夏 ―老女のひとりごと(12)
夏になるとすぐ海を思い浮かべるが、海には忘れられない思い出がある。女学校一年の夏休みに、私は海で溺れかかったのである。
故郷は千葉県上総の一宮(いちのみや)なので、幼いときから夏になると親に連れられて、毎日のように海に行った。一宮川をポンポン船で海岸まで乗って行く。真っ黒に陽に焼けて背中に水ぶくれができ、お風呂に入るとヒリヒリと痛かったことを思い出す。波打ち際でバシャバシャと遊ぶだけなのだが、それがとても楽しかった。五年生になると先生に引率されて、河口で泳ぎを習った。力