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掌編「立方体の思い出」@毎週ショートショートnote

「早く起きな~!園バス来ちゃうよ」

バタバタという足音が居間に近づいてくる。

「おっ、えらい。ひとりで起きてきたね。そのまま着替えもしちゃおっか!」

着替えを済ませテーブルにつく娘に朝ごはんを出すと私は、引き出しを開ける。

「今日はどれがいい?」

いくつかの髪留めを取り出し、娘に選んでもらう。黄色い丸にピンクのハート、青い星、木の四角に…。

娘が選んだのは木の四角だった。ゴムの両端に木製の立方体。角が丸く削ってあって手触りが良く、温かみのある木目が可愛い。私が気に入って買ったものだが、最近は娘もお気に入りらしい。

「渋いの選びますねぇ、お客さん」

私が髪を結い終わる頃には、娘も朝ごはんを食べ終えて水を飲んでいた。

「よしできた!さっ、歯磨きして行くよ」

髪を梳かす軽やかな感覚と、木のぶつかるコツン、という音が心地好かった。

短くなる線香を眺めながら思い出の髪留めを手に、涙が止まらない。

まもなく私も、あの頃の母と同じ歳になる。


(409文字)


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