クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #140〜イゾルデ・メンゲス バッハ『ガヴォット』(1930)
そのヴァイオリンの音色を「ハチミツのよう」と評した店のご常連がいらっしゃる。
こんなにぴったりな形容があろうか?
色、輝き、とろみ・・・、どれをとってもそれはまさしくハチミツのようである。
イゾルデ・メンゲス( Isolde Menges, 1893年5月16日 - 1976年1月13日)は時代を代表するイギリスの女性ヴァイオリニスト。
レオポルド・アウアーとカール・フレッシュに師事し、14歳の時にデビュー。欧米各地で活躍した。
ただし、ソロ・コンサート活動の第一線から退くのが割と早く、1930年以降は自ら結成したクァルテットの活動と、イギリス王立音楽院で教鞭をとることに時間を費やしたこともあり、現在でもよく知られたヴァイオリニストとは言い難い。
また、女性ヴァイオリニストがレコーディング活動で日の目を浴びるようになるのは、もう一つ後の世代、例えばエリカ・モリーニ(1904年生)当たりくらいからだ。
ただ、メンゲスよりもひとつ前の世代で同じくイギリスの女性ヴァイオリニスト、マリア・ホール(1884年生)の録音が、いわゆる小品や通俗名曲のアコースティック録音(機械式吹込み)だったのと比較すると、メンゲスはソナタや協奏曲など、1曲に複数枚のSP盤を要する大曲、より芸術的価値の高い不朽の名作をアコースティック録音期から電気録音期にかけて録音している。
その点においてはハンガリー出身の女流、イェリー・ダラーニ(Jelly d'Arany, 1893年5月30日 - 1966年3月30日)と共に、レコード録音史における女流ヴァイオリニストの真の先駆けと言ってよかろう。
実際にメンゲスはべートーヴェンの協奏曲や「クロイツェル・ソナタ」、ブラームスの第2番と第3番のヴァイオリン・ソナタ、バッハの「シャコンヌ」などを録音しているが、今回は小品を1曲。
バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番』よりお馴染みの『ガヴォット』に、クライスラーがピアノ伴奏をつけたヴァージョン。
この無伴奏作品にピアノ伴奏を加えてショーピースとするのは、当時よく行われていた手法で、『ガヴォット』のピアノ伴奏版も多くのヴァイオリニストが演奏、録音している。