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【創作落語】肩書き
尾崎:ご隠居!こんにちは!ご隠居いますか?
ご隠居:誰やとおもたら、おまえさんやないかいな。どなんしたんや。バタバタと。
尾崎:いや、ちょっとご隠居にお願い事ことがありまして。
ご隠居:私に頼み事とは珍しいね。なんだい。
尾崎:最近、また新しい仕事が決まったんでえ。
ご隠居:それはめでたいね。おめでとう。
尾崎:へへ。ありがとうございます。でも、色々な仕事をしていると「お前さん、一体何屋なんだよ」と聞かれても一言で説明できなくて。んで、困ってたら、近所の熊吉に「物知りで腹黒いご隠居さんなら、高慢ちきでこぎれいな肩書きを付けてくれんじゃねえか」と言われて、慌てて、飛んできたってわけなんでさぁ。
ご隠居:落ち着きなさい。おまえさん、今「誰に」お願いしてるんだっけ?
尾崎:ハッ。熊吉にも言われたよ。当人の前で言っちゃいけねえと。でも、ご隠居さんは心が広いから。
ご隠居:まあ、良い。腹も立たないよ。では、肩書きを考えてやろう。魚屋の旦那とか宿屋の女将とかそういうのを考えればいんだろ。私も長く生きて、色んな仕事の人と出会ってきたからね。お役に立てないこともないだろう。さて、どんな肩書きがいいんだい?
尾崎:わかりやすくて、すごそうなやつであればなんでもいいんだ。
ご隠居:そうかい。わかったよ。じゃ、お前さんの仕事のことを聞かせておくれ。
尾崎:へえ。いくつかあるんで。まずは株式会社新閃力の社長をやっています。
ご隠居:どんなことをやってるんだい。
尾崎:企業がやりたいことを聞いて、実現に向けてアドバイスします。特に新しいものをつくる時に声をかけてもらうことが多くて、マンションとか、食べ物とか、服とか。他にも、新しい働き方を支援する場所を作ったりもしました。
ご隠居:ほお。なるほど。「新しいをつくる屋」なんてのはどうだい。
尾崎:いいですね!さすが、ご隠居だ。ありがとうございます!じゃ、次。株式会社市進ラボの社外取締役をしています。
ご隠居:それはどんな仕事だね。
尾崎:へえ。千葉県で学童を6教室運営しています。私はそこで子どもたちのやりたいことを手伝う仕事をしてます。
ご隠居:なるほど。「こどもの野望のお手伝いさん」だね。
尾崎:いやー、素敵な肩書きですな。次に株式会社キッズプロジェクトのスーパーバイザーをしています。
ご隠居:まだあるのかい。。なにをする会社だい?
尾崎:ゲームを作っている会社です。子どもたちの授業や学びを面白くするゲームを作るのが仕事です。
ご隠居:授業や学びを面白くするゲーム。授業を面白くするゲーム。授業をゲームに。ジュゲム。授ゲームでいきましょう。縁起も良い。必ず2回繰り返してくれよ。
尾崎:授ゲーム。授ゲーム。。
ご隠居:では、「新しいをつくる屋さん」「子どもの野望のお手伝いさん」「授ゲーム」の3つを持って帰って、家でゆっくり考えて選びなさい。
尾崎:ご隠居。まだ仕事はあるんです。
ご隠居:まだあるの?
尾崎:今までのはビジネスでやってることなんですが、次は公務員として行政でやってることです。
ご隠居:どこで何をやってるんだい。
尾崎:へえ。奈良県生駒市で教育改革担当として働いています。
ご隠居:どんな仕事してるんだい?
尾崎:小学校や中学校の先生と一緒に面白い授業を作っています。
ご隠居:じゃ、授業作家だね。お笑い芸人にも放送作家がいる。一緒にネタを考える人という意味でもぴったりだ。生駒は確か茶筅が有名と聞く。茶筅の授業作家でどうだろう。
尾崎:ご隠居は地域の名産品にも明るいんですね。大したもんだ!北海道中富良野では義務教育学校という小中9年間の新しい学校づくりアドバイザーをしてます。子どもを育てるための授業カリキュラムを作ってます。
ご隠居:お前さん、北海道にも行くのかい。世話しないね。9年間。なるほど。中国では九星気学と言って9年周期で一周する占術があるのだが。ふむ。こどもは未来は輝かせる星だし、北海道は星もキレイだろうからね。「星を育てる設計士」はどうだろうか。
尾崎:中国のこともお詳しいんですね。こりゃ驚いた。しかも、ロマンチックときた。大阪府では教育委員の仕事をしているんですも、これもなんか肩書をつけてくだせえ。
ご隠居:大阪もやってんのかいな。なんで、また大阪の教育委員をすることになったの。住んでないでしょうに。
尾崎:ええ、大阪府の教育長の水野さんっていうお偉い人から「大阪の教育を面白くするために力を貸してほしい」って頼まれたんで。んで、月に一回、会議に出て、大切なことを決めるのが仕事です。
ご隠居:じゃ、「塩」でよかろう。
尾崎:塩?!
