5thシングル『しつこい』特論
【概要】
2023年11月8日に5thシングル『しつこい』をリリースした。
新しい彼氏がすでにいる別れた彼女と、半年間同棲生活を継続する、という嘘みたいな本当の話をインスピレーションに(笑)、「別れた彼女と二人暮らし」をコンセプトに作曲をおこなった。
系譜的には、1stアルバム『情緒不安定』のスピンオフという位置付けになっている。
今作は、Fuzzy Recordsのクルーとして活動を共にしている、ビートメーカーBeardとの共作である。トラックとサビ、Cメロのメロディーは、Beardが制作し、詩とその他のメロディーと歌は、筆者が担当している。
デジタルリリースにともない、Music VideoをYouTubeに公開している。本論稿では、本作の制作秘話に触れながら、自己の根底思想を強引に暴くことを目的とする。
🎧サブスク
https://linkco.re/HAfaQ6dR
🎬MV
https://youtu.be/_wHSrTFYlUo
【作品の実験性】
今回の作品は、私にとって、「ポップスに”極上の狂愛”を優しく美しく織り交ぜる」という実験的な試みであった。このような機会を与えてくれた旧友のBeardには本当に感謝している。
オルタナ派の私は、これまでポップスにやや苦手意識を持っていたが、ついにそれを打破することができ、とてもいい作品を完成させることができた。1人では到底成し得ることができなかっただろうと改めて思う。
作品を通して、誰しもの心の奥深くにうずくまっている、愛の狂気やインセインなリアリティーを、大衆的な形で優美に提示したかった。死に裏打ちされた強烈なラブソングを、そのまま自由に表現してみたかった。
これからの切ない季節に、何度も静かに聴いてもらえるような楽曲になれば、幸甚の極みである。
【プロジェクトの萌芽】
このような作品をBeardと共同制作するに思い至ったのは、Beardと食事を共にしているときであった。「すずは天才なのに『情緒不安定』とかさ、わざわざ売れん曲ばっかり作るやん、ダル!俺が売れる曲つくっちゃあけん、歌詞つけて歌え!」と言われたので、「けっ、仕方ねぇなぁ!」と言う形で、意気投合した。楽曲全体の詩のセンスやメロ感、リズム感も気に入ってくれたようで、とても嬉しかった。
🎧サブスク 1stアルバム『情緒不安定』
https://friendship.lnk.to/EmotionalDisturbance
実のところ、私の音楽的ルーツはレゲエにある。今作『しつこい』においても、隠し切れぬレゲエ感が、リリックの節々にリズムとして滲み出ているが、妙味にもそれが、ポップスの枠で上手くブレンドされて馴染んでいるのが、個人的にはなかなか面白い。
制作を始動した当初は、”Clingy”というタイトルで英詩にするアイデアもあったが、まずはターゲットを日本に絞ろう、ということで日本語で書くことにした。今後もFuzzy Recordsより、様々な楽曲をリリースしていくことになっているので、大いに期待してほしい。
実は、この作品が完成したのは、2021年の10月頃で、ちょうど今から2年前である。温めに温め、満を辞してのリリースとなった。出すならここだな、と。
【詩論、そして思想】
こういうこと(リリック下に掲載)をサラリと書けてしまう、ああいう深刻な、逼迫した心理は、まさに地獄のようなもので、二度と味わいたくないなと思う反面、尊くもある。
僕は、過去現在未来、全ての地点における心理は、今は変化してしまったとしても、そのときは真理であると考えている。たとえば、今は憎み合っていたとしても、愛し合っていた過去が全てが否定されるわけでは全くない。それはそれ、これはこれ、とそれぞれを切り離して価値を見るきらいがある。
価値は、究極的に最後に1つ決定する、というものだと僕は思わない。愛した人が変わり果て、殺人鬼になってしまったとしても、愛していたことには露ほども変わりない。今は全く愛することができないとしても。それぞれが完璧な形で、完成している。だからそういう感覚で、僕は「今」に触れ続けている。
今回の作品において中心的に扱った「愛」と「死」という概念は、一見無関係のように見えて、実は、互いに依存し合った近しい関係にあるように思う。よく考えてみれば、死の意味を決定的に根拠づけるのはまさに愛なのではないか。そうじゃなきゃ、死はただの無味乾燥な現象にすぎない。
良くも悪くも、死を彩るのは愛である。そして愛が尊く美しいのは、究極的かつ絶対的離別、そして、決して避けることができないと知っている「死」を無意識のうちに直感的土台・前提として、その上に成り立っているからであると思う。
僕にとっては、何もかもが尊く愛おしく、耐え難い。幸せなときには、いつも死のことばかり考えてしまう。切なくなる。そして、だからこそ、愛こそが最も、耐え難い。
君が死んで、僕が死にたくなるのは、君を愛しているからである。
君が生きていて、僕が死にたくなくなるのは、君を愛しているからである。
この作品の制作時期までは、深刻な心理から目を逸らすことは、ずっと逃げだと思っていた。そんなことは弱い奴がすることだと思っていた。けど、人間、本当に深刻な心理状態なると、そこからなんとか目を逸らさないと、本当に生きていけないということが分かった。人間はそんなに強くない。
