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掌編「クリスマスカラス」@毎週ショートショートnote
彼女は、緑のクレヨンで何か描いている。
ひと通り塗り終えると、今度は赤で周辺を塗り始めた。
私は隣で缶ビールを飲みながら、その様子を眺めていた。
彼女のイメージがそこに出来上がったらしいが、私にはそれが何だか分からなかった。聞くとカラスだそうだ。
これ、鳥…か。
こういう事は思うだけで言わないようにしている。たぶん言っても彼女は怒ったり哀しんだりはしないが、気にすると思うから。
私が彼女のこの「カラス」に対して、鳥っぽくない、とか、色が変だ、とか感想を言うと彼女はきっと「そうかなあ」とか言って何が変か考え始めるに決まってる。
そしたら、彼女の絵は、私が好きな絵は、変わってしまうかも知れない。私の言葉が彼女が作風を変えてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
夕日のような赤い丸の中に、緑のカラス。
良い絵だから欲しい、と私が言うと笑顔が返ってきた。
「その絵、パパにあげる!」
玄関のミニツリーの横に飾った。外は白く、雪が降りだしたらしい。
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