ご隠居:ああ、塩をバカにしちゃいけないよ。人は疲れた時には塩分が必要になる。たった少しだけど、料理をおいしくできる。魔法のような粉だよ。お前さんが関わるのはほんの少しなんだろ。それでも、大阪の学校を面白くしたいなら、少し振りかけただけで、味も決まり、体も元気になって、上手くてみんなが笑顔になる「塩」がいいよ。
尾崎:塩。私は塩です。深いですな。。あと、岡山の西粟倉村で我が子の学校のPTAもやっています。
ご隠居:なるほど。岡山で。岡山でPTA。岡山といえば桃。PTAピーチーえー。村のピーチ姫。でどうだい。
尾崎:ご隠居、肩書きというより、言葉遊びになってきてます。
ご隠居:疲れてきてるんよ。わしも。もう無理よ。「新しいをつくる屋」「こどもの野望のお手伝いさん」「授ゲーム」「茶筅の授業作家」「星を育てる設計士」「塩」「村のピーチ姫」を持って帰って、どれがいいか選びなさい。私はちょっと疲れたから、奥で休ませてもらうよ。
尾崎:まだあるんですよ。聞いてください。
ご隠居:もう無理だ。聞かん。
尾崎:お笑い養成所を卒業しまして。
ご隠居:なんだと、その面白そうな話は。なんで、お笑い養成所に?!
尾崎:面白いものをつくる方法を学びに。4年前くらいに行きまして。太田プロダクションの13期卒業生です。卒業はしましたが、笑わせるってのは自分に無理だと分かりました。
ご隠居:そりゃそうだ。笑いとはそう簡単なもんじゃない。よし、「笑いの挫折者」にしよう。
尾崎:あと、芸術家もしてまして。凡人の天才ごっこという個展を全国でやってます。
ご隠居:よくわかんねえ。つまり天才アーティストになりたいってワケだな。よし、偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソってことのはどうよ。。
尾崎:。。。。。。。。。。あと、二つほど。
ご隠居:もうここまできたんだ。最後まで聞いてやるよ。
尾崎:可愛い2人のこどもの母なんです。これも私の立派な肩書きでして。
ご隠居:お子さんの名前は?
尾崎:はるか、かなたといいます。
ご隠居:「はるかかなた」カッコいい名前だね。銀河っぽいね。よし「ウルトラの母」でいいだろう。
尾崎:これで最後です。このとおり、落語家をやっておりますが、落語でお金をいただいてやいません。ただ、私の落語と何かを交換してください、と言ってます。
ご隠居:ふむ。わらしべ落語家だね。
よし、では、「新しいをつくる屋」「こどもの野望のお手伝いさん」「授ゲーム」「茶筅の授業作家」「星を育てる設計士」「塩」「村のピーチ姫」「笑いの挫折者」「偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」「ウルトラの母」「わらしべ落語家」を持ち帰りなさい。好きなものを選べばいい。
尾崎:ご隠居!ありがとうございました!
尾崎:うーん。どれもこれも面白くてな。一つには決めきれねえ。よし!全部付けちまえ!順番だけちょっとかえるか。これでよし。
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ある学校に講演に行った時でございます。
尾崎:あの私、「授ゲーム授ゲームこどもの野望のお手伝いさん新しいをつくる屋山の授業作家星を育てる設計士塩村のピーチ姫笑いの挫折者偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ・ウルトラの母わらしべ落語家の尾崎えり子と申しますが、本日14時からの講演をしにきました。ギリギリになってすいません。
受付:校長に確認しますね。書き取りますので、もう一度、お願いします。
尾崎:「授ゲーム授ゲームこどもの野望のお手伝いさん新しいをつくる屋山の授業作家星を育てる設計士塩村のピーチ姫笑いの挫折者偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ・ウルトラの母わらしべ落語家の尾崎えり子です。
受付:復唱いたします。「授ゲーム新しいをつくる屋こどもの野望のお手伝いさん茶筅の授業作家星を育てる設計士塩村のピーチ姫笑いの挫折者・長い名前のピカソウルトラの母わらしべ落語家の尾崎さんですね」
尾崎:「授ゲーム」は2回です。「ピカソ」はもうそれで良いです。時間ないので。
受付:大変失礼しました。では、校長に連絡しますので、お待ちください。
(電話)あ、受付にただいま、「授ゲーム授ゲームこどもの野望のお手伝いさん新しいをつくる屋茶筅の授業作家星を育てる設計士塩村のピーチ姫笑いの挫折者偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ・ウルトラの母わらしべ落語家」の尾崎えり子様がいらっしゃっています。授業が始まっているから、直接教室に行ってもらう、わかりました。
受付:尾崎様、1年3組の教室にどうぞ。
尾崎:ありがとうございます。
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先生:今日はゲストに「授ゲーム授ゲームこどもの野望のお手伝いさん新しい山で星と塩を育てるピーチ姫笑いの挫折者偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ・ウルトラの母わらしべ落語家の尾崎えり子さんがきてくださいました!よろしくお願いいたします。
尾崎:あ、はい、遅くなってすいません。
初めまして。「授ゲーム授ゲームこどもの野望のお手伝いさん新しいをつくる屋茶筅の授業作家星を育てる設計士塩村のピーチ姫笑いの挫折者偽パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ・ウルトラの母わらしべ落語家」尾崎えり子です。今日はみなさんにキャリア教育の授業をしにきました。よろしくお願いいたします。
先生:では、始めに生徒を代表してまず挨拶があります。全員立ちましょう。
生徒:寿限無寿限無・新しいを作る屋・こどもの野望のお手伝い・茶筅の授業作家・星を育てる人・・・・・偽物の姫・ピカソの挫折者・母の落語家の尾崎えり子さん。今日は学校に来てくれてありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
<キーンコーンカーンコーン>
尾崎:肩書きが長すぎて、自己紹介だけで授業が終わっちまったよ。