見出し画像

78rpmはともだち #5

1948年にLPが発売される以前の音楽鑑賞ソフト(音盤)であった78rpmについて綴っているこのシリーズ。

前回のおさらい

78rpmをお安く、ともだち感覚で手に入れる=「ヤフオク!」活用
まずはLP時代に録音を残さなかった、往年の名歌手の歌曲やアリアの78rpmを

そんな78rpmライフが楽しくなってきて、コレクター心、マニア心に少しだけ火が付くと、ヤフオク!だけでは物足りなくなってくる。
例えば、「気に入った演奏家の他の78rpmを手に入れて聴きたい」「自分の好きな作曲家や曲を確実に手に入れたい」といった気持ちが芽生えるのも、またこれ人間。

専門店にて

ということでお世話になるのが、78rpmを専門的に扱っているレコード店だ。
仕入れ、コンディション、品揃えなどが一定以上のレベルに達している店、かと言って敷居も、それほど高くない店、というのがポイント。
これをクリアする専門店というのは、日本全国にたくさんあるわけではない。
私の経験だけで言えば、皆様にご紹介できるのは3店舗のみだ。

富士レコード社・レコード社

東京・神田神保町にある「富士レコード社」「レコード社」は系列店。
LPも扱っているが、とにかく78rpmの品揃えはクラシックに限らず富士レコード社が日本一だろう。
私が中学生時代、初めて78rpmとポータブル蓄音機を買ったのも富士レコード社だ。

系列のレコード社は富士レコード社ほどではないが、逆に富士にはない盤があったりして、2店舗は歩いても4、5分の距離だから、当然はしごをすることになる。
両店とも、棚は演奏家別に細かく仕切らていて(歌手は声域別・アコースティック録音/電気吹込み別など)、探しているもの、欲しいものに出会える機会は多い。

ただ、当然だがヤフオク!で落札するより値段は明らかに高い。
「古道具」ではなく「骨董」感覚だ。
例えば、(コンディションに多少の差はあるとしても)ヤフオク!で1,000円以下、競合なしで購入できた78rpmが、富士レコード社では5,000円以上で販売されたりしている。
そういう事態があるということを事前に知った上で、ヤフオク!と使い分ける、というのが賢い利用方法だろう。

通信販売はしているが、WEBサイトに在庫商品リストは掲載されていない。
直接店舗へ行けない場合は、自分が欲しい78rpmが在庫しているか?販売価格がいくらなのかを電話で確認して購入、発送してもらうことになる。

STRAIGHT RECORDS

東は「富士レコード社・レコード社」であれば、西は「STRAIGHT RECORDS」で決まり。
大阪駅・梅田駅から徒歩15分くらい、北区神山のビル4Fにある。
ここは先ず店の雰囲気がいい。「78rpmと向き合っている」という感覚が体中に行き渡る。
店主の久米村さんと女性のコンビがいつもカウンターにいて、レコードのチェック、試聴や値付けをしている。
東京の2店と比較すると、ジャンル分けや演奏家分けはそれほど徹底していない。しかし、このお店のWEBサイトには取り扱っている商品(LPやシングルも)が検索でき、レコードの画像も見ることができるのが便利。もちろん通販もしている。

価格は東京の2店舗と同様、ヤフオク!のようにはいかない。

割と近くに日本で最大手の中古レコード、CDチェーン店であるDさんもあるので、はしごをする。
1年半ほど前までは「名曲堂」という老舗レコード店(78rpmは扱っていない)もすぐ近くにあったが、店主夫妻の高齢が理由で店は閉じられた。残念。

何故、「D」では78rpmを扱わない?

前々からの疑問だったのだが、クラシックに関わらず中古レコード・CDショップの最大手Dさんでは何故、78rpmを扱っていないのか・・・?
もし、LPやCDを取り扱うのと同じようなスキームで78rpmを取り扱ってくれれば、おそらくその位置づけは「ヤフオク!と専門店の間」となり、78rpmのともだち度は一気に高くなるだろう。

ということで、もの好きな私はDさんに聞いてみた。
返ってきた答えは「SP盤は壊れやすく管理が大変で、商品提供が難しいから」というものだった。需要と供給のバランス、手間の割ほどビジネスにはなりにくい、ということだろうか?

いざ、専門店で

私が専門店を利用するのは、冒頭でも記した通り、特定の演奏家、作曲家、作品をコレクトする際の最後の選択肢、としてである。
指揮者で言えば、このマガジンの「番外編」で紹介したエーリッヒ・クライバー(Erich Kleiber)、そしてクレメンス・クラウス(Clemens Krauss)という、ほぼ同時期に活躍したダブル”K”
そして、作曲者にして指揮者のリヒャルト・シュトラウス(Richard Strauß)。
ヴァイオリニストではイダ・ヘンデル(Ida Handel)。

作品で言えば、自作自演も含めリヒャルト・シュトラウスの管弦楽作品(78rpm時代のコンテンポラリー・ミュージック!)。
78rpm時代にはあまり全曲録音されなかったブルックナーの交響曲
そして、ブラームスの交響曲第3番だ。

ブラ3

「ブラ3」は中学生当時から、ブルックナーの5番や8番と共に、古今東西の交響曲の中で最も好きな作品。音盤の種類を問わずにいろいろと聴いてきた。
在京や在阪のオーケストラが定演で取り上げると知れば、スケジュールを調整してみる。ブルックナーの交響曲の場合も・・・。

「19世紀後半の盛期ロマン派の終焉時、一般市民(市井)目線で捉えられた、その時代を代表する人間的交響作品」というのが、ブラームスの第3交響曲に対する私の見立て。
そこに強い共感を覚える。

クレメンス・クラウスの「ブラ3」

LPだったらクルト・ザンデルリンクとドレスデン・シュターツカペレの1970年代の録音や、ジョージ・セルがコンセルトヘボウ管弦楽団を振った1950年代のデッカのモノ盤。
第二次大戦中のベルリンで録音され、ソ連軍が戦利品として持ち帰り、メロディアからリリースして西側に広まったハンス・クナッパーツブッシュとベルリン・フィル盤。
CD、それも最近感銘を受けたのは、アンドリス・ネルソンズとボストン交響楽団の演奏。
そして、ピリオド奏法を取り入れたロビン・ティチアーティとスコットランド室内管弦楽団も素晴らしい。

そんな中、1930年1月にウィーン・フィルと録音したクレメンス・クラウスの78rpmは、スマート、しかしウィーンの音楽家らしい若干の陶酔、19世紀的ロマンをほのかに感じる彼の芸風をよく伝える名盤だと思う。

しかし、ヤフオク!にはお出ましにならない。残存している個体数もそれほど多くないのだろう。

だから、この78rpmを富士レコード社の店頭で見つけた時、1枚目の最初、30秒ほど試聴させてもらって、すぐ購入。4枚組で16,000円だった。

今日のターンテーブル動画


というワケで、今回ご紹介するのはもちろん、クレメンス・クラウスとウィーン・フィルのブラームス「交響曲第3番 へ長調 作品90」。
クラウスはこの時、37歳。ウィーン・フィルの”最後の”常任指揮者に就任したのがこの年だ(ウィーン・フィルはクラウスが辞任した後から現在まで、常任指揮者を置いていない)。
”音楽の都” ウィーンのトップに君臨したクレメンス・クラウスの名演をぜひ!

クレメンス・クラウスについては、エーリッヒ・クライバー同様、思うところがたくさんあるので、それはまた別の機会に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?