あんなに憎たらしかったのに、今では君が恋しいよ、ドルジ
2008年1月27日
初場所千秋楽。
横綱同士の5年半ぶりの相星決戦。
両国国技館が異常な程の熱量が帯びている。
時間制限待った無し。両横綱が睨み合う。そして、いつものように土俵際に向けて左腕を上げてまわしを叩き『ふぉ!』というような音が聞こえる。
心臓がゾクゾクする。
『負けるな。』
僕はそっと願った。
小さい頃から祖父母の影響で相撲が好きだった。
たぶん、世代で言うと、若貴世代をギリギリ見てた世代。
ちゃんと見始めた時は、当時の小泉首相の『感動した!』の時くらいだったと思う。
昔から僕はこの頃の大関陣が大好きだった。
栃東、武双山、千代大海、そして1番大好きだったのは、魁皇!
超怪力。
特に、左四つ右上手を取った時の魁皇の強さったら。
そして、何より優しい。
怪力なのに優しい魁皇が大好きだった。
色んなファンに愛されていた魁皇。
魁皇の地元福岡場所の取り組みなんか、もう異様な雰囲気になるくらい、魁皇のお客さん一色。
勿論横綱にもなって欲しいと小学生ながら思っていた。
だから、僕は"嫌い"だったのだ。
朝青龍の事が。
当時の朝青龍は、ほんとに強かった。
僕が相撲に熱中してた時は朝青龍の全盛期。
あの、前人未到の7連覇だってしてたし、誰も朝青龍に勝てない。
(7連覇した時の取り組みは魁皇関)
だって、一年に六回くらいしか負けないんだもん。
強すぎるでしょ。
しかも、朝青龍のスタイルは立ち合いから凄まじい程のスピードとキレ!そして、多様すぎる技の数々。
すぐに勝負が決まっちゃう!
だから、今で言う推しである魁皇や大関陣が、優勝できないでいる所を見ていて、
そして、歯が立たないくらい勝てない所を見て、
ほんとに憎たらしかった。
もう、取り組み見なくても朝青龍の勝ちみたいな。
だから、『つまんないなぁ』
と思っていた。
しかし、その分皆んなが、『打倒朝青龍』となっていて、朝青龍に勝った時はほんとにテレビの前で飛び跳ねたのを覚えている。
そんな空気が変わり始めたのは、
2007年8月。
あのサッカー問題だ。
怪我で夏巡業を休んで帰国していた朝青龍が、自国モンゴルのチャリティーサッカーイベントの試合に出ていた事が問題になったのだ。
当時朝青龍はかなり叩かれた。
ほんとにものすんごい!!!
当時あまりの叩かれように僕は引いちゃった。
そして、それから2場所朝青龍は休場になった。
中学生になった僕は、朝青龍のいない土俵に寂しさを感じた。
当時横綱の品格がー、とか沢山言われていたが、
確かに、横綱の品格があったかどうかはわからないが、
朝青龍は良くも悪くも裏表が無く、
"良いやつ"
なのだ。
勝っても、負けても、感情を出すし、土俵癖はあんまり良くないけど、ファン太郎だし!
僕はこの時初めて"ヒール"というものを知ったかもしれない。
2008年初場所。
朝青龍が帰ってきた。
多少不安定な取り組みながらも稀勢の里に負けた1敗のみで、千秋楽を迎える。
5年半ぶりの横綱相星決戦だ。
両国国技館が異常な程の熱量が帯びている。
両国国技館だけではない、ブラウン管のTVの前に釘付けになった、おそらく日本全国の相撲ファンが異様な熱量に飲み込まれている。
時間制限待った無し。両横綱が睨み合う。そして、いつものように土俵際に向けて左腕を上げてまわしを叩き『ふぉ!』というような音が聞こえる。
心臓がゾクゾクする。
国技館のボルテージは最高潮まで達した。
『負けるな。』
僕はそっと願った。
一瞬の静寂の後、両雄が動いた!
『はっきょーい!!!たーらったーらったー!』
物凄い勢いでぶつかる!
主導権は白鵬。
上手を先に取る。
しかしここから引きつけると、朝青龍も上手を。
そして、ここからの今まで見たことないような引き付け合い。
土俵が動きそうなくらいの、引き付け合い。
そして、土俵際までじわじわ白鵬が、引きつけるが、朝青龍が土俵中心まで戻す。
胸を付け合う両雄。
一瞬の間が空いた後、
朝青龍が釣り上げたと同時に、一瞬重心を崩した所を、白鵬が上手投げ。
行司34代目木村庄之助の軍配が白鵬に上がる。
まさに大相撲だった。
今まで見た取り組みの中で1番心震えた。
朝青龍は負けた。
しかし、今までで1番輝いていた。
あれから、朝青龍は次の春場所に2場所連続の相星決戦を制し、復活優勝したが、
皆さんご存知の通り、色んな問題があり、2010年に
朝青龍は引退した。
あれから10年が経った。
僕は相撲を見なくなった。
あんだけ見ていたのに。
見なくなった。
引退時、朝青龍はこう言った。
「生まれ変わったら大和魂を持った日本人として横綱になりたい。」
感情を露わにして、勝った時は喜んで、負けた時は悔しがる。
朝青龍はいつでも、素直だ。
そんな朝青龍が魅力的だったのだ。
ヒールに徹し、色々なバッシングを受け、嵐のように去っていった輝きを僕は忘れない。
先日ドルジが結婚したというニュースが回ってきた。
写真を見ると、あの時となんら変わらない屈託のない笑顔。
少年のような笑顔。
あぁ、そうか、
そうなのか。
変わったのは世間や、僕たちだ。
あの頃からずっと。
そんな君が恋しいよ、
ドルジ。
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