そのぬくもりに用がある。

応答するな!応答するな!応答するな!


今年は自宅療養中Netflixのドラマ三体にどハマっていた。寝食も忘れてというがまさにやめどきその一切を失うほど。暫くして原作にもすっかりどハマりし、沼の二毛作といった様相を呈していた。

ドラマ版を先に触れて良かった、とあらためて思う。原作は元々中国の物語として構成されていて、登場人物も大半は中国籍。

それが実はネックであった。アジアでもお堅い印象の中国人。キャラがどうしても地味にみえる。正直壮大なストーリーに対して薄い。くわえて名前も覚えづらい。ビジュアルの雰囲気もとっつきにくい。

ネックであったその部分をキャッチーに活かすためにNetflix版では欧米人、舞台もイギリスと大幅な改変がなされた。しかし、原作へのリスペクトは決して失ってはいない。あれを世に広めるために妥協した程良き改変ともいえる。

少しネタバレになってしまうのでNetflix版三体を楽しみにしつつまだ観てない方はスルーして下さい。

作中余命いくばくもない末期癌患者が物語の重要人物として登場する。彼は友人が残した莫大な財産を相続し、静かな砂浜のコテージで余生を過ごす。好きな友人と好きなものを食べて好きなウイスキーを飲みながら。それがまたウイスキー好きならひっくり返るほどのレアもの。超長熟の銘柄ばかり飲んで余生を楽しんでいるのだ。

ちょうど化学療法真っ只中だった僕は完全にシンパシーを感じていた。僕には莫大な財産はないけれど、溜め込みまくったウイスキー開けてしまおうかと少し悩んだ。その頃の僕が願ったのは寿命を少しでも伸ばすこと、だった。それが叶うまいと叶わなかろうとも後悔してもいい。一向にかまわない。そこに一縷の望みを託していた。

昨日妹家族が面談のために遠路はるばる病院に来てくだすった。30分ほど面会し、おっきくなった姪っ子たちの頭をひたすら撫であげた。なんてプリティな生き物たちなんだろう。そこにきて旦那の一本芯が通ったまるで薩摩隼人のような人柄にグッときた。静岡県民なのに。都会にいると最適解をよりこなせる人が喜ばれる。だがそれって我々はどこか麻痺しちまってる証拠なのかもしれない。あの武士のような誠実さと信念を兼ね備えた人柄こそ現代に必要な要素に感じられた。

面談始まる前に水分が気道に入り、息は吐けるけど吸えなくなってしまった。先生から少しお話しいただくもあえなく1人だけ病室へUターン。情けないが妹夫妻に全てを委ねた。彼らの判断がどうでもあろうと受け入れる決断はできていたからだ。

ほどなく落ち着いてきたところで家族と再会。転院の話で終結したと。旦那がいろんな情報を調べ上げて得た先進医療をどうにか受けて欲しかったが、肺の現状は手の施しようがあるわけではもはやないと告げられたと。あとは転院先でゆっくり緩和ケアしながら余生を過ごす時間を送るしかほかないと。

妹夫妻は身を粉にして奮闘してくれた。それだけで十分だった。ありがとう、それでいいと告げた。旦那は最後まで妹のサポートをしながら懸命に寿命を伸ばす方法を模索してくれていた。最後まで。最後まで。妹も子供たちのことも大きく愛していた。そしてろくでもない義兄のことまで思い、尽くしてくれた。彼のような振る舞い、信念を旨とする男がいることに驚きを禁じ得ない。最適解とはコスパやタイパじゃない。貫くんだと岡本太郎のような覚悟を持った目をもつ男のことだ。

いつどうなるかは正直自分自身わからない。近いうちNetflix版のコテージのステージに突入する。転院先は新浦安のホテルが乱立する海が見えるあの辺りらしい。いいね。海が見えるなんて。それを知れただけでなんだか少し気持ちが晴れた。超長熟のウイスキーなんか置いてあったらグレートだな。

だから何も怖くないぜ。

いいなと思ったら応援しよう!