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掌編「おのれはなにものか、なんて」462文字
男の前では、かわいく。
女の前では、かっこよく。
目の前の男が
イケメン王子様なら、此方はかわいく。
ふわふわキュートなら、此方はかっこよく。
目の前の女が
イケメン王子様なら、此方はかわいく。
ふわふわキュートなら、此方はかっこよく。
他人の目には分からないかも知れないが、此方のスイッチはカメレオンのように入れ変わる。
演じているのではない。自然とそうなるのだ。
対象なんて分からなかった。
「ほんと“不詳”だよな。ぜんぜん付き合える気がするし」
何人もの友人に幾度となく言われてきたが、こっちだってぜんぜんアリだよ。
さっき改札で別れ際に300円を貸したあいつも、いま目の前でアイスを食いながらバカ笑いしているこいつも。
例えば明日、どちらかと恋人になる可能性は完全にゼロじゃない。
此方のスイッチが多少は変わるかも知れないが、おそらく相手を満たすことはできるし、此方も満たされるだろう。
「こんな自分は何なんだろう」と思ってはみても、思うだけ。結局それだけなのだ。
それほど関心がないから何だっていい。たぶん、他人もそうだろう。
己れは何者か、なんて。