思想の断層(グローバリズムとナショナリズム)
オープニング
小泉政権からの継続的なグローバリズムは、「官から民へ」のスローガンのもと、規制緩和や民営化を推進し、国際競争力の強化を目指しましたが、実態は「国益の売却」や「国力の低下」を招く政策ばかりでした。
日米同盟を重視した外交政策を展開し、グローバル化に対応する市場原理主義と構造改革を柱とする新自由主義政策を特徴としています。そのベースとなった政策は何だったのでしょうか?
ワシントン・コンセンサス
ワシントンコンセンサスとは、ワシントンを本拠にしているアメリカ政府と国際通貨基金(IMF)および世界銀行との間に成立した合意のことを指し、IMFと世界銀行は、この政策パッケージを途上国向けの構造調整プログラムに採用し、融資条件として採用しました。
もともとこの言葉は、1989年に当時の国際経済研究所の研究員だった国際経済学者ジョン・ウィリアムソンによって用いられたものです。
この国際経済研究所は現在、「ピーターソン国際研究所」となり、このシンクタンクの客員フェロー(研究員)だったのが、小泉政権、安倍政権、菅政権で手腕を発揮した竹中平蔵です。
貿易と資本市場とを自由化することが理念に据えられ、規制緩和や「小さな政府」を目指し、自由化と民営化を迅速に行うことが重要視されました。
IMFは日本の財政健全化と社会保障制度の持続可能性を目指し、消費税率の段階的な引き上げを提言しています。
理由としては、高齢化に伴う社会保障費の増加や公的債務の安定化に対応するため「2030年までに15%」「2050年までに20%」への引き上げを推奨しているというのが表面上の話ですが、背景にあるのは「IMFに出向した財務省幹部の影響」や「ワシントン・コンセンサス」が想像できます。
これは、アメリカ主導の資本主義と経済開発政策を最適な形で進めようとする試みそのもので、竹中平蔵が国家戦略特区諮問会議の民間議員として参加した国家戦略特区は、ワシントン・コンセンサスの考え方に沿ったものといえます。
新自由主義は経済効率を高める点で社会の分断や格差拡大といった問題を引き起こしたため、過度な市場主導型経済からの脱却が進み、経済的効率性のみならず社会的公正も重視する声が高まっています。今度はグローバリズムの「歴史」を追っていきます。
三角貿易
大航海時代に始まり、欧米の植民地支配に端を発するモノカルチャー経済は、国際的な経済関係、分業体制、市場統合、そして環境問題など、現代のグローバリズムの原型を作りました。
東インド会社主導の三角貿易は、主にイギリスなどのヨーロッパ諸国による搾取的な貿易システムです。主な特徴は以下のとおり。
アフリカでの奴隷の調達:ヨーロッパ諸国はアフリカ大陸で黒人を奴隷として強制的に連れ出し、劣悪な環境下で安価に輸送。
アメリカ大陸での労働力搾取:奴隷はアメリカ大陸やカリブ海地域に運ばれ、プランテーションで過酷な労働を強いられる。彼らの労働力は綿花、砂糖、タバコなどの生産物に使われた。
原料の輸入と製品の輸出:ヨーロッパ諸国は植民地から安価に入手した原料を本国で加工し、完成品を高価で販売した。例えば、イギリスは綿花を輸入して紡績業を発展させ、綿織物を世界中に輸出した。
富の蓄積と産業革命の推進:三角貿易で得られた莫大な利益は、ヨーロッパ諸国、特にイギリスの産業革命を推進する資本となった。
この貿易システムは、アフリカとアメリカ大陸の人々から得た労働力と資源、生産物を活用し、ヨーロッパの富裕層が富を独占的にする政策でした。
これにより、ヨーロッパは経済的・政治的に優位性を確立し、世界支配を確立しました。産業革命の変遷は↓の記事でご確認ください。
グローバリズムの第一波は「戦国時代」に日本にやってきました。「世界の国々をキリスト教化」するために、宣教師は「国際金融資本」「グローバリスト」「外国人タレント」へと姿を変え、影響力を行使するようになりました。
↓は「大航海時代のヨーロッパ」と「戦国時代の日本」に焦点を当て、歴史を直線ではなく、「曲線(サイクル)」で捉えた有料記事です。未来予測にもつながる「文明法則史学」を取り上げています。
グローバリズム
グローバリズムは、世界を単一の共同体として捉え、経済・政治・文化の分野で国境を越えた統合思想です。
