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世界一の根性と、セブンイレブンのロウソク

<はじめに>

皆様がもし、世界で一番根性のある人間は誰かと聞かれた時、3秒以内で答えられるだろうか。

僕は答えられる。3秒も要らない。

答えは、斉藤さんである。誰がなんと言おうと。

ギネスブックには決して記載されない、世界一の根性を持つ男のサクセスストーリーを、今宵は皆様にお届けしたい。

<僕と斉藤さん>

斉藤さんは、僕がそれはそれは若い時に、いつも一緒に遊んでくれていた先輩。

何の取り柄もない僕だけど、そんな僕の事をすごく可愛がってくれた、大好きな先輩の一人。

当時斉藤さんは、横浜の8畳一間、おんぼろアパートで独り暮らしをしていた。

当時はまだ実家暮らしだった僕を、斉藤さんはよく自宅に招いてくれ、朝まで二人で飲み明かしていた。

斉藤さんの部屋に特に特徴などなかったが、唯一言えることは、四六時中テレビで AVを流している。

そんなきったねぇ斉藤さんの部屋が、僕は好きだった。

<鬼の罰ゲーム>

その日もまたいつも通り、斉藤さんが僕をたくさんのポテトチップス、缶ビールと共に自宅に招いてくれ、二人で他愛もない話をしている時だった。

斉藤さん(以下 斉)「なんか、おもしろい事ないかなぁ」

少し考えて、僕は提案した。

若ばちょめん(以下、若ばちょ)「結構キツめの罰ゲームありで、トランプ勝負します?」

斉「いいじゃん、それ」

そして僕たち二人は、斉藤さんの部屋の床にとっ散らかっているトランプを一枚一枚かき集め、準備をした。

若ばちょ「で、トランプの何で勝負します?」
斉「大富豪とか、どう?」

実は僕は、大富豪が物凄く得意である。かなりの自信があった。

若ばちょ「いいですけど、俺、強いっすよ?大丈夫ですか?」
斉「俺も強いよ。勝負しようぜ」
若ばちょ「わかりました。で、キツめの罰ゲーム、どうしましょうか」

すぐには何も思いつかなかった二人は、無言のまましばらくテレビ画面に目をやった。
そこにはいつも通り、斉藤さんの好きな AVが流れている。

画面に映し出される AV女優は、全身を縛られ、ロウソクを体中に垂らされていた。

二人「.........…」

斉「ばちょめん、ロウソクだ。セブンイレブンで、一緒にロウソク買ってこよう」

若ばちょ「まさか.........…」

斉「そうだ。大富豪で負けた方が、体中にロウソクを垂らされる。これが、罰ゲームだ」

若ばちょ「いや、それ結構マジのキツいやつっすね」

斉「何言ってんだ。AV女優の人達だって我慢できてるんだ。俺達だって大丈夫だろ」

若ばちょ「確かに」

斉「俺は、絶対根性では誰にも負けない。もし俺が仮に大富豪でお前に負ける事があっても、ロウソクなんて余裕だよ」

若ばちょ「わかりました。じゃあセブンイレブン行きましょう」

こうして僕たち二人は外へ出て、セブンイレブンがある方向へ歩き始めた。この道が、のちに斉藤さんにとって人生史上一番過酷な罰ゲームへと導く、地獄の一本道とは知らずに。

<決戦>

無事セブンイレブンでロウソクを買い終えた二人は、斉藤さんのきったねぇ部屋へ戻ってきた。

話し合った結果、大富豪3本勝負。
勝った方が、負けた方の身体に、ロウを垂らす。

若ばちょ「斉藤さん、俺勝ちますよ?ロウを垂らす事になりますけど、それによって変な何かに目覚めないでくださいね?」

斉「大丈夫だ、もうとっくに目覚めてる」

二人「アハハハハハハハ!」

こうして和やかな雰囲気で始まった大富豪3本勝負は、僕の2連勝であっけなく終わった。

こうして斉藤さんを待ち受けていた地獄の門は、ゆっくりと扉を開けてしまったのだ。

<斉藤さんの挫折>

斉「うわぁ、マジかー。負けちまったよー」

若ばちょ「ね?言ったでしょ?」

斉「わかったよー。じゃあ、ロウソクな」

そうつぶやくと、なぜかどこか嬉しそうに、斉藤さんは着ていた Tシャツを脱いだ。

そして上半身裸の斉藤さんに、僕は告げる。

若ばちょ「じゃあ約束通り罰ゲーム、やりますよ?準備いいっすか?」

斉「マジかーーー」

相変わらず、謎に嬉しそうな斉藤さんは、四つん這いになった。

さぁ、罰ゲームのスタートだ。

セブンイレブンのロウソクにライターで火をつけた僕は、

「それではいきます!」

そう宣告し、最初の一滴を斉藤さんの背中めがけて垂らした。



一瞬の静寂がきったねぇ部屋を包んだ後、


あ゛あ゛っっっっじぃーーーーーっ!!!




