう話すのは弱冠20歳、現役大学生のTitleだ。2022年11月に行われた『TFT』の世界大会「TFT Dragonlands Championship」に日本代表として出場し、準優勝という輝かしい成績を残した。

8人のプレイヤーが盤上にコマやアイテムを配置し自動戦闘を繰り返していく「オートバトル」ジャンルの『TFT』は、ランダム性に左右されながらも無数に存在する戦術から最適解を導きだしていく知識と戦略性が問われるゲームだ。

「気付いたら『チームファイト タクティクス(TFT)』の魅力にはまっていました」

まっさらな知識から世界2位へ登り詰めた彼の道筋を辿ると、最初にあったのは誰もが抱く小さなプライドだった。

「友達にできて、自分はできない」悔しさが原動力

TitleがPCゲームをプレイするようになったのは中学生の頃、親戚から不要になったPCを譲り受けたことがきっかけだった。幼い頃から家族の影響もありゲームに親しんでいたTitleは、当時周囲で大流行していた『マインクラフト』に夢中になった。

いつもの仲間たちとマルチプレイに興じる日々が続き、徐々に熱が落ち着いてくると、仲間から新たなゲームに誘われた。それが『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』だった。

「最初は訳も分からずプレイしていたんですが、次第に『このゲームはスルメだ』と分かってきて、いつの間にかどっぷり沼に浸かっていました。初めて味方に迷惑をかけずにプレイ出来たラムスは、今でも思い出のチャンピオンですね」

それまでRPGなどのジャンルを好んでいたTitleにとってオンライン対戦ゲームは新鮮かつ刺激的で、すぐに魅力の虜になった。2019年に『TFT』がリリースされると、再び友人がきっかけでプレイを始めた。

「リリース当初はそこまで興味を惹かれなかったんですが、友達が初めてすぐに最高ランクの “チャレンジャー” に到達したんです。『初心者でもチャンスがあるゲームなのか』と思い、自分でもプレイしてみるようになりました」

だが、最初はチャレンジャーから2つ下のランクである “ダイヤモンド” ランクで停滞してしまう。上手くいかない。そのもどかしさがTitleの情熱に火をつけた。

「『TFT』は複雑な操作が必要なく、知識と判断のゲームだと思います。しかも個人戦ですから、勝てないのは完全に自分の実力が足りないように感じました。友達がチャレンジャーに行けたのに自分は行けないのが悔しくて、とにかくプレイを続けました」

『TFT』は数ヶ月に1度「セット」と呼ばれるシーズンの切り替わりがあり、ゲーム内容が大きく変わる。最初のセットはダイヤモンド、次のセットでマスターとランクをひとつ上げ、そして挑戦開始から遂に3セット目でチャレンジャーへと到達した。

悔しさを原動力にステップアップを続けたTitleだったが、自分の中で勝ちパターンを作って当てはめていく面白さが病みつきになっていた。チャレンジャーを目指していたはずが「日本1位になってみたい」と目標を高めてプレイを続けると、続く4セット目で瞬く間に日本1位の座へ登り詰めてみせた。

「『LoL』のランク戦は目標に到達する前に挫折してしまったんです。だから『TFT』こそは、という気持ちがあったかもしれません。4セット目は自分の感覚的にもすごく手応えがあって、日本1位になれました」

その頃、最初に誘ってくれた友達はもうプレイしなくなっちゃってましたけど、と笑ったTitle。友達よりも下のランクに留まることが悔しくて続けたTFTで、いつの間にか日本で最もランクの高いプレイヤーになっていた。

世界2位にも「もう一度やり直したい」

国内トップクラスのプレイヤーとなったTitleは、セット4.5で世界大会に向けた国内予選への出場を決意する。しかし、そこには未知なる戦いが存在した。

「チャンスはあるかなと思っていましたが、格上のプレイヤーとの対戦が続きました。また、大会ならではの駆け引きもあって、普段のランク戦とは違う難しさがありました」

結果は3位。代表の座は掴めなかったが、Titleにとっては「自分より上のプレイヤーは目標になる」と、モチベーションを高める新たな要因になった。ひたむきに実力を磨き続けた2022年4月、セット6.5でついに国内予選を勝ち抜き、日本代表の座を勝ち取ってみせた。

初めて出場する世界大会「TFT Gizmos & Gadgets Championship」。世界各国の腕利きが集まる舞台は、またしてもTitleに新しい景色を見せた。

「世界大会では色んな個性の混ざり合った試合になるので、自分の普段通りのプレイがしづらいんです。それに『自分はメンタルが弱いから調子を崩さないよう序盤戦は丁寧にやろう』と考えていたのがダメでした。難しい大会だからこそ、トップを狙いに行くべきだったんです」