自由貿易、多国籍企業活動促進、国際金融システムの統合、文化交流の活性化などを通じて、国家間の障壁を取り除き、グローバルな協力と相互依存を推進します。自由貿易協定はこの思想の代表的な「取り決め」です。
同時に、経済格差や環境破壊といった問題の根源にもなっており、その解決は現代のグローバリズムにとって大きな課題となっています。
さらに反グローバリズムの潮流は特に経済的不安や移民問題の遺産、極右の台頭を助長しています。
反グローバリズムの特徴
経済的不安と極右化
経済のグローバル化が進む中で、先進国の中間層や低所得者層は雇用や所得の低迷にさらされています。これに対する不満が、反グローバリズムを掲げる極右から離れへの支持を強めています。
例えばフランスの極右から離れている国民戦線(現・国民連合)は、反グローバリズムや移民排斥を望み、多くの支持を集めています。
移民問題と極右化
移民の受け入れに対する反発も極端に抑えるための支持を拡大させる要因です。移民が増えることで宗教の問題や賃金、治安問題が激化し、これに対する不安が反グローバリズムと結びついています。
ポピュリズムと極右化
ポピュリズムは政治的スタンスが極端になりがちで、失業者や低所得者の救済を訴える一方で、反グローバリズムや移民排除を主張します。
特に「反ワクチン」や「反グローバリズム」の姿勢をSNSのプロフィールに明記したり、「パンデミック条約・反対」を訴えるデモの主要メンバーも「反グローバリズム」を訴える場面が多数見受けられます。それでは、グローバリズムの対極となるナショナリズムについて考えます。
ポピュリズムの台頭
ポピュリズムは経済停滞や格差拡大といった不景気な状況下で台頭しやすい傾向があります。リーマン・ショック後の経済停滞期に先進国で格差拡大が進行したことがポピュリズムの要因となっているとされています。
特に富裕層への富の集中だけでなく、低所得層の困窮と中間層の劣化を伴った格差拡大により、将来への不安や社会に対する不満が強まり、ポピュリズムは支持を拡大しました。以下の要因がポピュリズムを助長します。
雇用不安:グローバル化や技術の進歩により、多くの旧来型・単純労働型の雇用機会が消失。
所得低下:中間層の所得水準が低下し、低所得層へ転落する人が増加。
社会分断:経済的困難により、異なる価値観や文化を持つ人々に対して不寛容になり、社会の分断が加速。
既存政治への不満:既存政治への不満や政治不信の蔓延。
景気停滞による金融バブルの崩壊
債務不履行もしくは通貨の大量印刷
経済状況の悪化と生活水準の低下
民族的・人種的・宗教的グループ間の内部抗争の激化
ポピュリズムのリーダー主導による右派・左派の台頭
自国通貨からハードマネーや他国通貨などの資金移動
革命・内紛の勃発
日本は増税による政情不安からポピュリズムの台頭が始まっていると思います。「消費税減税」と「憲法改正」の声が一段と高くなっているのは日本が「衰退期」であることを表していると思います。
ナショナリズム
まず最初にナショナリズムが悪いというわけではありません。基本的に私は「愛国心(パトリオティズム)」=「祖国愛・郷土愛」とし、過度な思想をナショナリズムと捉えていることを留意ください。そしてナショナリズムは「国益主義」と捉えています。
ここで、日本におけるナショナリズム流行の兆しに伴い「ナショナリズム化のメリット・デメリット」を要約します。
ナショナリズム化のメリット
共通のアイデンティティの形成:共通の価値観を強調することで、共通のアイデンティティ意識を植え付ける。これにより、人々は「一体感」を持つことになり、コミュニティが形成される。
結束力の強化:国家や国民の利益を重視する考え方は、国民の間に連帯感を生み出し、結束力を高める。(ナチス・ドイツではヒトラーがドイツ人の優秀さを主張し、ドイツ人同士の結束を訴えた)
ナショナリズム化のデメリット
排他的:自国の文化や価値観を絶対視し、他国や他民族を排除する傾向がある。
過度の愛国心:健全な愛国心と極端なナショナリズムの境界が曖昧になり、他国との対立を生む可能性がある。
個人の自由の制限:国家や民族の利益を優先するあまり、個人の権利や自由が制限される場合がある。
国際協調の阻害:自国中心主義が強まることで、国際的な協力や理解が妨げられる可能性がある。
私は、この流れがいつか「憲法改正」に向かうのではないかと懸念しています。むしろ、それこそが真の目的であり、「反グローバリズム」や「パンデミック条約反対」は、共感や人を集めるための手段に利用しているのではないかと推測しています。