この世のものとは思えない叫びだった。

そして斉藤さんは、僕が目で追うのもやっとのとてつもないスピードで、床をのたうち回った。

若ばちょ「え?.......…大丈夫ですか?」

斉藤さんは、何も答えない。

そして多少の落ち着きを取り戻した後、

斉「ばちょめん.......…これはヤバい」

若ばちょ「.......…」

そしてロウソク片手にその場で立ち尽くしている僕と、上半身裸で床に転がっている斉藤さんは、テレビで流れ続けている AVを見つめた。

画面に映る AV女優は、自身の身体に垂らされ続けるロウソクにもだ えながらも、どこか かすかに、喜びを感じているようにも見えた。

二人「.........…」

若ばちょ「斉藤さん!負けてるじゃないっすか!!!」


<世界一の根性>

僕は、悔しかった。

僕の知ってる斉藤さんは、根性では誰にも負けない。
どんなに苦しくても、どんなに辛くても、絶対にその場から逃げない、かっこいい男。そんな斉藤さんが、僕は大好きだった。

でもそんな斉藤さんは今、AV女優を前に、ひれ伏している。

若ばちょ「見てくださいよ、この女優さん!余裕じゃないっすか!」

斉「いや聞いてくれ、ばちょめん。これ、本当にヤバいんだ!」

若ばちょ「聞きたくないっすよ、そんな言い訳!」

斉「わかったわかった。じゃあ、背中じゃなくて、ふくらはぎにもう一滴垂らしてみてくれ」

こうして皮膚が多少は分厚いであろうふくらはぎに僕はもう一度、ロウを垂らした。


あ゛あ゛っっっっじぃーーーーーっ!!!


再度床をのたうち回る斉藤さんに、

若ばちょ「そんな斉藤さん、もう見たくないです!」

根性なら誰にも負けないはずの斉藤さんが、敗北を きっしようとしている。

いくら罰ゲームとはいえ、これ以上大好きな先輩を痛めつける事など、僕にはできなかった。

若ばちょ「わかりました。じゃあ、もうやめますね」

そう伝え、手に持ったセブンイレブンのロウソクの火を消そうとする。

ところが、自他ともに認める世界の斉藤は、ここからが違った。


.........…ちくしょう、続けろ!!!


若ばちょ「え?いや、もういいですよ」

斉「続けろ!!!



世界の斉藤、ここに降臨。


あ゛っっっっじぃーーーーーっ!!

あ゛っっっっじぃーーーーーっ!!

あ゛っっっっじぃーーーーーっ!!


きったねぇ部屋にこだまする、斉藤さんの世界の雄叫び。

こうして僕たち二人の、根性の夜は明けていった。


<斉藤さんの変化>

数日後、斉藤さんの自宅に再度招かれた。
呼び鈴が壊れている斉藤さんの部屋のドアをノックする。

斉「入って」

今まで一度もカギなどかけられていたことのない斉藤さんの部屋。

僕はドアを開けた。

斉藤さんは、部屋の真ん中でちょこんと体育座りをし、AVが映し出されているテレビの画面をじっと見つめていた。

若ばちょ「斉藤さん?」

反応がない。

若ばちょ「斉藤さん??.........…斉藤さん!」

やっと僕の声に反応した斉藤さんは、

斉「おう、まあ座って」

画面から一切目を離さない斉藤さんは、いつになく真面目なトーンで僕にそう伝えた。

画面には、ロウソクを垂らされている AV女優が映し出されている。

斉藤さんの様子が、どうもおかしい。

テレビで AVを流している点はいつもと変わりないのだが、斉藤さんはなぜか、たまに小さくうなず いている。何かを確認するように、何かをかみしめるように。

若ばちょ「どうしたんですか?」

すると斉藤さんは、ようやく重たい口を開いた。

斉「ばちょめん、これは、ドキュメンタリーだ」

.........…

若ばちょ「#なんのはなしですか?」

斉「俺はあの罰ゲーム以来、ロウソク物の AVでは、興奮しなくなってしまった。ロウのあの熱さに耐える AV女優さんに、関心してしまう」

斉「彼女たちは、プロだ」

そうつぶやくと、斉藤さんはまた再度小さく頷きながら、「がんばれ、がんばれ」そう ささやいていた。


<10年後の真実>

あれからいくつの歳月が流れただろうか。

あの罰ゲームから10数年後、僕はインターネットで、とある記事を目撃した。

" AVの制作において使用されるロウソクは低温ロウソクであり、市販のロウソクと比べ、低い温度でも液体に変わる構造となっている "

.........…

<斉藤さんへ>

斉藤さん、お元気にされていますか?

AVで使われるロウソク、市販のやつより熱くないみたいです。

.........…

あの時は、本当に熱かったんですね。

火傷したら大変なので、ロウを垂らすのを辞めようとする僕に、最後まで続けるよう言い続けていました。

負けたくなかったんですね。

誰が何と言おうが、斉藤さんが絶対世界で一番根性あります。

火傷もなかったし、本当によかった。

やっぱり僕は、斉藤さんが大好きです。

<最後に>

皆様がもし、世界で一番根性のある人間は誰かと聞かれた時、3秒以内で答えられるだろうか。

もう、答えられますね。


最後までご一読、ありがとうございました。

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