掌編「プリン/スプリンター/プリン体/酒/煙草/再会」787文字

腹が出すぎ。
甘いものが好きで、血圧が高い。
最近になって小指が痛い、とか言ってる。
父親もその父親も小指の痛みに悩まされながら酒を呷っていたらしい。
もう、ほぼ確定よね。
昔は脚が速くて有名だったのに。
いまも脚はまあまあ細いけど、その腹のわりには細めって感じね。
歯もヤニで染まっちゃって。
白目、そんなに濁ってたっけ？

なんだよ。
好きでやってんだから別に良いだろ。
どうせ先のほうが短い人生だ。
好きなもの食って、好きなだけ飲んで、満足して暮らして何が悪いんだ。
子供だって自立したし、貯金だってそれなりにある。
俺は幸せだよ。
お前にとやかく言われる筋合いはないね。
あと白目が濁ってんのはお前の眼鏡のせいだ。

…。

食べ物由来のプリン体って、微々たるもんらしいぞ。
体質でほぼ決まるから、エビとか魚卵とか普通に食う程度では数値は変わらんってガッテン!でやってた。
だったら、食べたいもの食べたほうが幸せだろう。
ちがうか？

…私でも良かったじゃん。

…は？

あんたの隣で笑って暮らすの、私でも良かったじゃん！

お前、なに言って…？

私はずっと、ずっと…

あそこの二人、毎日毎日修羅場みたいな会話してんだよな。病室のベッド隣同士で毎日顔合わせてんのに、決まって「初めまして」から始めてだんだん盛り上がってくんだよ。認知症同士だと、話題が尽きなくて逆に良いんだろうかね。おぅ、あんた。見舞いの…お孫さんかい？大変だなァ。

あ、いえ。ぼくは仕事仲間みたいなもので。たぶんあの二人は、ああしていないと死ぬんです。マグロが泳ぐのを止めると死んでしまうように。

は？マグロが？

あの二人は、ぼくの所属する劇団の初代団長と初代脚本家です。いったい今日は幾つのお題・・で演やっているのか…。

お…、え…？

たぶん認知症もキテると思うので、収拾はつきません。これは本物の混沌カオス。芸術だ、アヴァンギャルドだ…！

オレぁ、頭痛くなってきちまった…。