同じメンバーでゲームを繰り返して順位に応じたポイントを加算していく大会ルールでは、1ゲームに勝利するよりも全体を通して高い順位をキープすることが求められる。しかし「せめて4位で試合を終えたい」という慎重な姿勢が、自分の強みを消してしまっていた。

「『TFT』には展開によって無数の勝ちパターンがあります。それらを全て詰め込んで状況に応じて選び出していく、その力には自信があるんです」

最長で3日間に及ぶ世界大会で初日敗退という厳しい結果も、Titleにとっては再び上を目指すための糧でしかなかった。次こそは勝ちたい。再び予選を勝ち抜き挑戦権を得た11月の世界大会「TFT Dragonlands Championship」では、弱気な姿勢を一切捨てた。

「1回負けたことがあるんだから、今度はやってやるしかない、くらいの気持ちで臨みました」

順調に予選を突破し、迎えた決勝戦。最初の2ゲームは5位、8位と下位に沈んだが、そこから2ゲーム連続の1位で怒涛の追い上げを見せる。ラストゲームでは堅実にポイントを積み上げた中国のXunge選手との競り合いに敗れ準優勝に終わったが、決勝戦で2勝を挙げた唯一のプレイヤーとして、Titleの実力が世界に通用することを示す結果だった。

▲決勝戦の第4ゲーム。Xunge選手との接戦の末、2勝目を挙げた

2度目の世界大会で2位に躍進し、賞金も獲得した。大きな飛躍を果たしたと言える結果だが、Titleはまだ満足していない。

「本音を言えば、もう1度大会をやり直してほしいくらい悔しいです。当時は最善を尽くしたと思っていましたが、改めて見返すと『こうしていれば』と思うことがどんどん出てきます。それに、結果的に自分よりも下位なった選手が明らかに自分より上手くて丁寧なプレイをしていたことも印象的でした」

Titleは『TFT』を始めたころから「悔しい」を乗り越えることで腕を磨いてきた。この経験もまた、彼が歩み続けるエネルギーとなるだろう。

頂点にたどり着くまで

『TFT』に魅せられて約3年。世界トップレベルに到達するほど情熱を持って取り組むことで、自分自身にも変化が起こっているのを実感している。

「元からメンタルが弱くて、人目が気になるタイプだったんです。でも世界大会の配信は国内外の何万人という方に見られているじゃないですか。そう思うと『どうにでも思ってくれ』って考えられるようになったので、その点は成長したかなって」

かつては大会でも強いプレッシャーや緊張を感じていたが、考え方が変わると不思議と世界大会にはリラックスして臨めるようになった。沢山の応援の声に、自分なりの恩返しもしたいと思っている。

「本当は配信するだけでも『誰かに見られている』って感じて緊張するんですが……。初心者の方が始めるきっかけになるのであれば、質問に答えるような配信をやってみたいですね」

実はTitle、上達を目指すにあたって参考にしたのは「ほとんど100%」が配信だった。上級者のプレイを見て学び、真似る。それが自分の力を伸ばしてくれた自覚があるからこそ、苦手意識を乗り越えてコミュニティへの還元を望んでいる。『TFT』と出会わなければ抱かなかったであろう目標も増えた。

「『TFT』は中国や韓国で絶大な人気があってプレイヤーも多いので、中国語や韓国語を勉強して配信やゲーム上で交流してみたいなって思っています」

メンタルも目標も大きく変化を遂げたTitleのゲーム人生。今でも気になるゲームがあればプレイこそしてみるが、どうしても『TFT』以上に情熱を注げるタイトルとは出会えていない。

「全然飽きないんですよね。運の要素で展開が左右されることもそうですし、セットごとにガラッとゲーム性が変わることもスパイスになっています。ランクで腕前を競い合えるのも良い。もちろんランクを上げ続ける大変さに心が折れそうになることもありますけど、これからも『TFT』をずっとプレイし続けると思いますよ」

そう確信を持って口にしたTitle。何故なら、果たしていない目標があるからだ。

これまでチャレンジャーを目指した時も、日本代表を狙った時も、初めての世界大会も、必ず一度は壁に跳ね返されてきた。しかし、その悔しさをバネに必ず乗り越えてきた。

「世界2位」で新たにぶつかった壁は、恐らく今までで最も高く分厚い。それでもTitleはこの壁に挑み続けるだろう。野望は、聞くまでもない。

「もちろん、そこ(世界一)しかないです」

いつか来るリベンジの時を目指して、覚悟は決まっている。

(取材・執筆 ハル飯田/撮影 安田健示)