集団心理の形成
私たちの思い込みは現実認識を歪め、誤った特定のイメージを生み出します。その結果、混乱した世界観に陥り、事実と真実の関係がさらに不明確になってしまいます。それを強化するのが私が活動するSNSでは顕著に見られます。
その仕組みの中でも特に影響が強い「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」を取り上げます。
エコーチェンバー
ユーザーは自分と興味を持ち、人々が SNSでフォローし、類似した情報に「いいね」を付けます。これにより、SNSのアルゴリズムが個人の嗜好に合わせて情報を選別し表示します。
その結果、ユーザーは自分の意見を支持する情報にアクセスし、異なる意見を目に留めます。この方法が維持されることで、ユーザーの考えが強化され、偏りのある見方を排除することができます。
フィルターバブル
フィルターバブルとは、SNSが個人的な興味や過去の行動に基づいた情報を提供する似たような情報をタイムラインに乗せやすくしたり、興味のない情報を見せないようにする技術です。
これはユーザーの視野を狭め、自己同一性バイアスを増大させ、社会的断絶や偏見につながります。では、こうした状況下でSNSを活用する「メリット・デメリット」を取り上げます。
SNSのメリット
共感と所属感:同じ興味と価値観を持つ人々とつながることで共感や所属を得ることで安心感も得られる。
効率的な情報収集:特定の分野や話題に関する情報を効率的に収集可能。
コミュニティの形成・共通の関心事を持つ人々とのつながりを通じてオンラインコミュニティを形成できる。
SNSのデメリット
意見や思想の強化:同じ価値観や思想を持つ人が集まることで極端な立場をとる人々が増えることにより、過激な発言やいじめなどの問題行動につながる可能性がある。
誤った意思決定:限られた情報や偏った視点に基づいて判断を下すことで、誤った意思決定や行動選択をしてしまう危険性がある。
社会の分断:異なる意見を持つ人々との意見の対立が顕著になり、社会の分断を深める傾向がある。
バイアスの強化:自分の意見が正しいという確信が増幅され、他の意見や思想に排他的になる。
メディアは、もともと私たちに備わっている「10の思い込み(本能)」を利用して、「そう思わせる」情報を発信します。TVが洗脳装置と揶揄される理由であり、今は、その舞台がSNSに変わりつつあります。
フィルターバブルやエコーチェンバーの弊害を軽減するためには、意識的に多様な意見や情報源に触れる努力が必要です。
また、批判的な思考を養い、自分の意見や情報源を常に検証する姿勢が求められます。SNSを利用する際はこれらの点に留意し、バランスの取れた情報収集と交流を心がけるようにしてください。
また、集団心理には個人の善意や利他的な行動を取り入れながら、同時に集団内での自己固定傾向を強める特徴があります。
つまり、個人レベルでの思いやりの心が、集団レベルでは逆に自己利益を追求する姿勢に変質してしまうのです。
エンディング
個人が抱く純粋な理想や信念は、集団の中で共有されるうちに、しだいに硬直した集団主義へと変化していきます。本来は柔軟であるべき理想が、集団の中で絶対的な教義のように受け入れられるのです。
人々が集団に深く帰属意識を持つようになると、自分自身を集団で明確に視るようになります。この過程で個人が批判的に物事を見る能力を失うことになります。
このように、集団心理は個人の良心を集めるものであり、結果として否定的な側面を生み出す可能性があります。日常生活と精神活動の調和を保ち、個人の意識と集団の動きのバランスをとることが重要です。
ルネッサンス期の概念の監獄:類似や関係性
古典主義時代の概念の監獄:表象の分析と比較
近代の概念の監獄:生命と人間
現代から未来の概念の監獄:人間の終焉
人間社会は権力によって作られた「構造」によって支配されていると主張したミシェル・フーコー。各時代ごとの「常識」や「既成概念」が「マトリックス(概念の監獄)」になっています。
↓の記事の有料部分は「概念の監獄」を扱ったミシェル・フーコーについて取り上げています。無料部分でも「実存」をテーマにした内容を読むことができます。ぜひ、この機会にご一読ください。