掌編「男子宝石」@毎週ショートショートnote
「進化した脳ミソのせいで滅びるって、あり得ると思うんだ」
その言葉に、僕は顔をあげた。
放課後の川原。いつもの土手。夕日を背に並んで座る僕らの間を、風が抜けていった。
彼の顔は、猫を見つけて「あ」と呟く時と同じくらい何気ない表情だった。本心から来た言葉なんだろう。
「人間って、なんなんだろうな」
「僕らは別れるべきって言いたいのか?」
彼が最近、何かを考えているような様子なのは気づいていた。彼の言葉も考えも、何となく理解できてしまう。僕は堪らない気持ちになり下を向いた。
「感情が豊かに育ちすぎて子孫を残さない選択をする生き物。“滅び”に向かってるのかなァ」
僕は黙ってきく。
「お前のことが好きで、そんなお前に好きでいてもらえて、幸せなんだがなァ」
また、風が吹いた。
「感情が本能に覆い被さって、本能だと錯覚してるんじゃないか、とか」
「子孫は、誰かに任せれば」
「…不思議な生き物」
彼は少し笑った。光って落ちたのは僕の涙か、彼の言葉か。
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