僕にとって作曲は、そういうものなのかもしれない。すごく嬉しい気持ちや、悲しい気持ち、苦しい気持ちを、楽曲に閉じ込めることで、自分から切り離し、別離させ、解離させ、ホッと息をつくことができる。いろんな意味で、そうでもしないと耐えられないんだろうな、と思う。
しつこい、のは結局誰なんだろう。心への侵入を繰り返す、君の方なのかもしれない。
【『しつこい』歌詞】
君は君の望み通りに
僕の永遠になった
これからは僕の中で
枯れた僕の記憶の最上階に住み着き
僕を離れはしないんだよ
君の理想だろう
君がどこにもいないなんて
僕が生まれてきた意味はもうないな
苦しくても生きてきた意味ないな
全部無駄だな
君がどこにも行かないよって
僕に言ってくれたのは
嘘だと知っていたよ
だから泣いてたんだよ
ソファーの上で眠る君
他人になってしまったのね
君の見え方が少し変わってゆく
嫌なとこ嫌な過去
無理に思い出して
自己防衛自己防衛
心に嘘をついている
自己防衛自己防衛
死んでしまわないための
自己防衛
君は君の思い通りに
僕の永遠になった
これからは僕の中で
僕や僕を愛する誰かの
胸の上でずっと眠るんだろう
君の勝ちだよ
僕のカブと君の自転車は
こんなに仲良しなのに
僕らは仲良くできないね
運命って残酷だね
僕の心臓は君に抱かれてないと
動かないようにできているのにホント
引き剥がす神の無能さにとうとう
呆れて開いた口塞がらないよ
高校生の頃に書いた
スナイルっていう曲があって
それと同じようなこと書いてる僕は
何にも変わらないな
同じことで悲しんで
同じことでまた泣いて
でも愛されてた嬉しさは
全てを上回って
僕はまたこの曲を何度も僕に聞かせて
何度も何度も泣かされてしまうんだろう
僕の心の奥は
誰にも見られちゃいけない
だけど君だけが見てしまった
君は君の望み通りに
僕の永遠になった
これからは僕の中で
枯れた僕の記憶の最上階で
誰かを愛するのを邪魔するんだろう
僕は君の胸の中で
死ねたのならよかった
でも叶わなかった
ごめんね
彼と行くんだね
僕のいない世界で
幸せになんかならないでね
僕の理想だよ
「高校生の頃に書いたスナイルっていう曲があって」
曲中で触れた『スナイル』はスリーピースバンド「シナプス」の1stアルバム『シナプス小胞』の2曲目に収録されている。
🎧サブスク 「シナプス」の1stアルバム『シナプス小胞』
https://album.link/vsxz6j3332ktb
『スナイル』歌詞
曖昧な言葉たちに任せ
簡単な罪は逃るる
散々なストーリー目の当たりにしたんだ
でも無問題(モウマンタイ)
なんなんだ
誰が僕の味方なんだ
1人で怖くないはずなんだ
なのに何故なんだ
どうして僕は泣いてるんだ
泣きたくなかったって
君は泣きながら言うよ
だから僕は泣き止んで
心で泣く
全部が嘘になる時
悲しみに負けました
終わらない言葉たちに
舌を抜かれました
遠のいた星が君を呼んでたんだ
そしてまたすぐ無くなった
一欠片すらも落ちてないな
何処にあんだ
だめなんだ
僕の夢は叶わないな
君の夢は叶うのかな
興味ないな
もう口が回らないな
間違ってしちゃったんだから
怒らずに僕を抱きしめてよ
僕のことを怒ってくれて
本当ありがとう
君は嘘になる時
口技を繰り出した
数えられるものたち
愛しくて泣けました
裏切られた記憶と
盗まれたその夢も
愛されていたことに
決して勝ることなかれ
【補遺】
▪︎デモ音源 (一発録り) 超雑ですが、オモロいです。
▪︎サビB案 (制作当初、サビ案には別のものもあった)
▪︎2nd 『ベランダ』 と5th 『しつこい』 の連関について
さらに一歩考察を進めると、今作は、詩全体に渡って、昨年リリースした2ndシングル『ベランダ』のパラフレーズにすぎないということに気づく。つまり、同じことを別の表現で歌っているだけである。『ベランダ』が陰、『しつこい』が陽となるように仕掛けを施した。これら2曲の連関が、最も顕著に表れているのは以下のフレーズである。これらはまるで、同一曲内における「部分」であるかのようにも思われるかもしれない。
🎧サブスク 2ndシングル『ベランダ』
https://friendship.lnk.to/Veranda
🎬MV 2ndシングル『ベランダ』
https://youtu.be/3vMdCxudiq4
▪︎太宰治の 『斜陽』 の制作手法からのインスパイア
太宰治は、出世作『斜陽』を書く際に、愛人、太田静子の回想録的な日記を下敷きにしたというが、実は今回の作品『しつこい』も、筆者が女の『感情日記』に目を通した際に発見した、以下のような「殺し文句」に強く方向づけを受けている。この瞬間をなくして、あのようなバースは生まれなかったといっても決して大袈裟ではない。
【CREDITS】
▪︎MUSIC
Produced by Beard
Composed by Beard & Suzunosuke Nakashima
Lyrics & Vocal : Suzunosuke Nakashima
Recording, Mixing & Mastering Engineer : Beard
▪︎MUSIC VIDEO
Directed by nana (https://www.instagram.com/__73world__/)
【More Info】
▪︎中島涼之介オフィシャルリンク
▪︎Beardオフィシャルリンク