![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/91077054/rectangle_large_type_2_db0339eec1257036dd16efe62fe87faa.png?width=1200)
掌編「男子釣り」@爪毛の挑戦状
何よりも釣果を優先するなら、コマセを使うのが吉である。これは、ほぼ必勝の方法である。しかし、釣り人のマナーとしては微妙なところ。
釣りという娯楽に求めるところは人それぞれであるが、いかにして誘き寄せるかという獲物との駆け引きを楽しむ人が殆どのようである。
釣り場ですれ違う釣り人は皆、この楽しみを分かち合うため互いに配慮しながらポイントを攻める、という暗黙のルールを心得ている。
そんな中でズカズカと異次元のコマセワークを見せつけたのでは、恐らくその釣り場は出禁になるだろうし、最悪の場合は界隈から干されて二度と竿を握ることが出来なくなるだろう。
教室だったが、思わず机にスマホを放り投げて突っ伏した。
なんだよ、最後に否定するなら「必勝の方法」とか書くなよ。
マナーとか暗黙のルールとか、そんなこと私は知らないし。私はただ、彼氏がほしいんだ。
何としてもJKのうちに彼氏を獲得し、ふたりで仲良く各種のイベントを楽しむ。そのためなら形振りかまっていられない。
最後の4月が来てしまったのに。チャンスはあと一周しかないのに。モタモタしていたら、ふたりで迎えるはずのイベントがどんどん終わっていってしまう。
決意を固め、机から顔をあげた。
出禁になろうが界隈から干されようが、彼氏を獲得するんだ絶対に。
「目が怖いよオマエ。…何を考えてるかは何となくわかるけど」
親友のキュウちゃんが話しかけてきた。
「ねえ、キュウちゃん。イケてる男子を誘き寄せる餌ってなんだと思う」
「そんなん、自分自身しかないだろ」
「くっ…」
私は呻いて再び突っ伏した。
「…もう、キュウちゃんが私と付き合ってくれ…」
「いーよ」
おっとぉ。驚きのあまり突っ伏したまま黙り込む私。キュウちゃんは何も言わない。
少ししてから私は顔をあげてキュウちゃんを見た。
「なに」
「いいの?キュウちゃん。ホントに?」
「いーよ。でも別にやること変わんないと思うけどいいの?逆に」
「やること…」
「一緒に帰ったり弁当食べたり、夏祭り行ったり、文化祭一緒に回ったり」
私は無意識に、キュウちゃんの言葉を頭の中で繰り返していた。
「なに、やっぱやめとく?」
「…く…」
「ん?」
「…よろしくお願いします!!」
「うん、こちらこそ」
「すごいの釣れちゃった~!なにこれ、しあわせ~!」
「餌がいいからね」
(946文字)